定年延長で65歳まで働ける」と言われても、安心できるわけではない。むしろ“出世した勝ち組”と呼ばれた部長や課長ほど、役職を降りた後の再雇用で苦労するケースが多い。50代以降も「会社に必要とされる人」になるにはどうしたらいいのか。『再雇用という働き方 ミドルシニアのキャリア戦略』(PHP新書)から一部を紹介する――(第2回)。

■役職定年しても同格の専門職につく理由

これからのミドルシニア雇用の鍵を握っているのは各企業の人事制度である。年齢による画一的な処遇、働き方を主体的に選択できないこと、ポストオフ後の長いキャリアなど、顕在化している課題をどのようにすれば解決していけるのだろうか。人事制度の現状を確認し、これからのあるべき姿を明らかにしていきたい。

ミドルシニア社員に関係する人事制度として、定年制度と合わせて重要なのは役職定年制である。労務行政研究所の調査によると、3割程度の企業は役職定年制を設けており、一定の年齢になったときにポストオフをすることを制度的に認めている。

部長職や課長職の人が役職定年した後、職位はどうなるのか。役職定年をした後は、概ね同格の専門職につくといったケースもあれば、役職定年前と比べて格下の専門職やライン職につくといったケースもあるだろう。

ポストオフをしたのに、なぜ同格の専門職につくのかと違和感を持つ人もいるかもしれない。これは横スライドと呼ばれる措置である。つまり、管理職から外すことによって役職手当はなくなるが、基本給まで大きく下げてしまえばその人の生活に大きな影響が生じてしまうため、給与を過度に下げないためにしばらくは同格の専門職としておくのである。

■結局、再雇用で給与は激減する

専門職というと特別なスキルを持つ人を想像するかもしれないが、ここで言う専門職とは、担当部長や専任課長など、いわゆる組織長ではない管理職を指している。つまり、専門職と銘打っているものの、それはあくまで名目上であり、実態としての中身は専門的な仕事とは異なるものとなっている。企業の制度上の仕組みでは、管理職以外に高位の役職につけるのが専門職しかないため、このようになっているのである。

しかし、同格の専門職でいられる期間は長くはない。部長だった人ならば、ポストオフの時点では担当部長などの肩書を与えてワンクッション置いたとしても、2〜3年経過して定年を迎えれば、その役職も外れて給与も急激に下がることになる。

写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
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課長職に関しては、役職定年を厳密に運用し、その後すぐに現場でこれまでのスキル・経験を生かして働く社員へと移行させる傾向がある。部長職のほうが、適切な後任がいないなどと理由をつけ、ポストオフをせずに同程度の役職を定年直前まで引っ張るのである。あるいは、ポストオフをしても、先述のようなポストで後進の部長を育てるといった特別ミッションを与えるなど、現場で働く社員への移行に躊躇するケースが多い。

しかし、実際に大企業で行われている人事をみると、こうしたワンクッション置くような運用は必ずしも望ましいものとは言えない印象を受ける。

■役職定年制の本質的な役割

特別なミッションというと聞こえはいいが、特別な役割を任せているという大義名分の下で給与水準を守り、実際には現場のサポート的な業務しか与えていないことが多いからだ。組織図では部長付きであるものの、社内の重要な会議には出なくなり、新しい部長から依頼されれば業務が発生するといった形で、利益を創出する業務もなくなってしまう。

中小企業であれば、ポストオフはすなわち現場で働くということである。中小企業では部長といえどもプレイング要素を含んでいることが多いため、役職を降りたらそのまま現場で働く。

ここまで役職定年制と関連付けて説明を行ってきたが、役職定年制がない企業でもこの構造はあまり変わらない。つまり、役職定年制がなかったとしても、どこかの時点でポストオフをする運用としているのである。そういう意味では、企業にとって役職定年制の有無は実は重要な問題ではない。

ただ、役職定年制は働く側にとっては大きな違いがある。

働く側にしてみれば、役職定年が55歳や57歳と設定されていたら「いずれ自分は降りる」という覚悟ができ、その後の準備も始めやすい。役職定年がないと、いつ降ろされるのかわからない。また、今後もずっと部長や課長でいられるような期待を持ってしまい、その後の準備が遅れることになる。

■自分がポストを降りるとは思わない

筆者が統括部長をしていた頃、部長の年齢層が高かった。経営側として組織の若返りを志向していたことから「今後はもうちょっと若手に切り替えていきますよ」と伝えると、年上の部長も含めた全員が「そうだよね」と言ってくれたが、「ではすみませんが、来年降りてくださいね」と告げると、「なんで自分が?」「なんか悪いことした?」「なぜ自分からなの?」と激しく動揺した部長もいた。

早めにポストを降りて次の世代にバトンを渡す。この発想自体は役職者からも賛同してもらえる。ところが、いざ自分がポストオフされると「なんで自分が?」とショックを受けてしまうのである。このような現象は、どの企業にも起こっているのではないだろうか。

写真=iStock.com/kuppa_rock
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人は誰しも客観的な評価はできないものである。「自分は優秀なので会社は長く使いたいはずだ」という感覚を持っている人は多い。こうした点を踏まえれば、ポストオフの衝撃をやわらげる意味でも、その時期を決めておくことには意味があるのではないかと思われる。

■部長の方が現場が「怖い」

また、部長と課長ではポストオフの感覚が異なる。課長職の中には「マネジャー職はもういい。早く現場で働きたい」と言う人も少なくない。プレイングマネジャーという日本企業に多く見られる仕組みの中で働いてきた課長職の人々は、ポストオフ後は現場で働くイメージを持っているため、あえて役職にしがみつかない人も多い。部長職の人が現場に戻ることを怖がり、「自信がない」と感じる人が多いのとは対照的である。

定年後の働き方を主体的に選択していくためには、定年前から、定年後に現場で働くための準備期間が必要となる。プレイングマネジャーだった課長職や現役時代にずっとプレイヤーだった人に関しては、定年後にプレイヤーとして現場で活躍してもらうレイヤーへとスムーズに移行してもらうことが可能である。現場仕事に慣れていれば、働き方も主体的に選択できるだろう。

出所=『再雇用という働き方』(PHP新書)

部長や課長など組織をマネジメントする役割を降りる年齢が定められている企業の割合は、人事院が実施した2007年「民間企業の勤務条件制度等調査結果」(図表1)によれば、従業員500人以上の企業で36.6%である。

■役職を降りる時期が遅くなることの弊害

図表2は、人事院が調査した「民間企業における役職定年制・役職任期制の実態」である。部長、課長などの各役職者が役職定年に達する年齢を見てみよう。

出所=『再雇用という働き方』(PHP新書)

役職定年の年齢は55歳が最も多く、57歳までが約8割を占めている。

別の調査結果も見てみよう。図表3は、年齢別に部長・課長・係長の役職についている人の割合をとったものである。役職定年制度と連動したものではないが、課長は40代後半から50代前半、部長は50代後半がポストオフのピークとなっている。役職定年の年齢をしっかりと決めていない企業でも、運用実態として役職から降ろしていると考えられるが、やはり課長のほうがポストオフするタイミングが早く、部長とは5年くらいの差がある。

出所=『再雇用という働き方』(PHP新書)

課長の割合は、50代前半から50代後半にかけて25.5%から18.2%まで一気に下がる。50代後半から60代前半にかけては18.2%から3.5%に下がり、ほぼすべての人が役職を降りる。その理由としては、経営/人事が課長に対しては役職を降りても現場で働いてもらうイメージを持ちやすいことがあるだろう。定年より早めに解放してあげないと、新しい仕事に向かう意欲が湧かなくなる。だから50代前半からポストオフしていくのだと考えられる。

■部長は無理やり定年まで引っ張る

一方、部長の割合は、50代後半になっても急激には下がらない。50代後半から60代前半まで引き延ばし、定年前後でポストオフする傾向が強い。これは部長まで経験した人に現場で働いてほしいとは言いづらく、現場仕事を任せにくいことも理由だと思われる。

写真=iStock.com/kazuma seki
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実際、大手企業では、そのような話をよく聞く。ミドルシニアの雇用に関する企業からの相談は、「ポストオフ後の部長はどうしたらいいですか」という内容が圧倒的に多い。課長はプレイングマネジャーが多いので現場で働いてもらうイメージが湧くが、部長はイメージが湧かない。多くの人事がそのように話しているのである。

部長経験者にどのようにして現場で働いてもらうのかわからないため、無理やり定年まで引っ張っているというのが多くの企業の実態であると思われる。だから、部長以上はポストオフのタイミングが遅くなっているのである。

■企業側の本音は

しかし、今後は65歳あるいは70歳まで雇用されることが前提になってくる。部長に対しても、もう少し早くから現場で働いてもらおうという認識が強くなってくる。管理職として本当に優秀な部長は早期に降ろすことはないと思われるが、他の部長に関してはポストオフ年齢が早まっていくだろう。

坂本貴志、松雄茂『再雇用という働き方 ミドルシニアのキャリア戦略』(PHP研究所)

定年延長をする企業も増えてきているが、部長や課長などの役付きの期間が長くなるかといえば、必ずしもそうではなく、選別されると考えられる人事の方向性は2つある。ひとつは優秀な人であれば年齢で区別すべきではないという考え方。もうひとつは、部長をそのまま全員残したら若手がポストに就く機会が失われてしまうので、もっと早期に若手を登用したいという考え方

この2つの考え方があるので、本当に優秀な人は60歳を超えても役職にそのまま残す、パフォーマンスが発揮できていない人は早めに降ろして若手の登用に切り替えていく。この両方の理屈によって今後は二極化が予想される。

企業としては、定年を延長するから部長や課長を長く続けられるとするのではなく、ごく一部の人は長くポストに居続けられるが、多くの人はむしろ早めにポストを離れ、ポストオフしてから65歳の間は現場でプレイヤーとして活躍してもらうという流れが強まっていくであろう。

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坂本 貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員/アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。著書に『統計で考える働き方の未来 高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書)、『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社現代新書)、『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)など。
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松雄 茂(まつお・しげる)
コンサルタント
1986年リクルート入社。88年、現リクルートマネジメントソリューションズにおいて人材育成・コンサルティングの営業を行う。東海地区において、自動車メーカー、自動車部品メーカー、インフラ系企業など数多くの大手企業を担当。93年から企業の役員向けコンサルティングなどを行うコミュニケーションエンジニアリング事業を経て、首都圏の3000人超の企業を担当する営業部長、そして営業組織全体を統括する営業統括部長へ。約160名の営業系従業員のトップとして経営会議メンバーとなる。2018年からはポストオフし、営業支援、トレーナのトレーニング品質向上支援、商品開発支援、お客様支援、難度の高いお客様のマネジメント課題に関するソリューションサポートを担う。トップマネジメント伴走支援、ミドルマネジメント育成支援、女性活躍支援、シニア社員活躍支援、事業成果支援、理念浸透など。現在、2025年より独立をし、リクルートマネジメントソリューションズのパートナーとして、企業研修設計、コンサルタントを行う。
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(リクルートワークス研究所研究員/アナリスト 坂本 貴志、コンサルタント 松雄 茂)