アップルの新社屋にも納入された「HIROSHIMA」の正体
船旅の種類も、海からしか行けない世界自然遺産の小笠原諸島など南の島を回るもの、熊野の花火大会を船上から観賞するもの、豪華客船での国内クルーズを体験するものなど豊富だ。
私が注目しているのは、17年秋から運航開始のせとうちクルーズの「ガンツウ」だ。航路は全て瀬戸内海で、季節に合わせて2泊から3泊まで選べる。海に浮かぶ宿といったしつらえで、船内のデザインには木材がふんだんに使われている。印象的な船体には大きな切り妻屋根がかかり、船首にはオープンデッキが広がる。左舷側の深い軒下には縁側が設けられており、腰かけながら瀬戸内海の風景をゆったりと鑑賞することができる。
海外から注目を集めたのはHIROSHIMAという名前の力も大きかったのではないだろうか。いすのデザインも素晴らしく、木素材でありながらまるでクッションがあるかのような座り心地を実現できたのは技術のたまものだ。しかしもしこの名前でなかったら、ここまで注目はされなかったかもしれない。名前もデザインの一つという好事例だ。
ガンツウに話を戻そう。インテリアにとどまらず、提供する食事もレベルが高い。東京の老舗が監修したメニューは地元の魚や食材で構成されており、地酒も楽しめる。
宿泊費は最低40万円で飲食代などもオールインクルーシブ。新しい旅の在り方に魅了されたリピーターも多いと聞く。地元の粋を集めてトータルにデザインされた船旅は、観光産業の枠にとどまらず、地元のブランディングにも威力を発揮している。(見月伸一・三井デザインテック・デザインマネジメント部長)
