「この子、俺に気があるんじゃ…?」

男は何故すぐに、そう思い込んでしまうのだろうか。

周囲を見渡して見ても、やはり女性より男性の方が“脈あり”を客観的に判断できない傾向にあるように思う。

今この瞬間も、男たちの一方的な勘違いにより被害を被るアラサー女子は後を絶たない。

これまで高級鮨屋での惨劇、勘違い既婚男、車自慢男、「俺のこと待ってたよね」男、金目当て認定の男をお届けした。さて、今週は?




【今週の勘違い報告】

名前:西嶋彩花(仮名)
年齢:28歳
職業:キー局アナウンサー


勘違い報告Vol.6:「トロフィーワイフ狙いなら、他を当たってください」


「この仕事をしていると、正直よく出会うんです。…女子アナやモデルのようなトロフィーワイフを手に入れようと、躍起になっているようなタイプの男に」

グランドハイアット東京『フレンチキッチン』のテラス席で、今回の報告者・西嶋彩花は事もなさげに吐き捨てた。

28歳という年齢にはとても見えない、幼さの残る顔立ち。セミロングのストレートヘアに好感度抜群のナチュラルメイク。

清純を絵に描いたようなルックスでありながら、見るものをドキッとさせる毒や色気も垣間見せる彼女。自らは決して意図していないのに、自然と知性が滲み出るような女性だ。

「実は先日もある男性からディナーに誘われたんですが…正直彼も、私っていうかとにかく女子アナとデートしたいんだなーって感じでしたね。気になってた『鮨 在』の予約を取ってくれたのでOKしましたけど」

それなりに売れっ子である彼女は、仕事もかなり忙しい。

オファーは数多くあっても行けないことの方が多いが、タイミングさえ合えば誘いに乗ることもあるらしい。ただし「店による」との事だが…。

「その彼と話していて、私ある事に気がついてしまったんです。女子アナやモデルばかり狙う男の人って、共通点があるんですよね」


究極にモテる女子アナ・彩花が発見した、トロフィーワイフ狙いの男の共通点とは


ちなみに今回彩花を誘ってきた相手というのは、33歳の若手起業家・早川誠。

彩花から聞く情報によると、1年ほど前に早川がリリースしたヘルスケア系のアプリが、美意識高めの男女の間で大ヒット。にわかにメディアへの露出も増え、業界で一躍有名になった男らしい。

さらに最近は不動産投資の才覚を表し、都内の中古物件をセンス良くリノベーションして売却するというビジネスでも財を成しているという。

「早川さんと食事に行くのは2回目。若くして成功したやり手の起業家なので、彼の話は勉強になるんです。ただ、もう次誘われてもお断りしようと思っています」

あっさりと断言した彩花。というのも、彼女には現在付き合って2年になる彼氏がいるのだ。

相手はスポーツ選手か、はたまたどこかの御曹司か、もしくは著名な経営者…?しかしながら彩花の彼氏は、意外にも普通のサラリーマンだという。

「大学時代の同級生です。仕事は外資系コンサルティングファーム。意外ですか…?」

彩花はそんな風に尋ねると、どこか楽しそうに「うふふ」と笑う。そして再び凛とした表情を見せると、真顔のままこう続けるのだった。

「私、やっぱり自分に自信のない人は無理だって痛感したんです。人に自慢できるようなトロフィーワイフを求めたり、虚栄を張ろうとするのは自信のなさの表れでしょう?」




彩花がそんな風に語るのは、もちろん早川との一件があったからだ。

『鮨 在』の席で、彩花は彼の言動に辟易してしまったのだという。

「二人並んでカウンターに座り、まずはつまみからスタートしてまもなくのことです。早川さんがおもむろにスマホを取り出して…写真撮影を始めたんです。さらにはスマホのメモ帳に、出てきたネタの順番なんかもメモったりして」

もちろん事前に大将に確認をとり、シャッター音のしないアプリを使ってではある。

「SNSに載せるつもりなのかな?と不思議に思いながらも、気にしないフリをしていました。そしたらしばらく経ってから、彼が弁解するような口調でこう言ったんです。『すべて写真とメモに残して、後から復習するんです』って」

つまり彼はSNSに載せるために写真を撮っていたのではなかった。どんなネタがどんな状態で出てきたかを記録しておき、自らのグルメ偏差値を上げるために撮っていたのだった。

「まあ、よく言えば真面目な人なんでしょうね。でも私はそんな彼の姿に若干引いてしまいました。なんていうか…必死で“いい男”になろうとしている感が、苦手だなって思ってしまったんです」

彼は何も悪いことはしていない。ただ彩花の目には魅力的に映らなかったというだけだ。

彩花が付き合っている外コンの彼は、別に鮨屋にも鮨ネタにも詳しくない。だが別に“知らない”ことを恥じたりしないし、逆に“知っている”ことを鼻にかけもしない。

彩花にとっては、そういう自然体な態度の方がよっぽど素敵に見える。

しばらく考え込むようなそぶりをしたあと、彼女はその知的な眼差しをこちらに向けた。

「学生時代からカースト上位にいた人とそうでない人って、大人になってもなんとなくわかってしまうものですよね。男でも女でも、昔からモテてきた人は自分に自信がある。つまり、そのままでも自分に十分魅力があることを知っている。そういう人は隣に立つ異性に肩書きを求めたり、見栄を張ったりしない。そんな必要ないからです」

そう言って彼女は、静かに言葉を切る。そして落ち着いた表情を崩さぬまま、鋭く核心をついた発言をするのだった。

「…でも早川さんはおそらく、ずっとモテない人生を歩んできたのだと思う。バカにされたくない、すごいと思われたい。その執念で、きっとここまできたんですよ」


結局、根っからのモテ男には敵わない。しかし諦めない早川は、彩花に“勘違いなセリフ”で迫る


そんなわけで彩花はその夜、早々に早川を“対象外”に認定した。女が一度シャッターをおろしてしまうと、そこからの挽回は非常に困難である。

しかし、さすがはアナウンサー。

内心の幻滅を決して顔に出すようなことはしない。それゆえ早川は鮨ネタと日本酒が進むにつれ、必死で彩花を口説いてきた。




「最近、その辺のOLとかとデートしても全然つまらなくてさぁ。一緒にいて学びが何もないから、途中で飽きちゃうんだよね。やっぱ俺、頭のいい子じゃないと無理だ。彩花ちゃんは美人で頭も良くて、何よりセンスがある。…俺としてはもう、パーフェクトなんだよ」

「そんな…ありがとうございます」

「うふふ」と笑ってみせながら、彩花はさりげなく早川の言葉を受け流す。しかしそんな彩花に、彼はこの夜さらに詰め寄った。

「じゃあさ、いくら稼げばいい?」
「何をしたら俺と付き合ってくれる?」
「教えてくれたら、俺頑張るからさ」

−だから、そういう問題じゃないのよ…。

めげることなくしつこく食い下がる早川のセリフに、彩花は心の中で深々とため息をついた。

「トロフィーワイフが欲しいなら他をあたった方がいい。彼と同じような考え方をし、異性に肩書きを求めている女性もいます。でも私は違う」

早川が今後いくら稼ごうが、自らの気を引くために何をしてくれようが、彩花の中で彼の評価が上がることはもうない。

早川と同じように、彩花だって男性にセンスを求めているから。

そして一般的に、彩花も含めハイレベルと言われる女性ほど、男性にセンスを求める傾向にあるようだ。

センスはお金で買えない。それまでの長い人生で培ってきた経験値の結集だ。

30代を過ぎてからいくら取り繕っても武装しても隠しきれないその本質こそを、ハイレベルな女たちは注意深く観察している。

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「そのプライド、要る?」上から目線を崩せない勘違い男

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