「子ども2人、専業主婦の私は勝ち組」ベストな選択と信じ、会社を辞めた女の現実
この街では、誰しもが“コンプレックス”を抱えて生きている。
あなたも身に覚えはないだろうか?
学歴、外見、収入…。どれだけスペックを磨き戦闘力を上げても、どんなに自分を取り繕っても、何かが足りない。「劣っている」と感じてしまう。
…そう、それがコンプレックスだ。
先週は「どうしても高収入男子と結婚したい」と豪語する女を紹介した。
今週は「専業主婦であること」に引け目を感じている、小澤ゆかり(32歳)の例をお届けする。

小澤ゆかりのコンプレックス:「自分の収入がない」
初めまして。小澤ゆかりです。
年齢は32歳。夫と、4歳の息子と1歳の娘がいます。
現在は専業主婦。2人の子供の世話と家事が、私の主な仕事です。
「このご時世に、専業主婦なんて恵まれている」
そんな風に思う方も多いのでしょうか?
たしかに夫は大手総合商社に勤めており、年収は1,300万円。子供の将来や老後を考えれば贅沢は出来ませんが、私に職がなくても生活が逼迫することはありません。
けれど実は二人目を妊娠する前は、私も息子を保育園に預けて働いていたんです。
人材派遣会社の営業で、成績も良く社内でも評価されていたから、一度目の妊娠・出産で嫌な思いをすることもなく職場に復帰しました。
時短勤務で任される仕事の範囲は減りましたが、育児との両立を考えると不満はありませんでした。
正社員として復帰できること、早めに息子のお迎えに行けることが有り難かったからです。
家事・育児・そして仕事。両立は本当に大変でしたが、そのぶん充実もしていました。
そう。その後、娘を妊娠して…まさかの「マタハラ」に遭うまでは。
充実していたゆかりの生活を脅かしたのは、ある男の存在だった。
あれは、娘の妊娠が発覚する数ヶ月前のことです。
新しい男性上司がやってきたことで、私の立場は一気に変わってしまいました。
その男性上司のスタンスは、言ってみれば昭和。残業や飲みニュケーションを重視し、根性論で仕事を語るような。さらには「女性は妊娠したら家に入って子供を育てるべき」という価値観が透けて見えるような人でした。
息子を育てながら働く私に何度も否定的な発言をしたり、事あるごとに専業主婦だという自分の妻を引き合いに出したり。
そして、私を目障りに思っていたに違いないその男性上司は、娘の妊娠が発覚した途端…露骨に退職を迫るようになったのです。

「子供が1人ならまだしも2人だと負担も重くなるだろう。仕事、ちゃんと出来るの?」
上司の強い論調に流され、同僚たちまで私によそよそしい態度を取り始めた時は心底残念に思いました。
おまけに第1子の時と違って、娘の妊娠時は悪阻もひどかったのです。
仕事はとても好きでしたし、やりがいもあった。けれどお腹の子のためにもこれ以上のストレスは良くない。
そう考え、私は自分の意思で退職を選択したのでした。
退職後の生活
そうして私は仕事を辞め、夫の扶養に入りました。
保育園児であった息子は幼稚園へ行くことになりました。
専業主婦としての毎日は、とても平和に過ぎていきます。
13時半には娘を連れて息子を迎えに行き、公園に立ち寄り、ママさんたちと交流。
抱っこ紐の娘を気にかけながら、元気いっぱい馳け廻る子供達を眺める。子供達にお菓子をあげたり、ママさん達とお喋りをしたりしながら体力が尽きるまで遊ばせます。
家に帰り、下ごしらえを済ませておいた夕飯を作る。
わんぱく盛りの息子はあっという間に部屋を散らかし、しかし私はそれを止めるパワーもなく、娘をおんぶしながらキッチンに立ちます。
慌しい夕飯が過ぎても、子供たちをお風呂に入れても、まだ夫は帰ってきません。
あっという間に過ぎていく1日。
私にはやらなくてはいけないことが沢山あるというのに、ふと「あの時、仕事を辞めていなければ」という考えが頭をよぎります。
2人の子供にも恵まれ、働かずとも経済的な不安がないことに感謝すべきだとは思っています。
けれど...。
ただ子育てだけをしている自分に、私はどうしても自信が持てないのです。
自分に自信が持てない。専業主婦・ゆかりがコンプレックスを強めていった理由
仕事を辞めて私が失ったのは、毎月のお給料だけではありません。
「経済的に自立している」という誇り。仕事から得ていた達成感や充実感。社会人として評価される喜び...。
こういった前向きな感情が、私たち夫婦の関係を良好に、そして平等にしてくれていたことに、退職して初めて気がついたのです。
夫が私を見下したり、侮蔑の言葉を発するようなことはありません。
けれど…私が仕事を辞めた後、少しずつ私の意見を軽視するようになったのは事実でした。

「いいなぁ、ゆかりは家でのんびり出来て」
夫の口からそんな発言が飛び出した時には、さすがに絶句しました。
思わずいい返そうにも、ちょうど娘が泣き出したり、息子に「ママぁ」と呼ばれたり。そんな暇も気力もありません。
子供たちを優先していると、悔しい気持ちをグッと飲み込むことが癖になってしまいました。
自由になる収入がないから、贅沢に罪悪感を覚え、自分の買い物も遠慮して貯金を切り崩す日々。
そんな風にして私の自尊心は、少しずつ少しずつ剥がされていってしまったのです。
私は何一つ、引け目を感じなくて良い
そんなある日。
土曜日もゴルフに出かけてしまった夫に何も言えぬまま、息子のリクエストで娘を連れ公園に行くと、顔見知りの親子をたくさん見かけました。
「小澤さん?」
声をかけられ振り返ると、息子の幼稚園で見かけたことのあるママさんでした。会えばいつも感じよく挨拶をしてくれる、素敵な人です。
息子と同じ幼稚園に通う2人の女の子のほか、さらに小さな赤ちゃんまで連れています。計3人の子供をたった1人で面倒見ている彼女の姿に私は驚き、目を見開きました。
私の方はもう、2人の子供の世話で疲労困憊だったからです。
聞けば彼女の夫も多忙で、平日はほぼワンオペ育児だそう。
それなのに彼女は幼稚園の係もきちんとこなすし、子供たちの習い事にも積極的。さらに休みの日にはこうして公園に出向き、一人で子供を遊ばせているのだ。
「本当にすごいよね...」
そう思わず呟いた私に、彼女は驚いた様子でこう言ったのです。
「何言ってるの、ゆかりちゃんだって同じじゃないの。いつも1人で子供2人見てるし、毎日すごい頑張ってるじゃない」
「え…?」
「ゆかりちゃんのところも、パパ激務なんでしょ。それなのにいつも子供達に優しく接してるし、本当にエライよ」
一瞬「私なんて…」という言葉が出そうになりましたが、そこでハッと気がつきました。
私はどうして自分の頑張りを素直に認めてあげられないのだろう、と。
客観的に見ることのできるお友達の頑張りは、こうしていくらでも評価してあげられるのに。
幼稚園児が2人、それに赤ちゃんを朝から晩まで1人で責任を持って世話をする大変さ。誰かが病気になればきっと寝る暇もない。そんなお友達の生き様は素直に尊敬できるのに、なぜ同じことをしている自分をきちんと評価してあげられなかったんだろうー。
偶然公園に居合わせたママさんの一言で、私の意識は変化しました。
自分は2人の子育てをして、家を必死で守っているじゃないか。
育児だって立派な、そして尊い仕事です。社会人の時のように、分かりやすく他者から承認されないだけ。
だからこそ、他の誰でもない、私自身が私を承認してあげなくては。そのことにようやく気がついたのです。
するとその瞬間、心の奥底でずっと引っかかっていた前職の男性上司のこと、そして夫の態度なんかもどうでもよくなっていくのがわかりました。
誰かに評価される必要なんかない。私が私を認めてあげられれば、それでいい。
失ったもの、手放したものにいつまでも囚われるのはやめよう。ちゃんと、前を向いて生きよう。
他人の目には、些細な出来事だと思われるかもしれません。
しかしこの小さな心の変化は、この後の私の人生を大きく変えるきっかけとなったのです。
▶NEXT:7月5日 金曜更新予定
最終回。顔、仕事、恋愛…多くのコンプレックスを抱える、29歳OLの物語。

