「君程度なら、セカンドで十分」ハイスペック男子が、本命女に求める条件とは
「女の価値は、顔でしょ?」
恵まれたルックスで、男もお金も思い通り、モテまくりの人生を送ってきた優里・29歳。
玉の輿なんて楽勝。あとは、私が本気になるだけ。
そう思っていた。
だが、30歳を前に、モテ女の人生は徐々に予想外の方向に向かっていく…。
先週、政治家の御曹司・康一郎から「愛人にならないか」という、とんでもない告白をされた優里。彼の思惑とは…?

「はぁ…」
久しぶりに食事会に参加した優里は、大きなため息をついた。
銀座コリドー街で、飲み放題付き3,500円コースの店だと分かった時にはドタキャンしようかと思ったが、出会いは一つでも多い方が良いと思って参加したのだ。
が、完全に失敗だった。
−ああ、帰りたい…。
頃合いを見計らって帰ろう。あと少しの辛抱だと思っていたところに、ビールのジョッキを持った男がテンション高く近づいてきた。
「楽しんでますかぁぁ!?イエーイィィ!」
優里が白い目を向けると、「めっちゃかわいいじゃん。名前は?俺、ヒロキ!よろしくぅ!」と言って、隣に腰を下ろした。
そして、すかさず優里の腰に手を回す。
「うわー、ヒロキ先輩、さすがっす。チャラいっすねー」
他の男から入ったヤジに、ヒロキは「んなことねーよ」と嬉しそうにしている。
しかし彼らが口を開くたびに、優里の頭が痛みだすのだ。
―どうせ元々は根暗な男が、チャラいと言われたくてイキっているのね。イタいわ…
中二病継続中、社会人デビュー男なんかお断りだ。
が、しかし。
−もしかして、私の需要って、こんなレベルの男なの…?
最近、立て続けに悲劇が起こったこともあり、絶望的な気分に陥る。
それはついこの間のこと。人生で最悪と言っていいほど屈辱的な夜を、優里は思い返すのだった。
優里にダメージを与えた、康一郎の愛人になってくれない?発言の真相とは?
理解不能の、一途アピール
「優里ちゃん。僕の愛人になってくれない?」
先日のデート中。
康一郎の口から飛び出したのは、とんでもない告白だった。
「あ、愛人…?どういうこと…?」
全く理解出来ない。康一郎は何を言っているのだろうか。
優里が真意を確かめるべく聞き返すと、彼は何食わぬ顔で同じことを繰り返す。
「だから、僕の愛人になってほしい。彼女にするのは無理だからさ」
酔っているのだろうか。そんなに飲んでいたとは思えないが、もしかしたらものすごく酒に弱いのかもしれない。
「お水でも飲んだら?酔ってるんじゃない?」
すると、彼はグラスに入った水を飲み干し、もう一度「愛人になってほしい」と口にするのだ。
3回も同じことを言われると、さすがの優里も困ってしまう。
「愛人って…。彼女は無理ってどういうこと?理解出来ないんだけど…」
すると、康一郎は、理路整然と説明を始めたのだ。

「優里ちゃんも知ってる通り、僕の家族は政治家だらけで、将来的には僕もその道に進むと思う。
で、結婚相手というのは、基本的に親が決める。すでに婚約者というか…許嫁がいるんだ。愛する人も選べない…辛いよな」
康一郎は、同情を誘うような話し方で、物憂げに遠くを見つめている。
確かに、一般家庭に生まれた優里には理解出来ない不自由さはあるのだろうが、だからと言って愛人を打診してくる精神は全く分からない。
「へ、へぇ…」
「妻は選べない。けど、優里ちゃんとは一緒にいたい。だから…」
分かってくれよという顔で理解を求めてくるが、さすがに意味不明だ。失礼にもほどがあるし、完全に見下されている。
優里は、とうとう声を荒げてしまった。
「愛人になってなんて、最初からセカンドってことでしょ!?失礼だと思わないの!?」
「落ち着いて。僕は政治家の家で育ったから分かる。皆、愛人の一人や二人いるものさ。でもね、僕は優里ちゃん一人を愛し続ける。誓うよ」
そして、優里の手を握りしめてきた。
優里は、自分を都合の良い女にしようとしている康一郎に、心底腹が立った。しかし自分は、こんな口車に乗せられるほどバカじゃない。
この、自信過剰でアホな男の鼻をへし折ってやる。
一途アピールされたところで、所詮はセカンドだ。それに、政治家の愛人一般論なんか話されても、ただの言い訳にしか聞こえない。
愛人だか何だか知らないが、世の中ではそれを「浮気」や「不倫」と呼ぶ。そんなことも知らないなんて、非常識なお坊ちゃん丸出しだ。
それに、親を説得するとか、そういうことだって出来るのではないか。
優里がその気持ちを率直に話してみると、康一郎は困ったような顔をして、「それはちょっと…」と、モゴモゴ言葉を濁す。
−こんな男、無理!
「もういいです、帰ります。さようなら」
我慢の限界に達した優里がその場を立ち去ろうとすると、康一郎は忌々し気に吐き捨てる。
「…何を偉そうに。顔だけが取り柄のくせに」
ついに、康一郎の逆襲が始まる!優里の自信を喪失させた、彼の一撃とは?
顔以外、何があるの?
「なんですって!?」
優里が踵を返して聞き返すと、康一郎は冷酷な顔をして言い放った。
「顔以外、他に何があるわけ?」
もう用はないと思ったのか、彼は先ほどまでのデレデレが嘘だったかのように態度を豹変させ、まくし立てる。
「顔だけが取り柄の女なんてさ、ぶっちゃけ、レンタルで良いんだよ。歳を取るにつれて、価値はどんどんなくなるんだしさ。
自分の美貌にあぐらかいて、チヤホヤされて良い気になってるんじゃ、お先真っ暗だな!」
そこまで言い終えた康一郎は、「それじゃ」と、席を立った。
こんなに屈辱的なことを言われたのは、人生で初めてだ。先日、結婚するからもう会わないと言って優里を捨てた清宮以上に酷い。
−なんなのよ!
しかし、レストランに取り残された優里は、立ち去ってゆく康一郎の背中を睨みつけることしかできなかった。

“顔だけが取り柄の女なんてさ、ぶっちゃけ、レンタルで良いんだよ。”
先ほどの康一郎の言葉が、何度もリフレインする。
ざわつく心を落ち着かせたくて、銀座を散歩しながら帰ろうとしたのに。その度、優里の心は落ち着くどころか、チクリとささくれ立つのだ。
−あんな男と付き合わなくて良かったのよ!
優里は、自分にそう言い聞かせた。
思うようにいかないと、態度を豹変させて、罵詈雑言を吐きまくる。きっと康一郎は、モラハラ男に違いない。下手に付き合ったりする前に、彼の本性が見られて良かったのだ。
−ふぅ、足痛いな…。
感情に任せて歩き出したが、9センチのピンヒールで散歩というのは無理があった。気づけば、かかとが擦れ、じんわりと血が滲んでいる。それに夜の銀座は、艶かしい女と同伴の男が行き交い、至る所に黒塗りの車が停まる異様な雰囲気。
繁華街に女ひとり。優里は先ほどのこともあり、次第に心細くなっていた。なかなかタクシーも捕まらず、どうしようかと悩んでいたその時だ。
「優里ちゃん、どうしたの!?」
聞き覚えのある声で優里を呼び止めたのは、先日、清宮に振られた後一緒に飲んだ、雅也だった。
「雅也さん!」
知り合いを見つけた優里の心に、安堵感が広がる。
清宮に振られた後も、康一郎に傷つけられた後も。彼の登場するタイミングの良さに、優里は何か運命的なものを感じてしまう。
困っている時に現れ、助けてくれる彼こそが、自分にとっての王子様なのだろうか?
「ちょっと嫌なことがあってね」
優里が落ち込んだ様子で話し始めると、雅也は心配そうな顔で「大丈夫?」と肩を抱いた。
「どこかに入って、座ろうか?」
雅也に手を引かれるまま、優里は薄暗いバーに入ったのだが…。正直、記憶があるのはここまで。その後、どうなったのか覚えていない。次に記憶が戻った時には、勝どきにある雅也のマンションのベッドの上にいたのだから。
-うそでしょ…。
太陽の光が差し込む部屋で、優里は呆然とした。
これまで、お酒の勢いに任せてそのまま…なんていうことは一度もなかった。自分を安売りするような、愚かなことは絶対にしたくなかったからだ。
30歳を目前にして、自分は何をしているのだろう。
優里は、この時初めて、自分が、いや人生が、徐々に狂い始めているのを悟ったのだった。
▶︎Next:6月20日公開予定
プライベートで災難続きの優里。悲劇は、仕事でも…?

