「子連れで夏フェス」は親の身勝手なのか
■親子の姿が目につくようになったフェス
夏の音楽フェス、「夏フェス」はいまや一大レジャーのひとつとなった。その草分けは1997年に始まり、1999年から毎年、苗場スキー場(新潟県湯沢町)で開催される「フジロックフェスティバル」(以下、フジロック)だ。今年も7月27日から29日まで、3日間にわたって開催される。
筆者はさまざまなフェスに参加したことがあるが、どこも以前に比べて親子連れの姿が目立つようになったと感じる。特にフジロックのような野外フェスは、キャンプのような雰囲気がある。そこに子連れで参加できるのは、魅力のひとつなのだろう。
一方で、巨大スピーカーの前に張り付いていると、小さな子供の聴覚を傷つけてしまう恐れがある。このため耳栓やイヤーマフの着用を呼びかけるアーティストも出てきている。また夏の野外フェスは強い日差しにさらされるため、熱中症などの危険もある。「フェスに子供を連れて行くのは親のエゴではないか」という指摘する人もいる。
■第1回から「小学生以下入場無料」
フジロックは、第1回から「小学生以下入場無料」だった。そして2016年より、「保護者1名につき、中学生以下入場無料」と、対象年齢を引き上げた。また、「キッズランド」というエリアに、メリーゴーラウンドなどの遊具を設置するなど、子供向けの施設を充実させてきた。フジロックのプロモーションメディア「富士祭電子瓦版」では、16年から「こどもフジロック」という子連れのための情報発信ページをスタートさせている。
なぜフジロックは、子供の来場を増やすことに熱心なのか。フジロックを主催する株式会社SMASHの石飛智紹氏は、「1997年の第1回から、『親子3世代で楽しんでほしい』というテーマは存在していたんです」と語る。
「今ほど大規模なものではありませんが、キッズランドも第1回からありました。当時の写真を見ると、キッズランドに常時10人くらいは子供たちがいるんですよ。今はその10倍くらいがいつもいる。来場する子供は、体感的にはここ2〜3年で急激に増えた印象があります」(石飛氏)
子供の来場者数はカウントしていないが、16年から入場口で子供用リストバンドを配布したところ、初年度は用意した1000本ではまったく足りなかったという。そして翌年、3000本を用意したが、それでも不足した。
「これまで一緒にフジロックを作り上げてきたお客さんが年齢を重ねて、子供が生まれると、なかなか会場に足を運べないかもしれない。こちら側から『足を運ぶきっかけ』を作りたかったんです。それに、当初はキッズランドに来る子供は幼児が多かった。それが小学校低学年となり高学年となっていって、中学校に上がると、学校や部活も忙しくなるだろうし、フジロックからは離れてしまうのかな、と。でも自分たちが洋楽に出会ったのは中学生の頃でしたし、この場にこの世代がいてほしいという思いもあります」(石飛氏)
■準備不十分で来てしまう人もいる
増えつづける子供連れ来場者のために、優先トイレを設けたり、各ステージの救護所でオムツ替えや授乳ができるようにしたりと、対応も進めている。だが石飛氏は、「子連れに優しい」というイメージが先行して、軽装備で来場してしまうケースを懸念しているという。
「フジロックのお客さんは、全体的に見るとマナーがいいんです。しかし、この2年くらいは、『フジロックはファミリーに優しい』と誤解した軽い意識で、準備もままならない状態で来場するケースも見受けられます」(石飛氏)
フジロックの会場である苗場スキー場は、最下部でも900メートルの標高があり、夜間はかなり冷え込む。天候も変わりやすく、トレッキング程度の装備がなければ厳しい環境だ。周囲の宿泊施設は限られており、参加者の多くは3日間、キャンプで寝泊まりする。快適に過ごすには、最低限のアウトドア知識と装備が必要だ。
「フジロックは第1回からお客さんと一緒に作ってきたフェスです。第3回から苗場開催になって、徐々に地元の方々からの信頼を獲得してきた経緯もある。フジロックの礎を作ってきた世代のお客さんに、今度は親としてもそうあってほしいと思って、スタートさせたのが情報発信ページ『こどもフジロック』なんです」(石飛氏)
「こどもフジロック」は子連れの参加者の体験談、便利なおすすめグッズ紹介、人気ロックミュージシャンへの父親視点からの話など、さまざまな記事が掲載されている。メインライターをつとめる早乙女’dorami’ゆうこ氏はフジロック第1回に参加し、現在は3歳になる長男を毎年会場に連れて行くという筋金入りの「フジロッカー」だ。
「私はフジロックを大人の遊び場だと思っていたので、独身時代は子連れ参加者のことを否定的に見ていた部分がありました。でも、自分が体験して初めてわかるフジロックの別の良さがたくさんあるんです。子どもの新たな能力や一面を知ることができたり、自分が親として試されたりすることも山ほどある。また、年齢が1歳違うだけで、準備もまったく違ってくる。例えばレインウエアなどのフェス用の装備をそろえても、子供の場合は翌年にはサイズアウトしてしまうんです。考えてみたら当たり前の話ですけど、そういった部分も最初は気が付かなかった」(早乙女氏)
■「折りたたみイスを頭に乗せないで」
これまでに子供に関する大きな事故やトラブルは主催者側に報告されていないものの、小さな問題点は多い。
「歩きタバコは言語道断ですが、今一番問題になっているのは、『ヘリノックス』タイプの折りたたみイスです。メーカー側が『雨よけになる』と謳っているので、折りたたまずに、そのままひっくり返して頭上に乗せながら歩く人がいるんですが、そうすると脚が子供の目を突いてしまう恐れがある。この数年、それを辞めてもらうように、こどもフジロックでもメッセージを発信していますが、なかなか減りません。こればかりは情報を発信し続けるしかない。けして『子連れを優遇してほしい』と言いたいのではなくて、『皆で楽しく乗り切ろう!』というスタンスでやっていきたいんです。その中で『すでに危険なことだとわかっていることは皆でやめよう』という話なんですよ」(早乙女氏)
親も子も、フェスを楽しめるようにするにはどうすればいいのか。フジロックでは参加者の不安を減らすために、特設ページで「子供をフジロックへ連れて行くのは○か×か」という記事を連載している。たとえば「ステージのどこでライブをみればいいか」という具体的なシチュエーションについては、子供の難聴に詳しい耳鼻科専門医の西嶋隆氏に聞いている。
「私自身、フジロックに子供を連れて参加する際の不安を拭うために欲しかった情報は専門家による『根拠』でした。そういった信頼性のある情報でないと、耳を傾けない、安心できない人は多いと思うんです」(早乙女氏)
■フェスは準備の段階から始まっている
フジロックは今年で22年目を迎える。当初から掲げていた「親子三世代」での参加者も出てきている。石飛氏は「世間的にはマイノリティ(少数派)の皆さんが子連れで来られるように応援したい」と話す。
「フジロックの参加者は、子供がいる・いないにかかわらず、世間的にはマイノリティだと思うんです。人口で考えると、フジロックには行ったことがないという人が大半。お客さんは、『学校のクラスには、自分の嗜好と同じ音楽を聴いている人はいなかった』という人たちばかり。でも、会場には、『自分と同じ音楽を好きな人がこんなにたくさんいるなんて!』とビックリしている声を聞いてきました。」(石飛氏)
今年の夏も、フェスには多くの親子が参加するだろう。フェスを思いっきり楽しむには、しっかりした準備が必要だ。そこからフェスは始まっているといってもいい。事前に準備さえ整えておけば、かけがえのない夏の思い出になるはずだ。
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ライター
1981年、山口県生まれ。ヴィジュアル系やギャルなど、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。主な執筆媒体は「サイゾー」「ウレぴあ総研」「リアルサウンド」など。
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(ライター 藤谷 千明 写真=(C)宇宙大使☆スター、SMASH)
