山崎和佳奈さん

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 物故者を取り上げてその生涯を振り返るコラム「墓碑銘」は、開始から半世紀となる週刊新潮の超長期連載。今回は4月18日に亡くなった山崎和佳奈さんを取り上げる。

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ごく普通の高校生

 1996年以来テレビアニメが続く「名探偵コナン」は今や国民的人気作だ。

 高校生にして探偵の工藤新一は、幼なじみの毛利蘭と出かけた遊園地で「黒の組織」の取引現場を目撃する。口封じのため毒薬を飲まされ、小学生の姿に。以来、江戸川コナンを名乗り正体を隠し、数々の事件を解決していく。蘭はそばにいるコナンが新一と気付かず一途に待っている。

山崎和佳奈さん

 このヒロイン、毛利蘭の声をテレビアニメの開始時から30年にわたり演じていたのが山崎和佳奈さんだ。

 しっかり者で優しい「蘭姉ちゃん」であり、コナンと共に事件に巻き込まれると、得意の空手で窮地を救う勇ましさを見せることも。そして姿を消した新一への恋心を抱き続けている。

 山崎さんは特に声を作ろうとしなかったという。明るく元気なごく普通の高校生の感覚で演じた。蘭という人物を掘り下げ、全体の中でどのような役回りなのかをしっかりつかんでいた。

観客の心にすっと届く力

 65年、横浜生まれ。小学生の時、宝塚歌劇団の「ベルサイユのばら」を見て演劇に興味を持つ。同志社大学工学部では有機化学を研究する一方、「劇団そとばこまち」に加わる。京都大学に在学中の辰巳琢郎さんが座長を務め、関西で注目を集めていた劇団である。

 辰巳琢郎さんは振り返る。

「オーディションで合格を出したのは私です。声が魅力でした。滑舌が良く、声がよく通る。おとなしい印象でしたが、芝居の基礎的な部分はもう会得していた。単なる発声だけでなく、舞台で観客の心にすっと届く力を持っていました。当時は槍魔栗三助の名だった同じく同志社の生瀬勝久と共演しています。私は84年に卒業してテレビドラマの出演が多くなり、劇団で山崎さんと一緒だったのは1年ほどでしたが、彼女の土台は演劇だと感じています」

 87年に卒業。現在のオムロンデジタルに就職して劇団を離れたが、演じる仕事ができないか模索を続ける。土日は声優の養成所に通い、2年後、青二プロダクションに合格して上京した。

 声優としてレギュラーの役が入るようになったのは91年。その5年後、毛利蘭役で開花した。

「山崎さんが声優で活躍していると知り、聴いてみると劇団所属当時と変わらない声でした。伝わるのは声だけでも、舞台のように実際に役を生きて、相手役と共に演じていると感じました。ファンが原作に抱いている印象や絵をまず尊重している様子が、謙虚な彼女らしかった」(辰巳さん)

 毛利蘭は空手の達人ゆえ、マイクを前に身体感覚を込めて演じた方がいいと考えて殺陣まで習っていた。

声優の力があってこそ

 同作は97年以降、ほぼ毎年映画化され、近年は4年連続で興行収入100億円超えの快挙を更新中である。

 映画評論家の北川れい子さんは言う。

「実写以上に本格的な推理もので人間ドラマ。老若男女を問わず楽しめる。丁寧に描かれた人物の心情が伝わり、物語に引き込まれたのは声優の力があってこそ」

 昨年は大阪弁護士会の広報誌の取材に対して、蘭を長年演じていても物語の上では半年ほどしかたっておらず、新鮮さの感覚を失わないよう自分に言い聞かせている、などと語っていた。

「舞台に立つようになり、朗読劇にも持ち味が出ていた。芝居をよく見ていて、劇場でばったり出会うこともありました」(辰巳さん)

 声が評価されても目立つのを好まなかった。“声優界の公務員みたい”と言われたこともあるという。

 今年2月、病気療養のため活動休止を発表し、4月18日、61歳で逝去。4月10日から公開中の映画最新作が最後の演技になった。

 声優は仕事を頂いて初めて成り立つもの、役の完成度を上げていく職人のような仕事だ。そう捉える実直さを保ち続けていた。

「週刊新潮」2026年6月4日号 掲載