「外国人客が明らかに減った」観光地の飲食店に広がる異変…中国客が半減超、訪日客減少で外食産業に迫る“空洞化”リスク
日本政府観光局によると、2026年4月の訪日外国人は前年同月比5.5%減の369万人だった。前年比で減少したのは2026年1月以来となる。中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけてから、訪日客数の伸び率の鈍化が鮮明になってきた。足元では原油価格の高騰による航空運賃の上昇で、旅行を控える動きが強まる可能性もある。
インバウンド消費減退の影響が大きそうなのが外食産業だ。焼肉など一部業態では客数の伸び悩みもみられ、国内需要だけで成長を維持する難しさが増している。このままでは中間層向けの飲食店の空洞化を招きかねない。
外国人観光客の聖地巡礼効果で客数が急増
「最近は外国人観光客の客足が鈍りました。5月に入ってから来店客数はいっそう鈍化しています」
こう語るのは首都圏を中心に複数の焼肉店を展開する外食企業のオーナーだ。
この会社が運営する江ノ島店は映画「THE FIRST SLAM DUNK」の聖地として知られる通称「スラムダンクの踏切(鎌倉高校前1号踏切)」に近い場所にある。この映画が2023年に中国や台湾、韓国で公開されて大ヒットを記録すると、店は外国人観光客でにぎわうようになった。
もともと江の島や新江ノ島水族館を訪れるカップルがランチやディナーを楽しむ店として繁盛していたが、インバウンド消費を取り込んで売上増に拍車がかかった。
「外国人観光客は注文する量が多く、店にとっての上客であることは間違いありません」とオーナーは語る。客数が増えることに加え、高単価であることも経営にプラスに働いていたのだ。積極的に外国人観光客を獲得するため、インフルエンサーを起用した集客にも力を入れていた。しかし、今は訪日外国人の来店鈍化にオーナーは頭を痛めている。
焼肉店はコロナ禍のリベンジ消費の影響で、2023年から2024年にかけて需要が急増した。しかし、2025年以降は需要が一服。日本フードサービス協会によると、2025年の全国の焼肉店の客数は前年比で1.8%減少した。
焼肉店に限らず、飲食店は値上げとインバウンド消費の受け皿となることで、売上を伸ばしていた。日本食糧新聞の推計によると、2025年の外食インバウンド比率は9.2%だという。今や飲食店売上の約1割が訪日外国人消費によるものと推計されている。国内需要が反動に見舞われる中で、訪日外国人減少が飲食店に与える影響は大きい。
インバウンド依存が高い飲食店は間違っているのか?
外食業界の生き残り策として、インバウンド消費を戦略的に取り込んできた会社もある。サンマルクホールディングスがその一つだ。サンマルクは2024年に牛カツ「もと村」と「京都勝牛」を相次いで買収した。牛カツは訪日客のSNSや口コミで人気業態となり、今や来店客の大半は訪日外国人だ。Instagramでは「#gyukatsu」のタグがついた投稿が数万に及んでいる。SNSや口コミで評判が広がったのだ。
サンマルクの牛カツ業態の売上は全体の2割を占めている。この会社は「サンマルクカフェ」でよく知られているが、喫茶業態の売上は全体のおよそ3割だ。サンマルクはレストラン事業での成長に力を入れており、特にインバウンド消費を旺盛に取り込む牛カツ業態は成長への期待度が高かった。
しかし、牛カツを含むM&Aで傘下に収めた業態の月次売上は、2026年3月に前年同月比で0.3%下回ってしまった。サンマルクは「春節以降のアジア地域における渡航動向の変化の影響がみられる」と分析している。
インバウンド消費に依存していた飲食店が傾くと、SNSなどでは「もともと淘汰される運命にあった」などと厳しい意見も聞こえてくる。しかし、インバウンドは日本政府が「観光立国」による外貨獲得手段として積極的に推進してきたものだ。政府は4000万人程度の訪日外国人数を2030年までに6000万人まで増やす計画を立てている。
小野田紀美経済安全保障相は、中国政府による渡航自粛要請が出された際、観光業の中国依存に対して危機感を表明した。今年に入ってからも中国政府は日本の自衛官の中国大使館侵入を受け、SNSで改めて渡航を控えるよう国民に呼びかけていた。
政府側が中国依存のリスクを強調するだけでは、事業者側に不公平感も残ることになりかねない。「観光立国」を掲げていた以上、日中関係の再構築に向けた一層の努力が必要とされているはずだ。
空きテナントが目立つアメリカでは治安悪化も
外食需要の減退は、国内の深刻な中価格帯飲食店の減少を招きかねない。これがすでに起こっているのがアメリカだ。「TGIフライデーズ」や「レッドロブスター」が経営破綻。「ウェンディーズ」「デニーズ」などが大量の店舗を閉鎖している。共通しているのは中所得者向けの大衆レストランであることだ。アメリカは外食需要が二極化しており、ミドルクラスのレストランの苦境が目立つ。
これはインバウンド需要が消失した後の日本を予見しているかのようだ。
日本の外食企業では、海外に活路を見出す企業も目立ち始めた。カレーショップを展開する壱番屋は、2026年度に33店舗の海外店を新規出店する一方、国内は18店舗を計画している。「丸亀製麺」のトリドールホールディングスも2026年度は海外事業で110店舗を出店する予定だ。「丸亀製麺」の国内新規出店計画は45店舗である。
国内のレストランが空洞化する問題は、飲食企業だけに限らない。アルバイトなどの雇用の受け皿が失われ、ショッピングモールや雑居ビルなどの空きテナント問題も表面化するだろう。アメリカでは街の空洞化が進んで治安面への影響が懸念されるケースもある。
訪日外国人の減少を見越して、飲食店はいち早く国内の顧客獲得に力を入れるべきだ。一方で、政府は外国人観光客増加に向けた取り組みが欠かせない。インバウンド消費の腰折れは深刻な事態を引き起こす可能性もある。
取材・文/不破聡
