「着信だけで心臓バクバク…」休職後も鳴りやまない会社からの連絡。〈退職代行〉では終われない休職女性のSOS【社労士が「退職代行の限界」を解説】
会社からの強い引き留めで、辞めたいのに辞められない。そんな労働者の救いの一手として「退職代行サービス」が普及していますが、実は万能ではありません。すでに人間関係がこじれ、未払い賃金や社会保険料の精算などが発生している場合、単なる「退職の通知」だけでは根本的な解決にならないケースが多いのが現実です。心身のバランスを崩して休職に追い込まれた20代女性の事例をもとに、退職代行の限界と、労働局の「あっせん」制度を活用した正しいトラブル解決について、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
「着信だけで心臓バクバク…」強い引き留めで休職に追い込まれた20代女性
労働者側にとって、「退職代行」は決して万能ではありません。
Aさん(20代・女性)は、会社を辞めたいと伝えたものの、事業主から強い引き留めを受け、心身の状態を崩して休職に追い込まれてしまいました。
「辞めたいと何度伝えても、『今抜けられたら現場が回らない』とまったく取り合ってもらえなくて……」
ところが、休職に入ったあとも会社からは復職を求める連絡が絶えません。
「スマホに会社からの着信が表示されるだけで、心臓がバクバクします。もう自分では、会社とまともに話すこともできなくて……」
Aさんは精神的に追い詰められ、母親が代わりに窓口となって専門家に駆け込む事態になっていました。
単なる「通知」では終わらない…労働局の「あっせん」で解決金40万円の和解へ
ここまでこじれていると、単に退職代行業者を使って「退職します」と通知すれば終わるわけではありません。
退職日をいつにするのか、休職期間中の社会保険料本人負担分をどうするのか、会社側の執拗な引き留めによる精神的負担をどう評価するのかなど、必要なのは「通知」ではなく「納得のいく別れ方」です。
そこでAさん側は、労働局の「あっせん」申請を行いました。専門家(特定社会保険労務士)を代理人に立てて会社に退職の意思を伝え、Aさん本人に直接連絡しないよう要求。その上で、貸与品や私物、社会保険料、金銭精算を一つずつ整理していきました。
あっせんの場では、会社側も強い引き留めについて一定の非を認めました。最終的には、休職期間中の社会保険料本人負担分などを含めた金銭問題を整理し、40万円程度の水準で解決に至りました。
民間業者にはない「交渉権限」…退職代行が「出口」にならない理由
このAさんの事例が示しているのは、「退職代行の限界」です。
労働局のあっせんは、紛争当事者の間に公平・中立な第三者として労働問題の専門家が入り、話し合いによる解決を図る制度です。Aさんのようにすでに人間関係が壊れ、金銭や社会保険料の精算が残っている場合、単なる退職代行業者の「通知」だけでは足りません。
通知だけで終わらせようとすると、未払い賃金、有給休暇、貸与品、離職票、慰謝料などの問題が残り、あとから別の紛争として表面化します。だからこそ労働者側は、自分の問題が「退職意思の伝達だけで済むもの」なのか、「交渉や第三者手続きが必要なもの」なのかを見極める必要があります。
未払い賃金を請求したい、残業代を精算したい、有給休暇を使い切りたい、パワハラの慰謝料を求めたい、貸与品をめぐって揉めている……。
このような場合は、「民間業者の退職代行(業者型)」では法律上の交渉権限がないため限界があります。最初から交渉権限を持つ「弁護士型」を検討すべき場面がありますし、「労働組合型」を利用する場合も適切に対応しているかを慎重に確認する必要があります。
退職代行は、「辞める入口」にはなります。しかし、「揉めずに終わる出口」ではありません。本当に退職を終わらせるには、最後の賃金や離職票、場合によっては慰謝料や解決金まで、整理したうえで解決する必要があります。
「丸投げで自動解決」は間違い…こじれた関係を法律で切り分ける力
労働者側も、「退職代行に頼めばすべてが自動的に解決する」と考えてはいけません。
「退職代行に任せたから、あとは何もしなくていい」という思い込みこそが、退職トラブルを長引かせる原因です。退職代行が普及した今、労働者側に求められているのは、「とにかく辞められればいい」と安易に業者に丸投げすることではありません。
退職を感情でこじらせず、法律上の論点を切り分け、必要な場合には弁護士、労働局のあっせん、労働審判などを使って、自分の権利を守りながらきちんと終わらせる力なのです。
岡 佳伸
社会保険労務士法人 岡佳伸事務所
特定社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
