「グリーン・ビジネスはお金になる」 環境に優しい生き方を実践する町で起きていること
環境保全は誰のため? リサイクル、再生可能エネルギー、カーボンオフセット―。
すべて超富裕層が潤うための虚偽、巨大マネーのためのグリーン・ビジネスだった!
「サステナビリティ・クラス」とは、高学歴で可処分所得と意識が高い「いい人」たち。エコや倫理的正しさをSNSでアピールし、「環境」を意識した高額商品を買う余裕がある中流階級だ。彼らが「地球の未来のためだ」と思ってやっていたことは、実はグリーン・ビジネスに加担し、弱者を追いやり、格差を広げる原因になっていた……。新たな植民地主義ともいえる「グリーン・ビジネス」の実態を、豊富なデータをもとに明らかにした著書『欲と偽善のサステナビリティ』。サステナビリティの名のもとの「欲と偽善」を、気鋭の研究者が暴くセンセーショナルな意欲作より、一部の章をピックアップしてご紹介。
「サステナブルな未来」にようこそ
あれは7月の雲ひとつない暑い日のこと。僕たちはビバリーヒルズにあるヒルトンホテルのプールサイドにいた。プールでは、サングラスをかけた男性がネオンピンク色の巨大なフラミンゴ型フロートで寛いでいる。プールサイドには、カクテル片手に寝そべるビキニ姿の女性たち。グラスの氷がカランカランと音を立てる。BGMは、スピナーズのディスコミュージック「ワーキング・マイ・ウェイ・バック・トゥ・ユー」。
僕たちの向かい側に座っているのはチャックだ。生態系のサステナビリティに取り組む某環境保全団体の役員で、これからくるブーム、再生農業について話している。世界が崩壊するなか、これこそがサステナビリティに通じる道だという。
チャックはかつて、イエス・キリストを信じるヒッピーだった。しかしスピリチュアルな体験をしてからは世界観が変わり、ヨガの講師になった。訪印経験は3回、若い頃はロサンゼルスの高台で多くの時間をヨギーたちと過ごしていた。ヨギーといってもただのヨギーではない。カウンターカルチャーのカリスマ(アラン・ワッツやティモシー・リアリー)と親交を深めた名だたるヨギーたちだ。
白髪交じりの髪を後ろになでつけ、シルクの青いシャツを羽織ったチャックは、再生農業の可能性について熱く語った。再生農業とは、放牧と生物多様性のバランスをとりながら土壌を豊かにする農業の一種である。確かに将来有望な側面があり、流行りの言葉としても注目されている。誰もが納得する絶対的な定義はないものの、シリコンバレーの投資家から食肉産業の業者まで、あらゆる人たちがこのトレンドに乗り遅れまいと必死になっている。
チャックいわく、「この話は政治的立場を超えてメリットがある」。どの立場の人であれ、一見自分には全く関係ないように思えた事柄でも、想像以上につながっているように見えてくるときがあるというのだ。「農産物を梱包して遠く離れた場所に出荷するっていうのは再生的とは言えないのではないか――農家の人たちもそれに気づき始めるのではないかな」と指摘する。「それに、地元の市場に売った方がいいのではないかと考えることもあれば、『そうそう、うちの農場にはメキシコ出身の労働者がいるけれど、皆、大切な存在だから、しっかりとした待遇を考えなければ。彼らだって人間なのだから』と考えるようにもなるだろうし」
チャックいわく「ちょうど、60年代に流行ったLSDの幻覚体験のようなもの。世の中には数えきれないほどの可能性があると思えたものだ」。ニューエイジであれ、ガイア信仰、マザーアース、パチャママであれ、いわゆる「スピリチュアルな世界」が再生革命と複雑に絡み合った状態だ。スピリチュアルに目覚めた結果、チャックは大きな成功をつかむことになった。
この50年間、繰り返し流れていたであろう懐かしのオールディーズを聞きながら(BGMでは、スピナーズが「自分なら、両方とも手に入れられると思ってた」と歌う)、プールの雰囲気とその華やかさに酔った僕たちは、再生農業の「啓示」に心を奪われた。
僕たちがロサンゼルスを訪れたのは、カリフォルニアに来ればサステナブルな未来のビジョンが見つかる、と言われたからだ。どういうわけか、その話を聞いても意外に思わなかった。というのも、カリフォルニア州はもともとヒッピーの聖地であり、カウンターカルチャー全盛期には若者がわらわらと訪れて、ティモシー・リアリーが言うところの「ターンオン、チューンイン、ドロップアウト」(電源を入れろ、波長を合わせろ、ドロップアウトしろ)を実践していたからだ。
ロサンゼルスの「再生革命」
チャックに出会う前、僕たちはすでにロサンゼルスで「再生革命」が展開されているのを目撃していた。ほんの数日前、ヒッピー革命発祥の地のひとつ、ベニスビーチを訪れたのだ。ジョナサン・リッチマンが歌ったように、そこは「ワッツとリアリーの熱狂的なファン」に出会うことができる、「自由奔放」で「ヒップ」な場所だ。
ワッツとリアリーの教えに導かれるまま、僕たちはベニスのメインストリート、アボット・キニー大通りにたどり着いた。高級スポーツカーやパープルカラーのSUV、ウーバーのリムジンカーが目の前を行き交う。車が止まると、降りてくるのは粋でヒップな人たち。行き先は、ネイバーやデ・ブエナ・プランタ、プラント・フード・アンド・ワイン(映画監督ジェームズ・キャメロンの行きつけのレストラン。テンペ〔発酵大豆〕のサンドウィッチと海藻のヌードルに100ドル以上払ったのに、食欲が刺激されただけだった)、プドゥ・プドゥ(プディング専門店)といったヴィーガン向けのレストランやカフェだ。
ここの人たちは誰でも、何かしらグリーンなことをほんの少しずつ試しているらしい。鍛え上げた身体に隙のないファッションで、25ドルのスムージーを買ったり、あの有名なゴールドジム(アーノルド・シュワルツェネッガーも通っていた)で汗を流したあと、コミュニティガーデンで家庭菜園を楽しんだり。高校時代の人気者たちは皆、こんなことをして過ごしているのかも、と思いたくなる。誇大広告の比ではない。見ているだけで刺激的。あまりにも絵力が強すぎて、どんな前評判を聞いていたとしても、現実を目の当たりにしたら圧倒されるに違いない。
アボット・キニー大通りを歩いてみた。「ハンドメイド・アイスクリーム」の店、ソルト&ストローの売りは「カリフォルニアで最高級の旬の食材」を使っていることだ。アパレルを扱うクリスティ・ドーン(スローガンは「母なる大地をたたえる」)は、ショーウィンドウに「再生革命」を謳うブティックだ。グロー・ベニスは、枝編みのバスケットやセラミック、サボテン、「よそ者お断り」と書かれた庭用のおもしろ看板を販売している。グリーンリーフ・カフェのけだるそうなスタッフが着ているのは「よく食べて、よく生きる(Eat well, live well)」などのメッセージをほどこしたシャツだ。アボカドトーストの値段は16ドル。もう3ドル払えば、地元の放牧卵か亜硝酸塩不使用のベーコンがついてくる。
角を曲がると、高いフェンスで仕切られたリノベーション住宅が並ぶ。反対側の歩道には、コミュニティ・ヒーリング・ガーデンズという団体が管理するプランターがいくつも置かれている。立て看板には「どうぞ私を食べてみて」と書かれているものの、プランターにはトゲトゲのサボテンしかない。
次に、グラウンドワーク・コーヒーを覗いてみる。この店の売り文句は、「コーヒー+紅茶+コミュニティ ゼロから始める」だ。この「コミュニティ」とはどういう意味なのかとバリスタに尋ねてみた。ここではライブショーやチャリティをやっているんですか? すると、てんてこ舞いで、見るからに疲れた様子のバリスタが答えた――私にはよく分かりません。そこでウェブサイトをチェックしてみたところ、こう書かれていた。グラウンドワーク・コーヒーにとって「豊かな」グラウンドワーク・コミュニティとは、「他のどの職場とも違う労働倫理を体現する」。あのバリスタがコミュニティの意味をよく分からないのは、単に真面目に働いていないからなのか。
ブラジル系アパレルブランド、ファーム・リオのブロック塀には、スローガンの「ネイチャー・ラバー」が大きく奇抜な文字で描かれている。そこで、店の外にいたバイトのモデルに、この「ネイチャー」はどういう意味で使っているのか尋ねてみた。彼女は肩をすくめながら店に入ったが、すぐに戻ってきた。「ウェア1点お買い上げにつき、木を1本植えています」。彼女はそう言って、小さな緑色の紙袋をくれた。袋には「喜びを育てましょう」と書かれている。中に入っていたのは「魔法の豆の種1粒」。注意書きもある。「このライ豆の種は食べられません」。どうやら、ベニスのグリーン活動が育むのは、喜びや革新的な製品や「正しい」マインドセットのようだ。生きる糧なんて、もはやどうでもいいらしい。
「うちはLGBTQ+に優しいんです」
ベニスは単なる環境志向、地元志向ではなかった。社会正義を意識したコミュニティなのだ。そして、そのことを皆に分かってほしいといわんばかりの態度を見せていた。どの店を訪ねても、「うちはLGBTQ+に優しいんです」と胸を張り、店のショーウィンドウには目立つようにレインボーフラッグを掲げている。
インテリジェンシア・コーヒーでは、店内の壁にマーティン・ルーサー・キング・ジュニアやマルコムXのポスターが貼られている。「超一流のシェフやミクソロジスト〔訳注:独自のアレンジで斬新なカクテルを創り出す人〕と協力」と「食べ物の進化をサポート」がモットーの都会型庭園ザ・クックズ・ガーデンの場合は、庭の芝生に立つヤードサインが特徴的だ。第1次トランプ政権時、リベラル派の家の庭では、図書館司書クリスティン・ガーヴィが書いた「我が家の信念は」で始まるヤードサインがよく見られたが、このザ・クックズ・ガーデンでは、それが少しばかりアレンジされている。「このハウスガーデンの信念は――黒人の権利は大事。女性の権利は人の権利。不法な人などいない。科学は現実。愛は愛」
アボット・キニー大通りを少し進むと、地元企業6社の支援で完成した「レインボー横断歩道」がある。その横断歩道の真向かいにあるのが高級アパレルショップのファリティ。コアバリューには、「本物であり続ける」と「良いバイブスを広げる」を掲げている。2021年3月、そのファリティが先住民族ディネのアーティスト、レヒ・サンダーボイス・イーグルに依頼した壁画が完成した。壁画には、重要なメッセージ「ディネ族からトングバ族まで まだここにいる」の文字が躍る。サンダーボイス・イーグル自身もたまたま、サンダーボイス・ハットというアパレル会社の経営者で、800ドルの「業界で最もサステナブルな帽子」を取り扱う。
この界隈に「相応しい」人たちから注目されたい
ベニスのコミュニティは、エネルギッシュでサステナブルな意識高い系(woke)のライフスタイルを提供しているだけではない。イノベーションに溢れていることも誇りで、いつも次のブームを狙っている。地元の人たちはベニスを「シリコンビーチ」とも呼ぶ。500を超えるテック企業やスタートアップが本社を構える地域だからだ。グーグル、ユーチューブ、スナップチャット、フールー、オキュラスVR、瞑想アプリのヘッドスペース、マッチングアプリのティンダー、世界でも大人気のゲームを生み出すゲーム会社ライオット・ゲームズやノーティドッグなど数限りない。ロサンゼルスのダウンタウン付近、アーツ・ディストリクトにあるのがロサンゼルス・クリーンテック・インキュベーター(LACI)だ。「起業家による、起業家のための、インクルーシブなグリーンエコノミーを生み出す非営利団体」である。「コミュニティ」からも支援されていて、ロサンゼルス市だけでなく、BMWや大手金融機関ウェルズ・ファーゴ、ユナイテッド航空、JPモルガン・チェースも支援組織に名を連ねる。
LACIの向かいには、高級チェーン店アースカフェがある。地元で採れた100パーセント無農薬の食材を使い、ターメリックラテやチャイラテからフレンチペイストリー、イタリアンコーヒーまで幅広い商品を提供する。サステナビリティの新たなハブ、ラスベガスやサウジアラビアのリヤドといった都市にも出店している。裕福な常連に交じって腰を下ろしてみると、このカフェが、デジタル不動産のパイオニアらがカフェインチャージしながら、どうすればこの界隈を「相応しい」人たちから注目されるような魅力あるコミュニティに作り変えられるのか、その構想を練るための場所であることに気づいた。南カリフォルニアのまばゆい太陽のもと、企業や非営利団体はスタッフに完璧な労働環境を用意しているのだ。環境に優しい生き方、豊かなクリエイティビティ、良いバイブス。それらがバランスよくミックスされた、健やかな雰囲気の職場である。(翻訳:保科京子)
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