ツィスティで少しアップダウンもあるミッドオハイオ・スポーツカーコース(オハイオ州コロンバス近郊)での佐藤琢磨(AJ・フォイト・レーシング)は、プラクティスから苦戦していた。

 3段階で争われる予選では、2グループに分かれて行なわれるQ1で敗退。それも、2グループ目の11人中で10位だったから、予選順位は22台出場中の20位となった。1週間前に行なったプライベートテストの時から悩まされていた、新品タイヤのグリップが高い時の瞬発力が不足したままだった。

 オーバーテイクが非常に難しいミッドオハイオで最後列ひとつ前からのスタートとなったら、序盤の早いタイミングでピットストップを行なう、運を頼りの奇策が常套手段になる。もし直後にフルコースコーションが出れば、まんまと上位に進出できる。2週前のトロントでも、予選20位だった琢磨は、この作戦でシーズンベストに並ぶ5位フィニッシュを果たしている。

 迎えた決勝日、緩やかにうねった地形を上手に利用して作られた芝生の観戦エリアには大勢のファンが陣取っていた。ホンダの工場が近くにあるため、ミッドオハイオではホンダドライバーを応援する声がひと際大きい。

 琢磨はハードコンパウンドのタイヤ装着でありながら、スタートで19位へひとつ順位を上げた。12周で早々と最初のピットストップを行なうと、幸運にも3周後にフルコースコーション発生。まだピットしていなかった上位陣がピットに向ったことで8番手へ。リスタートで今年のデトロイト・レース1で優勝しているセバスチャン・ブルデー(KVSHレーシング)をパスして7番手となった。

 レースでも一発の速さはトップレベルになかった琢磨だが、彼の14号車には安定したラップタイムを刻み続ける力が備わっていた。燃費のセーブも心がけつつ、琢磨はブルデーにアタックのチャンスを与えないだけの間隔を保ち、上位のポジションを維持し続けた。

 90周のレースが残り30周を切ってから、琢磨のチームメイトのジャック・ホークスワースがコースアウトし、2回目のフルコースコーション。このタイミングでピットすれば、ゴールまで走り切ることは十分可能な状況だ。この直前にピットインしていたコナー・デイリー(デイル・コイン・レーシング)と、周回遅れのドライバーを除く全員がピットロードへと雪崩れ込んだ。

 この大事なピットストップで、トップを走っていたミカイル・アレシン(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)は他車と接触し、初優勝のチャンスを潰してしまった。琢磨はピットストップでチャーリー・キンボール(チップ・ガナッシ・レーシング・チームズ)に先行されて6番手となったが、リスタート周でそのキンボールはコースオフし、琢磨は5番手に浮上した。

 フルコースコーションの少し前にピットしていたデイリーは、燃料が足りなくなって残り6周でピットに向かう。琢磨は4番手へとまたひとつ順位を上げた。前を行くカルロス・ムニョス(アンドレッティ・オートスポート)を抜くのは難しそうに見えたが、後方のブルデーも決定力はなさそうで、琢磨の2戦連続トップ5入り、そして今季ベストとなる4位フィニッシュはほぼ確実と見えていた。

 ところが、残り5周を切ってからブルデーがブレーキングをミスして琢磨に追突、2台揃ってコースから飛び出してしまう。琢磨は必死にマシンをコントロールしてエンジンストールとグラベルでのスタックを回避。土埃を捲き上げながらコースに戻ったが、順位は9番手まで後退。そこからの挽回は果たせず、9位でゴールした。

 ブルデーはレース後、「琢磨には申し訳ないことをした。完全に私のミスだった。パスできないことでイライラがつのっていた。それが僕に限界を超えさせるミスを犯させたんだと思う」と謝っていたが、アメリカのCARTシリーズで4年連続チャンピオンに輝き、テクニシャンとして高い評価を受けるドライバーとは思えない失態だ。これにより、琢磨は今季ベストリザルト、そして、2戦連続のトップ5フィニッシュを逃してしまった。

 レース後の琢磨は次のように語っている。

「僕らは安定したレースペースを刻めていたけれど、上位を走れたのはチームの作戦がよかったから。まだトップグループとの間にはラップタイムの差があった。また、ゴール前のバトルで燃費が厳しくなり、ムニョスに引き離された。同じ周にピットしながら、そういうことになったのは僕らのチームの燃費計算が慎重過ぎるからだ。ゴール後にストップしたマシンが何台かあったけれど、(実際には燃費に余裕があったので)僕らはピットまで問題なく帰ってこられた。燃費計算でも、もっともっと攻めないといけない。もし今日の僕らがそれをできていたら、ブルデーに接近を許すこともなかったから、追突されることもなかった」

 AJ・フォイト・レーシングはエンジニアリング部門を強化し、ピットストップのスピードと確実性を上げ、作戦力も向上させてきている。しかし、コースによってはまだマシンのパフォーマンスが低く、予選におけるスピード不足は多くのコースでの課題だ。コースによってはホンダのエアロキットがシボレーのそれに対して劣勢にあるのも事実だが、今シーズンの琢磨たちはホンダ勢のトップとなるケースがほとんどない。

 フォイトの名を再びトップに押し上げるためには、チームの総合力を高めなければならない。その中心的存在となることを期待されて起用され続けている琢磨は、時としてチームに苦言を呈する役割も担う。

天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano