リクルートが海外展開を加速している。人材関連ビジネスを主力に、欧米、それからアジア全域にサービス地域を拡大中だ。その中で、アジア人材ビジネスを牽引する中国法人、上海艾傑飛人力資源有限公司(RGF HR Agent)の董事長兼総経理、舘康人氏に、同社の事業展開と今後の中長期計画を聞いた。

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 リクルートが海外展開を加速している。人材関連ビジネスを主力に、欧米、それからアジア全域にサービス地域を拡大中だ。その中で、アジア人材ビジネスを牽引する中国法人、上海艾傑飛人力資源有限公司(RGF HR Agent)の董事長兼総経理、舘康人氏に、同社の事業展開と今後の中長期計画を聞いた。人材力が企業力を決めると信じる舘氏は、「人材の流動化によりアジアを元気にする」「日系企業の内販力の強化支援する」などと力強く語った。

M&Aをテコに海外事業の拡大を目指す――リクルートは今年5月、人材事業でのM&A(合併・買収)に、今後5、6年間で4000〜5000億円を投じる計画を発表しました。また近い将来に株式上場を目指すと発表し、大きな関心を集めています。

 今回の投資は、特に海外での人材会社のM&Aに当てられる予定です。昨年、北米で人材派遣大手3社(年間売上高合計は2000億円相当)を相次ぎ買収し、グローバル化を一気に加速しています。M&Aをテコに、海外売上高比率を現在の5%から50%に高めることが目標です。現在の当社の人材領域の売上高は世界4位ですが、海外に投資の軸足を移し、世界トップを目指します。

――中国でもここ数年、地場人材会社へ積極的に出資しています。今後、さらにダイナミックな投資が展開されるのでしょうか。

 リクルートは06年4月、中国最大規模の求人ウェブサイト『前程無憂』を運営する51jobに出資しました。また、リクルートのグローバルブランド、RGF(Recruit Global Family)の名を冠した上海艾傑飛人力資源有限公司(RGF HR Agent)を設立し、中国において人材紹介事業を本格化しました。10年には、転職・求人サイト『カモメ中国転職』を事業譲受。さらに同年、中国最大手のヘッドハンティング会社、Bo Le Associatesの株式を14.3%取得し、 業務資本提携を開始しています。今後の具体的な投資計画は明かせませんが、独自成長と投資先との協働による成長によって、中国で質の高い総合人材サービスを提供できる体制を固めていきます。

――御社は、アジアの人材流動を商機として取り込んでいますね。

 アジアの人材流動によって、働く人、そして社会の発展に貢献することを目指す当社は、主に3つの人材流動に対し、サービスを展開しています。ひとつ目は、中国国内での人材流動。主に日系企業向けの求人・求職案件の人材紹介からスタートし、現在では欧米系企業向け、そして人材も若年層から経営層まで幅広く求職支援を行っています。2つ目は中国での新卒学生に対する日本本社就職の支援。3つ目は『カモメ中国転職』によって、主に日本にいる日本人と中国人の転職希望者に対する中国や東南アジアへの転職支援です。

新サービスを “人材獲得力”を向上させる契機に

――10年からBo Le Associatesと業務資本提携を開始しました。

 Bo Le Associatesは、香港地区に本社を置き、中国をはじめ、東南アジア全域に18の子会社、800名のスタッフを擁するアジア最大規模のヘッドハンティング会社です。特に欧米系企業に強みを持ち、欧米系、中国系の人材や組織に関する豊富なデータを有しています。当社はこの提携により欧米系企業を顧客ラインナップに加えたことはもちろん、日系企業に対してもヘッドハンティングという人材獲得手法を提案することが可能になりました。当社が得意とするミドル層を対象にした人材紹介と経営層を対象にしたヘッドハンティングとでは、ノウハウが異るがミドルから経営層までの総合提案が行えるようになりました。

――これまでどのようなヘッドハンティング案件がありましたか。

 当社が手掛けたヘッドハンティング案件では、内販拡大を目指す日系企業に対し、欧米系大手企業の営業総監をヘッドハンティングしたケースがあります。本件のような採用により、採用企業は従来の自社では持ちえなかったノウハウやネットワークを獲得することが可能になります。また、ヘッドハンティングによって、日本人駐在員のリプレイスを実現し、さらなる現地化の選択肢としても検討されるケースが増えています。

――昨年末より御社は、この提携を生かし、「給与・組織サーベイ」を開始しました。このサービスを日系企業向けに開始した背景には、欧米系、中国系を交えた人材獲得合戦が激化していることがあります。

 日系企業にとって、中国が“世界の工場”から“世界の市場”に変化する中、“内販力の強化”、すなわち“内販体制確立のための人材調達”が喫緊の課題となっています。日系企業の内販シフトが本格化する中、営業マネージャーやマーケティング人材、研究・開発人材などが求められるようになり、人材ニーズが多様化、高度化しています。従来は日本語人材を中心としたニーズが圧倒的で、“日本ムラ”の中での人材獲得競争でしたが、現在は必ずしも語学にこだわらず、優秀な人材を求め、欧米系、中国系企業を交えての人材獲得合戦が激化しています。

――一方で、日系企業の不人気が言われて久しいですね。給与の低さや発展空間の少なさなど、以前から指摘される問題が原因になっているようです。

 私は人材と組織の質が企業の競争力に直結すると信じており、日系企業の不人気に大変危機感を覚えています。人材に欧米系企業と比較される中で、日系企業の相対的な劣位が目立ってしまっています。この傾向は、特にリーダー層以上のクラスで明瞭です。一方、新卒人材をみると、せっかく手塩にかけて育てた人材が、2、3年後に欧米系企業の草刈場になっている現実があります。自社の戦略を定める中で、市場を知り、ライバルを知ることは必須のプロセスです。その中で、日系企業の皆さまに本サービスを“人材獲得力”“内販力”を向上させるソリューションとしてご活用いただければと思います。

――反転攻勢のために、日系企業全体で自分たちの良さをアピールしていくことも求められそうですね。

 中国に進出している1社1社が“消費市場”に対面していると同時に、“労働市場”にも対面していると意識することがまず大切だと考えます。製品の魅力は説明できても、働く場としての自社の魅力を説明できない、またはアピールし切れていないというのが大方の現状ではないでしょうか。現在の中国において、高度な人材ほど、給料だけでなく、発展空間、将来価値、自分がどう成長できるかを重視する傾向が強まっています。それに応えられるのか、いま日系企業が問われています。同時に、日系企業の良さ、例えば人材を長期的視点で育てていく点をアールしていくべきでしょう。当社は、労働市場に直面する存在であり、少しでも多く、日系企業の人材獲得の成功にお役に立ちたいと願っています。日系市場内でのシェア争いといった視野ではなく、中国市場全体を捉えながら、日系企業全体の底上げに貢献していきたいと思っています。

エリート学生の本社採用支援

―― 昨年11月、第2回目となる「啓程日本/WORK IN JAPAN」を、上海と北京で開催しました。

 WORK IN JAPANでは、将来の幹部候補となる中国、アジアのエリート学生を日本企業に紹介し、日本企業のグローバル人材育成に貢献しています。中国においては昨年、北京大学、清華大学、復旦大学、交通大学など、重点大学39校を中心に1万2000人の応募者がありました。参加企業数も前年比2倍の44社となり、同種のイベントとしては質、規模ともトップクラスと評価を受け、大変好評です」

――日系企業の不人気の中で、エリート学生にWORK IN JAPANへ参加してもらうのは簡単ではないのでは。

 当初、各大学の反応は良くありませんでした。『欧米系や国営企業への就職を希望しており、日系企業は考えたことがない』という学生の回答が大勢を占めました。しかし、WORK IN JAPAN事業の専任スタッフ15名が各校を回り、繰り返し説明会を開催し、学生に日本企業で働く意味や日本での生活の魅力、採用企業の具体的な仕事内容などについて説明するなど、地道な啓蒙活動を続けてきました。説明会参加者の中には、普段日本と接する機会がほとんどない学生も多く、説明会をきっかけに日本企業や日本そのものに興味を持った方も多数います。

――何がポイントになり、学生は日本での就職を決意するのでしょうか。今年秋もWORK IN JAPANを開催しますね。

 参加企業の事業や仕事の魅力、待遇の良さに加え、日本本社の社長や役員がわざわざ中国まで面接に参加していることに感銘を受け、自分たちが重視されていることを実感し入社に至るケースが多いようです。第3回目を迎える今年は、さらに規模を拡大して上海と北京で開催します。また、イベント終了後も規模を小さくした新卒採用イベントを定期的に開催します。今後もグローバルに活躍したい中国の学生と、事業のグローバル化を求める日本企業の双方にとって意味のあるサービスとして、提供し続けていきます。

毎朝開催するRGF のテレビ朝礼 団結力向上とボトムアップを実現

 今年6年目を迎えた上海艾傑飛人力資源有限公司。現在、中国全土に7拠点を設け、スタッフは総勢180人体制となっている。現地化を順調に進めており、各拠点長のほとんどが中国人社員で占められる。同社董事長の舘氏は、「当社では率先して、人材現地化や新たな人事制度などに取り組んでいる。そのノウハウが少しでも他社の参考になればうれしい」と話す。

 同社のスローガンは「強い個人、強い組織、そして楽しい職場―」。個人と組織が相乗効果を高めるという考えの下、社員教育に熱心に取り組んでいる。半期に一度、30名を超す幹部層に対し、上海や日本でリーダーシップ、チームビルディング、ロジカルシンキング、ミッションビジョンなどの研修を実施している。

 特筆に値するのが、毎朝全社員が参加する「テレビ朝礼」。「人材の地域別固定化の問題などから、中国では拠点間のばらつき、たこつぼ化が発生しやすい。いかに情報交流を促し、チームワーク向上とボトムアップを図っていくかがポイントになる」と舘氏は述べる。

 朝礼では、テレビ会議システムを使い7拠点をすべて繋ぎ、プロジェクターに全社員を映し出す。小さな拠点の社員も180人の同僚が全国にいることを意識させるのが狙いだ。

 毎日、情報共有や関連図書を題材とした勉強、そして新人社員インタビューなどを行っており、「さながら毎朝、全社総会が行われているような熱気に包まれている」(舘氏)。(情報提供:ウェネバー/ビズチャイナ/ビズプレッソ 取材担当:岩下祐一 編集担当:水野陽子)

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1978年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、02年リクルート入社。営業、人事、経営企画を経て、06年10月に上海に赴任。リクルート中国として初の人材ビジネスを開始し、09年10月より現職。現在、独資展開する大陸7拠点(北京、天津、大連、上海、蘇州、広州、深セン)を統括するほか、投資先との共同事業の責任者を務める。

上海艾傑飛人力資源有限公司(RGF HR Agent)住所:上海市淮海中路8号蘭生大厦901−906室TEL:(021)6334−3355URL:http://www.rgf-hragent.com.cn/jp/その他の拠点:北京、天津、大連、蘇州、広州、深セン