【渡辺 陽一郎】中国EV「BYD」は日本市場を本気で狙っている…”残クレ”テスラを尻目に、軽自動車の徹底研究に取り組んでいた

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現在、世界のEVシフトは若干軌道修正されつつあるが、それでも普及率は確実に高まっている。一方、日本のEV普及率は低調だ。2025年1〜12月における日本国内の乗用EV販売台数は約6万台で、乗用車の販売総数に占めるEV比率は1.4%だった。

しかし、そんな中で日産のEV軽自動車「サクラ」の販売は堅調だという。対して、2040年までのエンジン全廃を掲げたホンダは、相次ぐ開発中止や車種廃止で混迷を極めている。

前編記事〈《EVが売れない日本》で日産の軽EV「サクラ」だけが好調なワケ…迷走するホンダより日本市場を正しく理解していた〉で、詳しく解説している。

ただ一方、最近の日本市場では、BYDやテスラといった輸入車の猛攻も激しい。

引き続き、カーライフ・ジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

輸入車のEV比率は高い

EVのもうひとつの売れ筋カテゴリーは輸入車だ。2025年の輸入EV販売台数は3万台を超えた。この内の約1万台がテスラと見られ(テスラは正確な国内登録台数を公表していない)、BYDも一部のプラグインハイブリッドを含めると4000台近くを登録した。

さらにメルセデスベンツ、BMW、アウディなどの輸入車では、国内で売られるEVの車種が豊富だ。1車種当たりの登録台数は少ないが、EV全体の販売規模が約6万台に留まるため、輸入車比率が約50%に高まった。

ちなみに乗用車全体で見ると、海外メーカーの輸入車は、国内販売台数が圧倒的に少ない。2025年の小型/普通乗用車市場に占める輸入車比率は約10%だ。それがEVに限ると50%に達する。そこにサクラの23%を加えると70%を超える。

このような状況だから、海外メーカーが日本市場を攻略したいと考えたなら、EVを足掛かりにすると成功する可能性が高い。しかもEVは、様々なハードルはあるものの、将来的に有望なカテゴリーだ。

BYDは日本市場を徹底研究

そこでBYDは、軽自動車でEVの「ラッコ」を2026年6〜8月に国内で発売する。全高が1700mmを上まわるボディにスライドドアを装着したスーパーハイトワゴンだ。

このカテゴリーには、国内販売1位のホンダN-BOX、好調に売られるスズキ「スペーシア」やダイハツ「タント」も含まれる。日本一の売れ筋カテゴリーなのに、日本メーカーが、2026年内にスーパーハイトワゴンのEVを投入する話は聞いていない。

そうなるとBYDがラッコを日本のユーザーに合った安心感の高い方法で販売すれば、売れ行きを増やし、BYDが日本のEV市場でトップを取ることも不可能ではない。

軽自動車は、ほぼ日本専用の特殊なカテゴリーで、海外メーカーの本格参入は不可能とされてきた。BYDの関係者によると「中国の開発者は、軽自動車について、日本のスタッフの話をしっかりと聞く。細かな収納設備のニーズについても、説明を重ねると理解して、設計に反映させた」という。

BYDの開発者は、ラッコの開発を通じて、販売面も含めて日本市場を深く理解しただろう。今後も日本メーカーに近い視点で、EV開発を行う可能性が高い。

BYDはディーラー網の充実、認定中古車の普及にも積極的に取り組む。今までの海外メーカーは「販売店の整備や認定中古車は、販売台数が増えてから始めればいい」と考えていたが、これでは日本のユーザーには響かない。

日本には前述の通り、サービスの行き届いた日本車ディーラーが膨大にあり、EV市場を除けば輸入車シェアは低い。

この背景には、輸入車に対する不安がある。BYDは、まずはディーラー網や下取り価格を高く保てる認定中古車制度を初期段階に整えて、ユーザーの不安を払拭しようと考えている。

このやり方はおそらく日本人スタッフの発案だ。BYDは日本市場を重視しているから、多額の投資が必要なディーラー網の整備から乗り出した。BYDの取り組み方は真剣だ。

テスラも“残クレ”で猛攻

国や自治体の販売促進対策としては、補助金の交付がある。補助金はプラグインハイブリッドや燃料電池車も対象にしているが、EVはかなり手厚い。

例えば2026年3月上旬時点で、日産「サクラ」には、国から54万7000円の補助金が交付される。サクラXの価格は259万9300円だから、国の補助金額を引くと205万2300円だ。エンジン車のルークスハイウェイスターGターボの215万9300円よりも少し安く手に入る。

さらに都道府県や市町村も、国とは別に補助金を交付することがある。多い地域では40〜60万円を受け取れるから、地域によっては、同サイズのガソリンエンジン車よりも大幅に少ない出費でEVが手に入る。

ただし補助金の原資は税金だ。EVとエンジン車の価格差をある程度補助するなら理解できるが、補助金の交付でEVがエンジン車よりも安く手に入るのは行き過ぎだ。不公平が拡大され、補助金に頼る販売方法に慣れると、交付されなくなった時に売れ行きを下げてしまう。

BYDは「BYD補助金」と称して大幅値引きを行ったり、テスラも残価設定ローン(残クレ)の0%金利を実施したりした。このような短期間の販売促進キャンペーンは以前から日本車でも行ってきた。本来なら値下げすべきだが、輸入車の場合、今は円安でもあるから価格を下げるのは難しい。そこでこのような短期的な施策を講じる。

以上のようにEVについては、商品だけでなく、市場動向にも不明な点が多い。特に日本のEV環境は「実験段階」といっても大げさではない。そこでBYDなどは、今がチャンスとばかり意欲を見せている。

迷走が続くホンダ

日本のEVで明らかなのは、先に述べた通り、軽自動車などセカンドカーとして使えるコンパクトな車種が適するということだ。

ホンダは軽自動車の「N-ONE・e:」を投入する代わりに、コンパクトカーの「ホンダe」を廃止した。ホンダeは国内市場に適したEVで、相応の支持を得たのに廃止したから、ユーザーは乗り替えるクルマを失った。

ホンダはCR-Vも廃止と販売再開を繰り返しており、ユーザーの気持ちを考えない身勝手な企業活動が目立つ。車種が廃止されるとユーザーはメーカーから見捨てられたような悲しい気持ちになるが、ホンダはそこを理解できていない。日頃からユーザーに接している販売店の声を真摯に聞くべきだ。

ホンダに限らず、EVの普及にも、同様のことが当てはまる。

「ユーザーはどのような気持ちなのか」「ユーザーは何を望んでいるのか」を最優先して、販売店の意見も尊重しながら商品開発や販売を行うべきだ。そうすれば進む方向を誤る心配はない。

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