@AUTOCAR

写真拡大 (全6枚)

高額通行料 払わないと轢かれる?

茨城県神栖市の太平洋沿いを走る「波崎シーサイド道路」は1970年、鹿島臨海工業地帯の開発に向けて茨城県が施工した。

【画像】わずか500mに4万円【逮捕者もでた「波崎シーサイド道路」に行ってみた】 全27枚

茨城県警神栖警察署によると、無料で通れて信号がなくスピードが出せることから「弾丸道路」と呼ばれていた時代もあったとのこと。銚子方面から鹿島工業団地にクルマ通勤する人にとっても理想的な通勤ルートだった。


茨城県神栖市の太平洋沿いを走る波崎シーサイド道路。海岸沿いには風車(風力発電機)が設置されており、有名映画の撮影がおこなわれたこともある。そんな波崎シーサイド道路は一部が「私有地」となっており、私有地の手前には絶景に似合わぬ看板が設置されている。

11月8日午後4時50分頃。その波崎シーサイド道路でとんでもない事件が起きた。

実はこの道路、一部が私有地となっており、通行するには途方もなく高額な「通行料」を支払わないといけない。

その額はなんと「4万円」!

通行するのに500円支払えばよかった時代も長くあったが、諸事情によりその後、1万円→3万円→4万円と値上がりをして現在に至る。

近所ではトラブル発生の場所として有名な場所であり、これまでもたびたび、通報によってパトカーが急行してきた場所でもある。

このたびの事件で被害を受けたのは43歳の会社役員だ。

おびただしい数の進入禁止看板を無視して私有地に入ったところ地権者に通行料4万円を請求された。

しかし、通行料を支払う意思を見せず、地権者と口論になってしまった。

そして地権者である70歳男性はその会社役員に向かってクルマを急発進。丸腰の会社役員はぶつけられて転倒し、全治2か月の重傷を負った。

神栖警察署の担当者は以下のように明かす。

「会社役員の男性が何を目的に私有地に進入したかは不明ですが、請求された4万円を払わないことに地権者が怒り、立ちはだかる会社役員めがけてクルマを急発進させました」

「会社役員はひとりだったこともあり、警察には被害者自身が通報しています。結果的に骨折していたことがわかり全治2か月という診断を受けましたが、その場で意識がなくなるようなケガではなかったのでしょう」

地権者逮捕 なぜ逮捕まで1か月?

事件発生から約1か月が経過した12月5日。神栖警察署は地権者の男性を「傷害罪」で逮捕した。

自動車を急発進させて丸腰の人間めがけて突進していくなど、殺意さえ感じさせる異常な行動であるが、なぜ逮捕まで1か月近くかかったのか。前出の神栖警察署に事情を尋ねてみた。


警察は地権者の男性を「傷害」で逮捕した。「過失」でケガを負わせた場合に適用される「過失運転致傷」よりも重い、「故意」でケガを負わせたとして逮捕に至った。

――なぜ、逮捕まで1か月もかかったのでしょうか?

「現在、まだ捜査中なので詳しいことはお伝え出来ませんが、地権者の男性は容疑を否認(黙秘)していました」

「被害者が波崎シーサイド道路の私有地に入った理由や動機は明らかになっていませんが、被害者に向かってクルマをぶつけてけがを負わせたにもかかわらず、地権者は故意にぶつけたことを認めませんでした」

「あくまでも『過失』によって被害者を転倒させてしまったと。クルマを運転して『過失』でケガを負わせたとなると、『過失運転致傷』など、交通事故と同じ状態になります」

「しかし、警察としては状況から見て意図的にぶつけたのは明らかだと判断し逮捕に至りました。そのような経緯があったために少し時間がかかったのです」

――波崎シーサイド道路のこの場所はこのようなトラブルがこれまでもありましたか?

「詳しくはお答えできないのですが、無断進入したクルマが地権者に見つかり、高額な通行料を請求されて払う、払わない、でいざこざになることはあったと思います」

「4万円の通行料を請求されて困っているとして通報されるようなケースはありました。ほとんどは、通行料の支払いを請求された側からの通報です」

「トラブルが増え始めたのは2006年頃からです。わたしの記憶では2003(平成15)〜2004(平成16年)頃は通れていたと思います。波崎トライアスロン大会(1987年に第1回開催。2010年以降休催)のコースとして使われていたこともあります」

なぜ私有地に道路ができてしまった? 

いつからこのような状態になったのか?

神栖市役所道路整備課に経緯を聞いたところ、「本件は1994年に土地の所有者から『わたしが所有する土地に道路(波崎シーサイド道路)が通っている』という申し出があったことが発端です」という答えだった。


私有地手前には道路上に多数の看板が設置されている。神栖市としては私有地部分を買い戻したいと考えているわけだが、金額に折り合いがついていないという。トラブルが起こらないよう、多数の看板を設置して迂回を指示するようになったというわけだ。

地権者はこの年裁判を起こして勝訴しており、その後神栖市(当時は合併前の波崎町)は封鎖された道路に誤って進入しないよう看板の設置を始めたというわけだ。

そもそもなぜ、私有地に県が施工する道路が通ってしまったのか?

なかなか複雑な事情だが過去に報道された内容をまとめると……
・地権者の父親がシーサイド道路沿いにある土地を購入したが、その一部に道路部分約90m分が入っていた。

・父親は旧波崎町に対して土地の境界線をめぐって裁判を起こした。一審敗訴の末、控訴審で逆転勝訴し道路部分を含む約1000坪が私有地として認められた。

・この土地は元々、地権者の先祖が持っていた土地だったが別の人に所有が移った間にシーサイド道路が開通した。

神栖市としてはこの道路を買い戻して以前のように無料で供用したいと考えているわけだが、金額に折り合いがついていない。

せめてトラブルが起こらないよう、多数の看板を設置して迂回を指示するようになったというわけだ。

波崎シーサイド道路は銚子大橋を渡って千葉県→茨城県に入ったあたりから神栖町日川浜までの約15kmの道路で問題の私有地として封鎖されているのはこのうちの約500mだ。

グーグルマップで「銚子大橋→日川浜オートキャンプ場」で検索すると、私有地の部分を迂回する形でルート案内される。

かつてはこの500m区間は通行料500円で通れたとのことだが、その後、値上がりを続け現在は4万円というとんでもない金額になっている。

というより、最近ではそもそもこのエリアは通行を禁止しているので、それに従わずあえて入ったクルマに対する罰金のようなものと考えるのが妥当だろう。

現場に近づくにつれて「進入禁止」、「この先私有地、迂回せよ」などの看板が次々と現れる。

私有地道路の南側・北側両方の入り口に数百m手前から「私有地」がこの先にあることを知らせる看板が現れ始める。

「警告WARNING この先私有地及び共有地の為 進入禁止!KEEP OUT! 神栖市」

「注意STOP この先、私有地(駐車場)利用・関係車両以外 通り抜け禁止 神栖市」

「この先の通行止め区間内に置いてのトラブルや係争について当市は一切関与しない 神栖市」

このような看板が多数設置されており、最終的に私有地の入り口はコンクリートブロックや単管を組んだバリケードによってその先には進めない状態となっている。

無断進入の罰則は「車両預かり」

私有地の入り口(メインとなる北側)には、「私有地につき通行止め無断進入した場合は四万円を徴収します」、「支払いができない場合は車を預かります。預かり料は1日4万円ずつ増えます」という恐ろしい文言が並ぶ。預かり料も1日4万円だ。

だがここは裁判で認められた私有地であり、そこに至るまで数多くの警告看板も設置されているわけだから、文句は言えないだろう。


私有地手前にはインターホンや防犯カメラが設置されている。

また、「御用の方はインターホンをお使いください。地主」の看板にはインターホンも設置されている。

筆者はインターホンで呼びかけてみたり、防犯カメラに向かって手を振ってみたりしたが応答はなかった。

北側入口の先に地権者のプレハブ小屋のようなものがあり、そこにはスズキ・ワゴンRとナンバー無しの「草ヒロ」となったダイハツ・ネイキッドが停めてあった。

いっぽう、反対側の南側入り口も同様の看板とバリケードが設置されておりバリケード前には、地権者の名前と携帯電話の番号が記されている。

インターホンがない代わりに携帯で連絡する仕組みとなっているが、こちらも電話してみたが応答はなかった。

このような状況であるため波崎シーサイド道路経由でこの場所に訪れるならば、「間違って私有地部分に進入してしまった」という状態はありえないだろう。

ただし、波崎シーサイド道路の周辺には砂浜と行き来できる枝道が多数ある。

近所の人の話によると、ジムニーのような小型4×4であればこの枝道を経由して波崎シーサイド道路の有料部分を横切っていくことも可能とのこと。

実際に4万円を支払った人も……?

では、これまで実際に「4万円」を支払うことになったケースについて紹介しておきたい。

われわれが取材に訪れた際、たまたまその場に犬の散歩に来ていた方に話を聞くことができた。


地権者の親族が防犯カメラで見張っており、見つかるとスピーカーを通じて警告または通行料の請求がなされるという情報もある。どうしても通行したい場合には、4万円払う覚悟が必要である。

「釣り仲間なんですけどね。4万円を支払った者がいますよ」

「『なんで? あそこは4万円請求されるの知ってるでしょ? 』って聞いたら、『それはわかってた。だけどトイレ行きたくてどうしようもなくて……』と」

「釣りの最中に海側からトイレに行くために、どうしてもその私有地を通らないとダメで、わかっていたけどそこを通ったら、地権者に見つかって請求されて仕方なく支払ったそうです」

「われわれ近所の人間はもう相手にしないというか。無視していますけどね。迂回すればいいわけだし」

「このあたりで釣りをする人はみんな小さな4×4に乗ってますから。裏道を通って行き来できるんですよ。でも、例えば釣った魚をお裾分けするとか、何かしら『貢ぎ物』をすることで無料で通してもらっている人もいますよ」

なお、SNSにおいて「地権者が傷害罪で逮捕されて不在だから、いまなら波崎シーサイド道路が無料で通り放題」などの投稿があるが、実際それはかなり困難だ。

地権者が逮捕されたとはいえ、ここが私有地であることに変わりはなく、バリケードもありクルマで進むことはできない。

地権者の家族が防犯カメラで見張っており、見つかるとスピーカーを通じて警告または通行料の請求がなされるという情報もある。

過去には地権者の関係者からいきなり水中銃で撃たれた海水浴客もいる。

ちなみに、「歩いて入っても請求された」例もあるそうなので、近寄らない方が無難である。もちろん、4万円を払う覚悟があれば別だが……。