「彼女いないって言ったのに…」。平気で嘘をついていた男の、身勝手すぎる言い分とは
日々、新しいショップやレストランがオープンし、アップデートを繰り返す街・東京。
東京で、そのすべてを楽しみつくそうとする女を、時として人は「ミーハー女」と呼ぶ。
ミーハー女で何が悪い?
そう開き直れる女こそ、東京という街を楽しめるのだ。
PR会社に勤務するミハル(27歳)も、最新のものをこよなく愛する「ミーハー女」である。
ただミハルの場合は、恋愛においてもミーハーであり、それが人生を少しだけハードモードにしていたのだ。
PR会社で働くミハル。仕事で一緒になった匠からのアドバイスを受けながら、良い恋愛をするために努力をしていたはずだったが…。

ー匠さん、話がありますー
ミハルは眉間にシワを寄せ、画面を睨みつけるように見つめながら、携帯を握りしめた。
どうして都合のいい女になってしまうんだろう。どうして騙されてしまうんだろう。そんな言葉が頭を巡っていると、匠から返事が届く。
ーごめん。今、買い物中。夜ご飯は予定あるけど、その後、お茶でもしよっかー
携帯の画面をぼんやりと眺めながら、ミハルは一連の出来事を思い返した。
◆
ーこれって運命かも!
季節はもう冬になるというのに、ミハルの心は春の日差しをうけたように、浮き足立っていた。
迫り来るクリスマスを一人で過ごすまいと、手当たり次第に参加していた食事会。そこでようやく、彼に出会ったのだ。白金高輪在住、東大卒の起業家。ハーフのようにはっきりとした目鼻立ちをした彼は、その輝かしい経歴に負けないくらいの輝きを見た目からも放っていた。
食事会2軒目で、何気なくした映画の話。すると、好きな映画だけでなく、好きなセリフまで、驚くほどに一緒であることが発覚。すっかり盛り上がった2人は、デートの約束を取り付けたのだった。
「こんなに好きなものが合うだなんて、すごくない?今回はステータスだけじゃないよ!」
デートに向かう道すがら、ミハルは祐里奈に喜んで報告した。祐里奈はミハルの勢いに圧倒されているようだったが、すぐに冷静な意見を口にした。
「いいねぇ〜。でも、そんなに素敵な彼だったら、彼女とかいないの?」
「それはもう、チェック済み!もう2年くらい、彼女いないんだって」
自信満々に返事をするミハルに、祐里奈も釣られたように明るい声を出した。
「それは優良物件!ミハル、しっかり捕まえてくるんだよ」
「もちろん!」
意気揚々と電話を切ったミハルは、この後に”運命の彼”から衝撃の事実を知らされることになるとは、まだつゆほども思っていないのだった。
運命の彼のはずが、実は嘘つき男!?デート先で起きた想定外の出来事。
夕方から雨予報だというのに、空がいつもより青く感じた。
今日のデート場所は、オープンしたばかりの「コレド室町テラス」。インスタのストーリーにあげるために、賑わうマルシェの様子をミハルが撮影していると、後ろから声がした。

「ミハルちゃん、さすがだね。撮るのが上手」
振り向くと、そこには「運命の彼」の恵介がいた。
「さ、お店の中を見に行こう」
ミハルが立ち上がると慣れた様子でエスコートをする恵介に、ミハルは思わずドキッとした。
「このセレクトショップ、台湾発で日本初上陸なんだって〜」
「台湾か。旅行で行ったけど最高だったなぁ」
「え!私も台湾大好き!」
映画だけじゃなくて、旅行の好みまで似ているだなんて、全ての相性が良い気がして、ミハルはさらに気持ちが高まり、うっとりと恵介を見つめた。
「喉乾いたし、タピオカでも飲む?」
目の前に現れたタピオカ屋を見て、茶目っ気たっぷりに聞いてくる恵介にミハルは跳ねるように返事をした。
「うん!」
列の最後尾に向かおうとすると、その中にいた男性が突然声をあげた。
「恵介さん!こんなところで何してるんですか」
「おぉ〜久しぶり。タピオカ並ぼうと思って」
おそらく後輩であろう男の子との遭遇に目を丸めながら、恵介はニコニコと返事をすると、後輩は思い出したかのように言葉を放った。
「そういえば、婚約おめでとうございます!」
無邪気な後輩の一言に、ミハルは耳を疑う。
ーえ、婚約...?今、間違いなく婚約って言った...?彼女いないって言ってたのは嘘だったの?
目の前が真っ暗になり、ミハルぼーっと床を見ながら立ち尽くす。
「あ〜うん、ありがとう。じゃ、また連絡する」
恵介は苦笑いをしながら、その場から一刻も早く立ち去ろうとするように、後輩に手を振り、歩き始めた。
後輩も、ミハルの顔を見て「しまった!?」というように焦りの色を浮かべたように見えた。
ミハルも気まずい思いのまま、逃げるように後輩にぺこりとお辞儀をし、恵介の後を追った。
「来年結婚する」嘘をついていた男の驚きの言い分とは
ミハルと恵介はしばらく無言で歩いていたが、痺れを切らしてミハルが先に言葉を発した。
「婚約してたの...?」
絞り出すようなミハルの言葉に、恵介は深いため息をついた。
「うん。来年結婚する」
「彼女いないって言ってたからてっきり恋人いないのかと思った」
「確かに言ったよ。あれは本当でもないけど、嘘でもない。婚約者はいるけど、彼女ではないからね」
少し面倒そうにミハルの質問に答えた恵介は、片手に持った携帯に目をやると、急にミハルの方を振り向き困ったような顔をした。
「ごめん、仕事が炎上してて、会社行かなきゃいけないみたい。また連絡する!」
そう言って逃げるように走り去っていく恵介の後ろ姿を、ミハルは唖然として真ん丸な目で見つめていた。

近くのベンチに座りながら、ミハルは浮かれていた自分を恥ずかしく思った。食事会で突然現れた優良物件が、運命の人になるわけないのだ。そんなことわかっているはずなのに、どうして簡単に信じたんだろうか。どうして、都合のいい女になってしまうのだろうか。
喉の奥が締め付けられるような感覚になり、泣き出したくなる気持ちを抑えながら、ミハルは携帯を手に取った。
胸の奥が重くなるこの気持ちをどうにかしたい。でも祐里奈に電話したら、きっと呆れられてもう口も聞いてもらえないだろう。誰か...。そう思いながら電話番号の一覧に指を滑らせていると、ピタッとミハルの指が止まる。
ー匠さん
そこに書かれた名前を見つめて、ミハルは電話を鳴らした。しかし、匠がその電話に応えることはなかった。
諦めて電話を切りながら、藁にもすがる思いでLINEを送ると、匠から返事が来た。
夜ご飯の後に、お茶ができる。救われたような気持ちになりながら、ミハルは遠くを歩くカップルを見つめた。
ー私とあの人たち、何が違うんだろう。
いい女のはずが、都合のいい女、になってしまうワケ
雨に濡れた傘を閉じながら、匠は店に入って来た。
「ごめん、遅れた。で、またデートでもドタキャンされた?」
意地悪そうに笑う匠に、ミハルは目を細めて睨みをきかせた。

「彼女がいないと思ってたら、婚約してました」
「あはは!何それ、最高だね」
あまりにも大きな声で笑う匠に、ミハルは恥ずかしくなって思わず店内を見渡した。
「笑い事じゃなくて。どうして私、都合いい女になっちゃうんですかね」
真剣な目つきのミハルに、匠は椅子に座りなおし、姿勢を整えた。
「きっとさ、優しすぎるんじゃない?なんでも許してくれそうというか。」
「優しい…。でも私、別になんでも許せる人じゃないです。」
眉間にシワを寄せながら、口を尖らせて不服そうに答えるミハルを、まぁまぁとなだめながら匠は話を続けた。
「そうなんだけどさ。ミハルちゃんっていつもニコニコしてるから優しそうに見えるし、仕事もちゃんとしてるから物分かり良さそうに見えるのよ。今回だって、その嘘つき男に、もう連絡しないでしょ?」
「だって婚約してたら、婚約相手にも申し訳ないしもう連絡できないです...。」
手元のコーヒーを見つめながら話すミハルに、匠は穏やかな声で話す。
「そうだね。そうやって知らない婚約者のことも思いやっちゃうあたり、優しいんだよね。ミハルちゃん、いい女なんだけどさ、それが裏目に出て、都合よくなるんだよね。」
「じゃあどうしたらいいんですか?」
すかさず顔を上げ、助けを求めるようにミハルは匠を見つめた。
「相手の思い通りに、動かないこと。LINEすぐ返したり、デートにすぐ行ったり、男が”この子、落とせた”って思ったらアウトだね」
「でも、好きな人から連絡が来たら嬉しいし、自分の気持ちには素直になりたいです。」
子供のようにまっすぐな目をしたミハルに匠は思わず笑みがこぼれた。
「いいね、まっすぐで。でもね、世の中、だいたいみんなが自分に都合よく生きている。だから、その人たちに流されないようにするために、すぐに飛びつくんじゃなくて、少しだけ線引きをすることも必要だよ。物事に対してはミーハーでも、恋愛はミーハーにならないこと!」
「なるほど」
ふむ、と言わんばかりに、顎に手を当てて考えるミハルを眺めながら、匠はまた意地悪そうな表情を浮かべた。
「ミーハー女、これでまた一つ成長したね」
「もう、馬鹿にしてます?」
ミハルは口元を緩めてにやけながら冗談っぽく匠を睨んだ。
「お客様、閉店のお時間です」
店員に声をかけられると、2人は笑いながら席を立った。
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