ARを使い複数で遊べるアプリ「算数忍者AR」も展開

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 アプリを起動し、案内に従ってタップしていくとゲームがスタート。テンポよく問題が出題され、正解するごとにキャラクターが敵を倒す。ステージクリアでキャラクターカードがゲットできる。一見するとソーシャルゲームのような作りだが、やりこんでいくことで平均500問の計算や漢字問題を解くことができる。
 この学習アプリを開発しているのがファンタムスティック(港区六本木)だ。現在37本のアプリを提供しており、107カ国で350万ダウンロードされている。学習にゲームの要素を取り入れるなど(ゲーミフィケーション)、「反復学習」を楽しく行うことができる。さらに特別支援学級での実証もスタートし、成果が見え始めている。代表取締役のベルトン・シェイン氏に伺った。(取材・昆梓紗)

―提供する学習アプリが世界中でプレイされています。
 いままでに世界でのべ15億問以上回答されており、これを計算ドリルなどの問題集に換算すると100万冊に相当します。中国や韓国などでダウンロードの伸びが見られます。計算はノンバーバル(非言語)なので共通の学習方式で行える利点があります。

―計算や漢字などに着目したのはなぜですか。
 計算や漢字などの「反復学習」はインプットの作業です。数をこなして慣れていく学習はつまらないと思われがちで、子どもたちも飽きてしまいます。それをより面白く学習してもらうために、ゲーミフィケーションを取り入れたアプリを開発しようと考えました。
 開発のきっかけは、子どもが習っていないのにいつの間にか算数アプリで遊んでいた経験から。それを見て、反復学習は初めに説明しなくても数をこなしていけば自然とできるようになっていくのではと思いました。
 反復学習のようなインプットと、覚えたことを複数結び付けて自分のアイデアとして発表するようなアウトプットは分けて考えています。インプットはアプリなどで反復して行い、応用が必要なアウトプットは先生の指導や授業で行っていくのがよいのかなと思い、弊社では反復学習用アプリを主に開発しています。

―スマホやタブレットを何歳から与えるか悩んでいる保護者も多いと思います。
 自分の端末を「所有する」というのはまた違ってきますが、学習などで取り入れるのであれば2歳からでも構わないと考えています。弊社のアプリ使用時間を見たところ、平日朝8時と夕方6時が多かったんです。これはおそらく家事をしている時間ですよね。「子どもが静かにしてほしい」時に渡しているので、そういった時にただゲームや動画を見るのではなく、学習に活用してもらえればなと思います。

―ゲーミフィケーションはどのように取り入れていますか。
 まず問題を解くステージを並べたマップを示し、「ここまで進めよう」「ボスを倒そう」などと目標設定をシンプルかつ明確にします。また、ステージをクリアするごとにランダムでカードを獲得することができるという報酬を設定します。アプリはウェブブラウザのゲームや据置ゲームなどと違い1つの画面に入れられる情報量が少ないため、一方通行で進むような仕組みがプレイしやすいです。1つのアプリで「足し算」「掛け算」「漢字の読み」など出題範囲を絞ることで目標を絞り、反復学習を促しています。

―出題範囲を絞ると学習に広がりが持てないようにも思えますが。
ある利用者から、「漢字が読めるようになったことで、学校で漢字を書くときにもすごくスムーズに学習できるようになった」という声をもらいました。もともと得意な子であればいいのですが、苦手な子はまず読みや計算に慣れてもらうことが重要です。

―子どもが飽きないような工夫は。
 テンポよく進めることです。学習に入り込むには、いかに注意をそらさないかが大事。アプリを開いてからゲーム開始までに説明を挟まず、問題に間違えたら教える、という設計にしています。
また画面の切り替え、ボタンの反応など細部までこだわっています。子どもたちはすでにスマホの扱いに慣れている場合が多いので、ボタンを押した時に待ち時間が発生するとすぐやる気をなくしてしまいます。子どもの想像以上の動きをすることにこだわっています。
 また実際に子どもたちに遊んでもらいフィードバックすることも大切です。アプリの試作を渡して遊んでもらい、5分以内に飽きられたら面白くなかったと判断し、修正を加えています。子どもも気を遣うので、面白くなくても数分はやってくれるんですけれど(笑)

―反復学習以外に、スマホやタブレットで学習するメリットは。
 実は勉強するにあたり、紙や鉛筆が学習の妨げになっている場合があるんです。綺麗な字を書く、消しゴムで消す、決められた枠に記入する、などがハードルになる子どももいます。アプリであればタップするだけで複数のツールを使いこなさなくてよいので、学習に集中することができます。
 特に発達障害や学習障害を持つ子どもへの学習効果があるようで、保護者からも「学習障害の子どもが勉強できるようになりました」という声が多く届いています。

―いままでの勉強のスタイルでは合わなかった子たちの受け皿にもなっているのですね。
 現在、千葉県市川市立新浜小学校の特別支援学級での共同研究を進めています。同学級を担当する先生が実験的に1年間弊社の算数と漢字アプリを授業の学習補助として活用してくれました。算数ができなかった子ができるようになったとのことで、20台のタブレット端末を導入し本格的な実証がスタートしました。今後支援学級だけでなく普通学級でも導入してみたいですね。どちらにせよ、反復学習や覚える時間を短縮し、より応用やディベートに多くの時間をとれるようになればと考えています。

―今後の展開は。
 総合的にいろいろな教科を学べるサブスクリプション型のプラットフォームを今年度末にリリースする予定。毎月新しい内容を配信し、できる子はどんどん先取り学習をしていけるような内容を想定して開発を進めています。弊社では学年や単元ごとにアプリをリリースしていたのですが、「もっと上の学年のアプリも欲しい」といった声が増えてきたことを受けています。
 いずれにせよ、今の学習スタイルについていけず困っている子を助けたい。教室の中でも、先生の話を半分聞けばわかる子、最後まで聞いてわかる子がいる一方で、いくら聞いてもわからない子もいる。他のやり方であれば理解できたかもしれないけれど、つまずいたまま置いて行かれてしまう。でも実は天才かもしれない。そういった子にアプリを使ってもらうことで、将来才能を開花させる手助けになれればいいなと思いますね。

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特別支援学級での実証がスタート
 千葉県市川市立新浜小学校の特別支援学級では2019年7月よりタブレットにてファンタムスティックのアプリを授業に導入する実証をスタートした。学年主任の伊勢太惇先生に取組みの経緯と効果について伺った。

―タブレットでのアプリ教育を授業に取り入れるきっかけは。
 2018年度ソフトバンクの「魔法のプロジェクト」に応募し、タブレットを2台提供してもらいました。そこで「算数忍者」を見つけ、当時6年生の生徒に使ってもらったところ、すごく計算が嫌いな子だったのにスラスラ解いていたので驚きました。
 特別支援学級は興味関心が移りやすい子が多いので、視覚的で素早く勉強できるツールがあれば勉強が効率化できるのではと思っていました。子どもたちが自走していけるのが一番の理想です。自分でやりたいと思ったときに集中できるのがいいなと思ったときにタブレットがいいなと思いました。

―紙の授業とタブレットの授業の違いは。
 問題用紙を配って「ここまでできたら教えてね」という方式だと、生徒に「できました!」と言われても「ちょっと待っててね」とすぐに対応できないことが非常に多かったんです。アプリなら問題を解いたときに正誤がすぐわかり、問題が次々に出てくるのでモチベーションが継続しやすいです。
 学級にはADHD(注意欠陥多動性障害)傾向の生徒がいます。彼らに対し光や音などの刺激を減らす環境を整備して集中を高めるというアプローチがあるのですが、アプリは結構アニメーションや音の刺激が多いにも関わらず集中して取り組んでいます。アプリの刺激は心地よいようで、刺激がいい方向に働く場合もあるというのがわかりました。興味関心が向いていることに対しては刺激がたくさんあった方がいいのかな、と思っています。
 またアプリの中には成績表機能があるので、各生徒の成長を数値で可視化しやすいことも大きな効果です。

―授業にはどのように取り入れていますか。
 「ドリルタイム」という時間を設け、授業時間最後の20分間で漢字と計算のアプリをそれぞれ10分間ずつ取り組んでいます。

―効果はいかがですか。
 生徒を習熟度別にグループ分けし、プリント学習とアプリ学習の成果を比べてみました。すると全てのグループで回答数が増加していました。特に習熟度が低いグループではその傾向が顕著に現れていました。反復練習が相当効率的にできるというのがわかりました。「やりなさい」という声かけは必要なく、自主的に取り組んでいました。
 また書くのにすごく時間がかかり、字も話すのも上手ではない子がいるのですが、漢字アプリに取り組んだところスラスラと解いていて、そこで初めて「理解していたんだ」と知ることができました。アウトプットが苦手だったので、理解できているのかを判断できなかったんです。

―ゲーミフィケーションの効果は。
 取り組んでいる子どもたちの声を聞いていると「よっしゃカードゲットした!」「次ボス倒すぞ!」などで、誰も「2+3分かった!」とは言っていないんですよね。ただ楽しみながら自発的に勉強を進められているようです。ステージクリアでゲットできるカードなど、よいタイミングで出てくる報酬は強い動機付けになっています。

―分からなくて先生を呼ぶということはありましたか。
 分からなくて、よりも自慢したくて呼ばれました。そこで「カードかっこいいね!」「やるじゃん!次も頑張ってよ!」などとすごく良い声掛けにつながりました。
 先生たちの支援の仕方も変わるだろうと注目しています。子どもたちが自主的に進んでいくので先生たちは落ち着いて客観的に子どもたちを見ることができ、適切なタイミングで褒められるようになります。

―保護者からの反応はどうですか。
 期待と不安が半々でしたね。子どもが興味を持って取り組めるのではという声が多かったです。逆に心配された点としては、執着の強い傾向がある生徒が多いのでアプリでの学習からの切り替えがスムーズにできるのかがありました。しかし実際授業をやってみるとすんなり終わることができました。授業前に「このタブレットは約束がきちんと守れる人だけが使うことができるものだよ」と話をしてから渡した効果があったようです。

―アプリにもう少し改善してほしい点は。
 回答制限時間のカスタマイズができると、できない子とできる子の使い分けができるかなと思いました。

―今後期待することは。
 黒板を見て、紙に書いて、という従来の授業の良さもちろんあるのですが、状況に応じていろいろなツールを使えるようにしたいです。今後先生はどう教えるかだけでなく、生徒一人ひとりに合った教材やアプリを選ぶこともできればなと思います。

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