ーこの人と離婚して新しい人と再婚すれば、簡単に幸せになれると思っていましたー

これは、高い恋愛偏差値を誇る男女がひしめき合う東京で、

再び運命の相手を求め彷徨うことになった男女のリアルな”再婚事情”を、忠実に描いた物語である。

時間軸にシビアな女たち、女性に幻想を抱き続ける男たち。

そんな彼らが傷つき、喜び、自らが選んだ運命に翻弄されてゆく…

さぁ、では。彼らの人生を、少しばかり覗いてみましょうか。




噂の「離婚パーティ」はとにかく派手に


「カナ、離婚、おめでとーーー!!!」

きらびやかに着飾った女友達に祝福されながら、秋元カナ(31)は久々に晴れ晴れとした気持ちを取り戻していた。

今日は、いわゆる”離婚パーティ”を開催している。

女友達が主催してくれた今夜のパーティの段取りはこうだ。

離婚届を提出したその夜に、カナの大好きなタイ料理レストランで値段を気にせず食事をする(ありがたいことに、女友達の奢りだという)。その後バーをハシゴし、ホテルの部屋で朝まで飲み明かす。つまり、離婚をお祝いするために、朝までとことん飲みましょう、という会。

友人の亜美は、グラスを傾ける様子をスマホで撮影している。器用に片手でシャンパンを飲み、もう片方の手で先ほど撮ったビデオをインスタストーリーにアップしているようだ。

「#(ハッシュタグ)、離婚パーティっと…」

そんなタグをつけようとする亜美を、カナは慌てて制する。

「ちょっとやめて!まだそのタグ、日本では浸透してないから目立っちゃう。せめて英語にしてっ」

そんなカナの言葉に、皆が笑ってくれる。彼女たちは、カナが離婚を決意したとき、親よりも先に連絡したほどの仲だ。

既婚で子持ちの奈緒子、未婚の亜美、そして離婚したばかりの本日の主役・カナ。

大学のとき所属していたダンスサークル時代からの友人で、ライフスタイルは違えど今でもとても仲が良い。

ミーハーで新しいもの好きの亜美が「カナ、離婚パーティしよう!」と企画してくれたことで、今夜の集いが実現したのだ。


離婚が決まったその日。最近のバツイチ女性はどう動く?


女性としての敗北感で、夫との別れを決意


カナが離婚を決意したのは、3ヶ月前のことである。

あの日に限って、夫がシャワーにスマホを持ち込んでいることに気がついてしまったのだ。

”何か怪しい…”

そんな女の勘でついうっかりチェックしたスマホに残された、浮気の証拠メッセージ。

「あ…いや。見つかっ…ちゃったかな…」

目の前でバツが悪そうに視線を泳がせ動揺している男が自分の夫だなんて、信じたくなかった。

1年弱セックスレスな理由を、”もう昔みたいに性欲がないんだよ”なんて言っておきながら、会社の女と不倫をしていたなんて…。

カナは、目の前で発覚した事実をなんとか受け止めようとしたが、どうしても上手くいかなかった。

だが、不思議と涙は出て来ず、 時間の経過とともに心の動揺はだんだん「悔しい」という気持ちに変わっていく。

大学時代から付き合って結婚した同じ年の司は、三大メガ損保のひとつと言われる企業に勤めており、会社での評価も高い。

だがルックスは至って普通で、趣味は出世のためのゴルフ、読書、散歩といった凡庸なものが並ぶ。深酒もせずいつも常識の範囲内で帰宅していたし、超・真面目な夫だと思い込んでいた、それなのに…。

ーさっきの会議では、アシストありがとうね。今夜も君と濃密な時間を過ごして、僕の全てを解き放ちたいよ…!

司は、そんなキモ過ぎるLINEを不倫相手である同僚の女に送りつけるような、最低な浮気夫だったのだ。

5年間の結婚生活は、この瞬間までは、バラ色とまでは言わないが最悪なものでもなかった。

会話も肉体関係も激減していたものの、お互いの安定した給与、都心での華やかな生活、自由気ままな暮らしは気にいっていたというのに。

だがその全てと決別しても守りたいプライドがある、とカナは覚悟を決めた。

「…司。私たち、もう離婚しよう」



「まさか、司君がそんながっつり社内不倫していたとはね…。でもカナはまだ若いんだしこれからいくらでも出会いがあるって。それに、バツイチって本当にモテるっていうじゃない?恋愛市場に復帰できるの、いいな〜〜〜」

35階から見える夜景が美しい『マンゴツリー東京』で、子持ちの奈緒子が、なぜか羨ましそうな声を出す。




「それにカナは結婚しても仕事、続けてたもんね。この通り美人だし、離婚のデメリットなんて、ほとんど見当たらないわよ!」

一生懸命に励ましてくれる友人達に恵まれ、普通なら寂しさに苛まれそうな夜のはずなのに、カナの心は暖かい。

後からわかったことだが、司の不倫相手はなんと1人ではなく、複数の女性とのかなり長期間に及ぶものだった。

仕事に女友達との付き合い、趣味で続けていたダンスに夢中になり、夫婦間のセックスレスを放っておいた、自分も悪かったのかもしれない。

大学時代から知っている夫には、もちろん情もあった。

しかし、何度考えても不倫はどうしても許せない。何事もなかったかのように自分を裏切った男と暮らし続けるほど、カナの精神は強くはなかった。

「別居からにしたら?」という慎重派の姉や両親のアドバイスをはねのけて選択したこの道が、正しいか正しくなかったかなんて今はわからない。

だが、酔ってホテルの部屋にたどり着き、亜美と奈緒子によって”Happy Divorce”と書かれたケーキが登場した瞬間、カナは「私の人生も悪くない!」と思えたのであった。


離婚パーティから一夜明け、現実がスタートする


離婚のハードルは低い時代。だが、その次の生活の実態は?


「ちょっと…頭が痛いよ〜」

翌日、隣でボサボサの頭を抱える亜美の声で目が覚める。

頭が痛いのは、当たり前だろう。

亜美は、シャンパンはボトルで頼み、その後もワインのグラスをテンポ良く空けていたのだ。もはや誰が主役だか分からないハシャギっぷりであったが、カナは彼女の明るさに随分と助けられた気がした。




「ほら、お水飲んで。シャワー入っておいで」

亜美を促し、カナ自身も寝ぼけた頭で身支度を始めた。

6歳の子供がいる奈緒子は、昨日夜遅くに帰って行った。カナがパーティで撮った写真をシェアしようと奈緒子のLINEアカウントを見ると、もうすっかり少年の顔をしている息子のアイコン写真が目に入る。

パーティの喧騒から一夜明け、眩しい朝の日差しが差し込むホテルの部屋で、”現実”が少しずつ少しずつカナの足元に迫ってくるようだった。

「私の人生なの、妥協なんてしたくない。だから離婚したのよ」

昨晩は、女友達相手に威勢良くそんな格好つけたセリフを言い放っていた。

だが頭の中には、浮気発覚時に司から言われた言葉も同時に蘇る。

「俺、カナのことは嫌いじゃないんだよ。でもさ…やっぱりもう、女として見れないっていうかさ」

いくら友達から美人と言われようが、一人の男からそんな風に女として失格の烙印を押されてしまった自分が、もう一度誰かに愛される日が来るのだろうかー。

不安が喉元までやってきたとき、亜美が威勢良くシャワーから出てくる音が聞こえた。



「亜美、私気がついたの。口ではいくらでも強がれる。けどね、その後の寂しさとか虚しさと向き合うのって、思ってるよりキツイよ」

2人並んでホテルのスパに癒されながら、カナは思わず本音をこぼす。会話は聞こえているだろうに、さすが高級ホテルのセラピストは一流だ。絶妙にカナと亜美の会話をスルーしてくれる。

”離婚パーティだって、結婚式に負けないぐらい贅沢にやる”とという趣旨で、今だけは金額のことは考えずに自分を癒すことに決めていた。至福のマッサージにより漏れ出た本音に、亜美が力強く答える。

「そりゃそうよ。ていうか私なんて、あと2ヶ月で32歳、未婚、彼氏なし、結婚歴もなしなのよ。私の方が崖っぷちじゃない。こうなったら、2人で本気で婚活よ。いや、カナの場合…"再婚活"ね!!」

「再婚活?!」

司と結婚したのは、もう5年も前である。それに、学生恋愛の延長で結婚したから、カナは婚活というものを経験していない。

ニヤリと笑う亜美の意味ありげな表情を見て、カナはこれから起こる出来事に、一抹の不安を拭えないのだったー。

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友人と共に”再婚活市場”に潜入するカナ。そこで待ち受けていたものはー?