「全面的に謝罪するわけにはいかない」山上徹也被告が面会でジャーナリスト・鈴木エイトだけに伝えたこと…「真の動機」が明らかに
統一教会に家族を壊された男は、なぜ保守の大物に銃口を向けたのか。その心の深奥には「矛盾の中の必然」があった。「4度の面会」の末に辿り着いた「安部晋三元首相銃撃事件」の真相を新刊『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』のなかで解き明かしたジャーナリスト・鈴木エイトによるスクープ寄稿。
【前編を読む】山上徹也被告の「真の動機」を解明…これまでの報道は根底から間違いだった【安倍晋三元首相銃撃事件】
昨年12月4日の被告人質問最終日。裁判長から「パイプ銃製造過程での人の命を奪うことに対する葛藤の有無」について尋ねられた山上は何を語ったか。
「僕は右翼なので」
「統一教会というものに対して、特に統一教会の中心人物に対して、そういった道徳感情を超えてしまった部分があり、(パイプ銃を)作りました。
ただ、それが安倍元総理に向かったことに関して、安倍元総理が亡くならなければならなかったのは、殺害されなければならなかったのは、間違いだったと思っております」
私はこの言い回しに違和感を覚えたが、この時点ではその正体には気づかなかった。
2週間後の12月18日に開かれた第15回公判において、検察側は犯行動機についてこう糾弾し、無期懲役を求刑した。
「安倍氏を選定した理由について、最後まで被告人から納得できる説明はなく、論理的に飛躍があると言わざるを得ない」
それに対し、弁護人は「最長でも懲役20年が相当」とする最終弁論を行った。
続く被告人の最終陳述で、私は山上被告が何を語るのか、安倍氏への思い、動機についてどう話すのか注目した。だが、裁判長から最終陳述を行うか尋ねられた山上被告は、「ありません」と答えた。動機の核心を自らの口で語ることはなかった。
年が明け、翌週に判決公判を控えた'26年1月14日、私は大阪拘置所で山上被告と初めて面会した。彼は判決の2日前にも再度、面会に応じた。
さまざまな話をしたなかで、印象に残った言葉がある。
「僕は右翼なので」
自虐がまじったようなジョークめいた口調で、山上被告はそう言った。さらに、「結局、国益なんですよ」と、何度か「国益」という言葉を発したのだ。事件前、ふたつのツイッター(現X)アカウントが極右的な投稿によって、「凍結されたんですよ」とも自虐的に明かしていた。
私はこの「右翼」「国益」という言葉が引っ掛かったが、そのときはそれほど重要なものとはとらえていなかった。
判決は求刑通り「無期懲役」
そして、1月21日の判決公判を迎えた。彼の生い立ちが事件にどう影響を与えたか、その点が情状事実としてどのように量刑判断されるかが、争点のひとつだった。
山上家の兄妹が悲惨な宗教的虐待に遭ったこと、兄の自死とそのことへの母親の認識を知り、憤怒の感情を統一教会に向けたことは十分に裁判体へ伝わった。だが一方で、教団への復讐心がなぜ安倍元首相への銃撃に繋がったのかについては、立証が尽くされたとは思えなかった。
判決は検察の求刑通り「無期懲役」となった。有期刑でなかったことには、動機面における「飛躍」を埋めることができなかった点が大きい。裁判長は次のように述べた。
「被告人の家庭環境などの不遇な生い立ちが人格形成や思考傾向に一定の影響を与え、犯行の背景や遠因となったことは否定しない。兄の自死に大きな衝撃を受け、母のとらえ方を耳にし、複雑な感情が激しい怒りに転じたことも理解が不可能とはいえない。
だが、殺人行為によって他者の生命を奪うことを決意し、手製銃等の製造を計画して実行する意思決定に至ったことには、大きな飛躍があり、生い立ちの影響を大きく認めることはできない」
動機面が裁判員や裁判官に理解されず、「飛躍」とされてしまったのだ。
面会で認めた「動機の核心」
閉廷後、裁判所前は判決に納得がいかない山上被告の支援者たちが抗議の声を挙げ、騒然としていた。私は喧騒を離れ、裁判所近くの公園でメディアの囲み取材を受けた。判決は社会問題の解決を被告人個人に押し付けるものであり、さらに検察が指摘した動機の「論理的飛躍」を埋める立証ができなかった弁護団の方針にも問題があったのではないか、と指摘した。
その夜、ホテルで各メディアの報道をチェックしていると、『報道ステーション』が弁護団の一人である松本恒平弁護士への密着取材の映像を流していた。テレビ朝日のディレクターが、大阪拘置所での夜間接見を終えた松本弁護士へ行ったインタビュー映像。そのなかで接見時の山上被告の言葉を伝えていた。
「自分のせいで安倍元首相を失ったことで『国益』を損なった。非常に大きな責任を感じています」
それを観た瞬間、私のなかですべてが一本に繋がった。
「安倍元総理が亡くならなければならなかったのは、殺害されなければならなかったのは、間違いだったと思っております」
私が引っ掛かりを覚えたこの発言。そして、判決前に面会した際の「僕は右翼なので」「結局、国益なんですよ」という発言。これらが結びつき、ある仮説に行き着いた。
それは、検察が糾弾した安倍元首相をターゲットにした動機の「論理的飛躍」と、奈良地裁が判決で認定した「不遇な生い立ちから殺人の意思決定に至ったことの『飛躍』」、ふたつの「飛躍」を埋めるものだった。
「仮説」を確かめるため、1月26日、私は朝一番に大阪拘置所を訪ねた。
面会に応じた山上被告に、発言箇所を大きくプリントアウトしたA4用紙を見せながら尋ねた。
「徹也さん、この発言の本当の意味は……『安倍元総理は亡くならなければならなかった』『殺害されなければならなかった』であり、『間違いだった』のは、安倍氏が統一教会と深い関係を持ってしまったことを指しているのではないですか」
山上被告の返答は仮説を裏付けるものだった。彼は沈黙したあと、「いろんな意味を込めました」と語った。日本中が注目する裁判の法廷、事件の核心に迫る被告人質問の場面で、山上被告は咄嗟にダブルミーニングとなる言葉を用いていたのである。
「全面的に謝罪はできない」
統一教会に家庭を破壊された被害者の側面と安倍氏の信奉者という側面、この両面が合わさったのが山上徹也という存在であり、相容れないジレンマを解消する唯一の手段として、彼はそのキーパーソンをこの世から消し去る選択をした。そのアンビバレントな感情こそ、動機の核心だったのだ。
「統一教会に家庭を破壊された被害者」と「安倍元総理の崇拝者」、山上被告にとってこの二つのギャップを解消する唯一の「最適解」が安倍氏の命を奪うことだった。そしてこれは、公判で指摘された動機面での「飛躍」を埋めるものに他ならない。
自身の葛藤を示すように、彼は私との面会で、安倍氏と事件への思いをこう語った。
「全面的に謝罪するわけにはいかない。全面的な謝罪というのは、少し違うと思います」
だが、山上被告は安倍元首相を殺害したことを反省し、悔いている。それは何より、「国益」を損ねてしまったからだ。
山上被告の弁護団は控訴期限となる2月上旬、控訴手続きを取った。私は、東京高等裁判所が統一教会に解散命令の判断を下した3月上旬、大阪拘置所で山上被告と面会した。私が確かめた内容を世に出すことを伝えると、彼は了解してくれた。
振り返ると、彼は全5回の被告人質問での供述において、動機のヒントとなる言葉や言い回しを多々発していた。5月27日刊の拙著『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』(講談社)では、彼の法廷での発言をすべて再現し、「動機の核心」に迫る過程を詳しく記している。
刑事裁判は法を破った被告人に国家が刑罰を与えるシステムに過ぎない。だからこそ、裁判を含めた事件全体の構造を示していくことがメディアにかかわる者の役割である。
私が明らかにした「真の動機」が、控訴審で弁護団の立証方針にどのような影響を与えるかは未知数だ。私は山上被告の量刑を軽くするために言論活動をしているわけではない。だが、審理が尽くされたうえで量刑判断がなされるべきだと思っている。
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「週刊現代」2026年6月8日号より
