多彩な芸で魅せた(錦織圭)/(C)共同通信社

写真拡大

【スポーツ時々放談】

【もっと読む】錦織圭「あり得ない不倫騒動」は日本社会をよく知らない日本人ゆえに起きた?

 錦織圭が今シーズン限りでの現役引退を明らかにした。

 本拠地フロリダのIMGアカデミーでの引退騒ぎがあったのが先月。事情があって撤回せざるを得なかったが、やはり古巣のアカデミーでラケットを置きたかったのではないか。

 IMGアカデミーはいまや野球、ゴルフ、サッカーなど多くの競技の育成拠点だが、前身はニック・ボロテリーが主宰したテニスキャンプで、これまで多くのトップ選手を輩出してきた。

 アンドレ・アガシ、ジム・クーリエ、モニカ・セレシュ、アンナ・クルニコワ、マリア・シャラポワ……日本でも錦織の他に西岡良仁、いま頑張っている望月慎太郎や坂本怜。多くの選手が育ったが、トップになってもキャンプにとどまったのは錦織くらいだ。

 ニックは選手経歴こそないが、素質を見抜く眼識にたけ、ビジネスに目を配りながら世界ツアーの波に乗った。

 えこひいきも強かった。

 1991年全仏の決勝、同期のアガシとクーリエが激突した。クーリエはフルセットで逆転すると、アガシのコーチ席に座るニックに向かって何度もほえた。

「ぼくはあの人にまったく相手にされなかった。野球にすればよかったと何度思ったか」

 ニックに溺愛されたアガシも自伝で、アカデミーが嫌で、父親を心底恨んだと告白している。だが、ニックは気さくなオジさんだった。結婚離婚を繰り返し、慰謝料に追い回されていたが、錦織の話になると相好を崩して「ケイは別格だよ」と手放しで褒めた。相性が良かったのだろう。

 国内のスポーツの根っこに学校体育がある。団体戦の勝ち負けを軸にした指導には長所もあるが、エースもミスも同じポイントになる個人戦のテニスで、この戦略に伸びしろはない。ミスをせず相手のミスを待つ、すなわち防御中心の消極的なチームプレーは個性を削る。見せ場もつくれない。

 西岡良仁はジュニア時代から気性が荒く、熱くなってラケットを投げ悪態をついた。日本にいたら間違いなく潰されただろう。激しい気性の先に、ツアーで最も身長の低いチビのツアー3勝があった。松岡修造は別キャンプの育ちだったが、当時稀な188センチという長身のサーブが評価されて渡米、そこを磨きツアー優勝。日本では「サーブ&ボレーミス」と陰口をたたかれていたのだ。

 長所を磨いて攻める──錦織の功績は改めて書かないが、面白いテニスを見せてくれた。ハッとさせる多彩なワザは、ニックの庭で、小さくまとまることなく伸び伸びと花開いた。まだ家族とコンタクトできたデビュー時に、両親がこんな話をしてくれた。散らかし放題の部屋を片付けると、「いじらないで!」と怒るんです──テニスは他に類のない世界ツアーである。世界を語ろうとする時、錦織の足跡から学ぶことは多い。

(武田薫/スポーツライター)