革靴やパンプスを捨て、スニーカーを選ぶ人が増えている。ライターの南充浩さんは「かつてスニーカーといえばナイキ1強だったが、最近はめっきり数が減った。代わりに台頭しているのが、オンやホカといった新興スニーカーだ」という――。
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■「スニーカーの王」ナイキを履く人が減った

街行く人の足元を覗いてみると、ビジネスマンだけではなく、高齢者から若い女性まで、老若男女問わずスニーカーの日常使いがすっかり浸透したように思います。

しかし、これまでのスニーカー業界のパワーバランスでは考えられない「ある異変」を感じるようになりました。

長年「スニーカーの王」として君臨してきた「ナイキ」ブランドのスニーカーを履く人の割合が明らかに少なくなっているのです。代わりに多く見かけるようになったのが、スイス発のOn(オン)やフランス発のHOKA(ホカ)、そして日本が誇るアシックスといったブランドです。

苦境が続く靴業界で唯一気を吐いているスニーカー界に何が起きているのでしょうか。

■革靴、パンプスからスニーカーに履き替えている

矢野経済研究所の靴・履物小売市場調査によると、スニーカーを含むスポーツシューズの市場規模は、2019年度には6827億円だったものが、2024年度は7173億円と史上最高額を記録しました。この勢いは止まらないと考えられており、2025年度には7280億円、26年度には7320億円にまで高まると予測されています。

一方で、靴業界全体を見ると、メンズビジネス革靴を含む紳士靴は需要が低迷しており、ヒールやパンプスを含む婦人靴分野もコロナ前の水準まで回復していません。靴・履物小売市場全体がいまだにコロナ禍で失った需要を取り戻せていない状態で、スポーツシューズだけが過去最高を更新し続けているのです。

要は、現役世代は歩きやすさや疲れにくさ、快適さという選択基準によって、革靴やヒール、パンプスからスニーカーへの大規模な乗り換えが起きており、これがメンズ革靴業界、ヒール、パンプスなどのレディース靴業界の苦戦の最大の理由だと考えられます。

裏返すと、こうした時流の流れが現代のスニーカー人気を牽引しているといえます。

ただ、一口に「スニーカー人気」と言っても、人気の傾向には変遷があります。

オジサン世代にとってスニーカーといえば「ナイキ」という印象が強いのではないでしょうか。しかし、その「ナイキ」人気にも陰りが見えており、ナイキに代わる新しいブランドがいくつか現れています。まさに諸行無常です。

■「ナイキ1強」を印象付けたエアマックス狩り

オジサン世代に「ナイキ一強」の印象を強く植え付けたのは、1996年頃に起きた「ナイキエアマックス95」の過熱ブームではないでしょうか。人気が高まりすぎて品薄状態が続き、ついには着用者から強奪するという「追いはぎ事件」(エアマックス狩り)まで起きました。

この90年代半ばのスニーカーブームは、エアクッションやゲルといった衝撃吸収材をソールに内蔵して、メカニカルなデザインのアッパーと組み合わせた「ハイテクスニーカー」が牽引したもので、ハイテクスニーカーブームと呼ばれました。エアマックス95やリーボックのインスタポンプフューリーなどがその代表商品となりました。

左)発売から30年を経ても人気の高いエアマックスシリーズ(プレスリリースより)、右)リーボックのインスタポンプフューリー(プレスリリースより)

しかし、このハイテクスニーカーブームの寿命は短く、98〜99年頃には完全に沈静化しました。

2000年代前半には、アディダスのスタンスミスやコンバースオールスター、ニューバランスなどのクラシカルなスニーカーやスケーター向けのスニーカーブームが訪れました。このブームは長く、2010年代半ばまで続きました。

2015年にバレンシアガがゴツいシルエットの「ダッドスニーカー(日曜日のお父さんが履くようなダサかわいいスニーカーという意味)」を提案すると、それが大ブームとなり、ちょうどシルエット的に似ていたかつての「ハイテクスニーカー」も再注目されるようになり、大いに盛り上がりました。

このように、「スニーカーブーム」は生まれては消えを繰り返してきたのです。

スニーカーブームは本当に終焉したのか

ところが、2023年になると、さまざまなメディアで突然「スニーカーブームは終わった」と報じられました。筆者は正直なところ、この報道に違和感を覚えました。体感的にはスニーカーという履物そのものの需要も着用者数もいささかも衰えていないと感じたからです。

実際は、冒頭で述べたようにスニーカーを含むスポーツシューズの売上高は23年度以降も拡大し続けていました。また、街行く人々や周囲の人を見てもスニーカー着用者は全く減っていなかったのです。

では各メディアで報道された「スニーカーブームが終わった」とは何だったのでしょうか?

■アプリ上での「転売ブーム」が終わっただけ

報道が相次いだ23年当時、全く「ブームの終焉」を体感できなかったので、ストリートファッションに詳しい業界の専門家に尋ねてみたことがありました。その専門家から返ってきた答えは「誰もスニーカーを履かなくなったということではなく、ナイキのレア物スニーカーの高値転売ブームが終わっただけ」ということでした。

2010年代半ばから2023年までの10年弱の期間、ナイキの限定モデル、復刻版などの「レア(希少)モデル」が何十万円という高値がつけられて、フリマアプリ等で転売されていました。これは日本だけのことではなく、全世界的に「高値転売ブーム」が起きていたのです。

その過熱っぷりは異常でした。一例を示すと、ナイキの当時のアメリカ本社副社長の息子が高値転売を繰り返し、副社長名義のビジネス用クレジットカードを使用していたことが発覚して、副社長が辞任するという事件がありました。2021年3月のことです。

この2年後に「スニーカー高額転売ブーム」もとい「ナイキレアモデルスニーカー高額転売ブーム」は終了したということになります。そして、この高額転売ブームが終了を告げたのとほぼ同時の2024年ごろからナイキの苦戦が相次いで報道されるようになります。

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■卸売りを削減し、直販にシフトした結果

金融市場がナイキの「1強」に疑念を突きつけたのもこの頃からでした。

24年6月に通期売上の下方修正を発表した直後、ナイキの株価は1日で約20%も暴落しました。時価総額にして約280億ドル(約4兆円超)が吹き飛ぶという、同社史上最悪の事態が起きました。

なぜこのようなことが起こったのでしょうか。

ナイキの明確なダウントレンドの要因の一つとして挙げられるのが、2020年にECを含めた直販に重点を置くために、卸売りを削減したことです。

ナイキは中間マージンを排除して利益率を高めるため、長年のパートナーだった街の靴店や量販店への卸売りを大幅にカットし、自社サイトや直営店での販売にシフトしました。この「選別」は当初、デジタル化の成功例ともてはやされました。しかし、これが致命的な「露出不足」を招きました。

ナイキのように大規模な売上高を維持するには、利益率が薄くなるというデメリットはあるものの、広い販路が確保できる卸売りは必要不可欠です。それを当時の経営陣は利益率の高さという点だけに注目をして卸売りを大幅に削減しました。

その結果、各店頭でのナイキの露出は減り、ナイキがDTC(Direct to Consumer:消費者直接販売)に固執して卸売市場を疎かにした隙に、先ほどのオンやホカといった新興勢力が棚を奪い取りました。2025年5月期決算ではナイキの売上高は対前期比で約10%近い減収となりました。

この事態を受け、ナイキはDTC路線を推し進めたCEOを事実上更迭し、OBを社長に復帰させて卸売業者との関係修復に急ぎ舵を切っています。

■ナイキのシェアを奪うオン、ホカ、アシックス

間違えてはならないのは、今でもナイキの全世界売上高はスポーツブランド1位だということです。2025年5月期決算で売上高は約6兆8000億円と発表されています。2位のアディダスの25年12月決算の売上高が約4兆6000億円ですから、その差は圧倒的です。

しかし、ナイキの25年5月期売上高が対前期比9.8%減に終わっている一方で、アディダスが同4.8%増と2期連続増収していることと比べると、ブランドとしての「勢い」は明らかに弱まっているといえます。

ナイキの不調に呼応するように、2023年ごろから急速に消費者からの注目を集め始めたのが、オン、ホカ、アシックスといったブランドです。またスケッチャーズ(アメリカ)が手を使わずに履けるスニーカーで大ヒットを飛ばし、急成長しています。他ブランドから類似商品が相次いで発売されているほどです。

もちろん、いずれの企業の売上高もナイキには遠く及びませんが、消費者からの注目度は急速に高まっています。周囲の反応を見ていると、走りやすさやクッション性の高さなどの機能性が実用面から評価されるとともに、ファッション層からもファッションアイテムとして支持されているのが特徴的といえます。

ファッショントレンドでいうなら、ナイキスニーカーに飽きた人が増え、それがオン、ホカ、アシックスなどのブランドに流れていると感じられます。ファッショントレンドは乱暴に言うと「人びとの気分」ですから、今の「気分」がナイキではないということなのでしょう。普及し切ってしまうと急速に陳腐化してしまうのは、ナイキに限らずどのファッションアイテム、ファッションブランドでも同じことです。

■ジョギング、ランニング人気も後押し

一口にスニーカーと言ってもランニング用、バスケットボール用、フットサル用などさまざまな用途に分かれています。どの用途も同じように好調というわけではなく、ここ数年間は圧倒的にランニング用スニーカーの人気が高く、むしろバスケットボール用などの人気は全く高まっていない印象があります。

実際、今注目のオン、ホカ、アシックスの3ブランドもランニング用ハイテクスニーカーが主力商材です。トラディショナルなオニツカタイガーのスニーカーよりも、アシックスのスニーカーのほうが注目されているのは興味深い現象です。

右)写真=iStock.com/Roman Tiraspolsky

背景にはマス層のジョギング人気・マラソン人気・ランニング人気が高まっていることがあります。バスケットボール用などに比べると、歩きやすさ・走りやすさが重視されている構造が日常生活にも適していると判断されて需要が伸びていると考えられます。それに加えて、靴のアッパーのデザイン性がファッションとしても注目されているといえます。

■ナイキは10年後も「スニーカーの王者」でいられるか

最近のスニーカー着用はもはや「ブーム」というものではなく「定着化した」というのが正しいように思います。最近特に感じるのが、国内で最大の人口規模を誇る高齢者層のほとんどが日常的にスニーカーを履いていることです。クッション性の高さや軽量感を考えるとスニーカーが足腰の弱ったお年寄りたちの支持を集めるのは極めて当然といえるでしょう。

今注目のオン、ホカ、アシックスのランニング用スニーカーを履いているお年寄りも珍しくなく、先日はシルバー人材センターでオンのスニーカーを履いて作業している人を見かけました。それほどにスニーカーは一過性・短期的なブームではなく、「定着化」したといえます。本稿ではわかりやすく「スニーカーブーム」と表現しましたが、これをいまだに「ブーム」として論じるのは人々の生活スタイルの変化を見極められていないのではないかと思えます。

今後、スニーカーは老若男女を問わずマス層の必需品として君臨し続けることになるでしょう。5年後、10年後にナイキが同じく絶対王者として君臨しているのか、はたまた別のブランドが新たなトップの座に就いているのか注目したいと思います。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。
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(ライター 南 充浩)