「あの家が嫌いだった」180センチの息子が号泣。時給800円パートで走り続けた母が離婚日に聞いた「本音」
「仕事で輝くほど、子どもは犠牲になるのか」。元夫のリストラを機に、20年ぶりの社会復帰を果たした西崎彩智さん。時給800円のパートから走り続け、成功を掴みかけたその裏で、家庭は音を立てて崩れていました。離婚届を出した日、180センチの大きな体で号泣する息子から突きつけられた、あまりに痛烈な「本音」。自身の失敗から学んだ、家を整えるために最も必要な「家族との対話」の正体に迫ります。
【写真】かつて号泣した息子さんも笑顔「誕生日会」の親子勢揃いショット ほか(全10枚)
「あの家が嫌いだった」離婚の日に、180センチの息子が号泣して放った言葉
── 西崎さんは、結婚後すぐ専業主婦に。しかし20年後の44歳のとき、50歳の元夫がリストラに遭います。「さんざん専業主婦でラクしてきたんだから、今度は君の番だろ」という非情な言葉に腹を括り、時給800円のパート勤務から20年ぶりに働き始めたそうですね。その後、夫とは離婚、「片づけ」に特化した起業を果たします。
西崎さん:駅ビルにあるヨガスタジオの受付のパート勤務を2年続けたのち、元夫と離婚しました。当時、私は46歳、長女が高校3年生、長男は中学3年生でした。
離婚届を出した日、息子に報告しました。すると、いつも毅然としている息子が、180センチの大きな体で号泣しはじめたんです。
「俺はあの家がめっちゃ嫌いだった」と。「おとんもおかんも『自分は大変、相手が悪い』としか言わない。俺はそれを聞いてるのがすごくイヤだった。お互いを思いやる気持ちのないこの家が、本当にイヤだった」って。
そのとき、「この子は、いままで一人でずっと我慢していたんだ…」と、ハッとさせられました。「ごめんね」と、ただ謝ることができない私に、息子が「じゃあ、俺のお願いを1個だけ聞いてほしい」と言ったんです。「今度、バスケ部のみんなを家に呼びたい」と。
PTAの役員をやっていたこともあり、かつてのわが家は「たまり場」でした。それが、仕事を始めてから元夫と向き合うのが嫌になって、帰宅は遅くなるばかり。部屋はどんどん散らかっていきました。誰も家に呼びたくなくて、息子にも「友達を家に連れてこないように」と言ってしまっていたんです。そのことが、こんなにも息子を苦しめていたなんて…と、反省しました。
それは対話ではなく「業務連絡」家族の甘えが家を荒らす原因に
── 西崎さんの事業のキャッチコピー「片づけられないのはコミュニケーションの欠如」は、そうした経験から?
西崎さん:はい。片づけの講座を開催するなかで、昔の私のように、家族と向き合えていない女性が多いことに気づいたんです。多くの女性が家族のことを「たぶんこうだろう」と、憶測で決めています。ボールペン1本の置き場すら、お母さんの独断。これでは家族は納得できません。そう伝えると、決まって「そんな話、家族としたことありません」と返ってきます。
ただ「私もそうだったな」って。20年間専業主婦をしていたから成立していたのであって、家族の同意があったわけではなかったんですよね。
いま、家の中で「業務連絡」はしても、「対話」をしていないご家庭が多い気がします。「何時に帰る」「ご飯いらない」。それは単なる報告ですよね?家の片づけについても「ここをどうすれば使いやすくなる?」と、深い対話から逃げてしまっている。それは家族への「甘え」であり、「遠慮」ですが、結局コミュニケーションが欠如しているのだと気づきました。
── ご自身もそうだったと?
西崎さん:はい。自分とのコミュニケーションもできていませんでした。「私、本当はどうしたいんだろう」「どうなりたいんだろう」って、自分のことを真剣に考えてこなかったなって思ったんです。毎日、家事や仕事に追われていて。
コロナ禍は特に、家族と向き合わざるを得なくなりましたよね。それまで外に出かけることで逃げていた問題から、逃げられなくなった。でも本来、向き合うべきは家族なんです。
「自分にやさしくする」と「自分を甘やかす」は違う
── いっけんうまく回っているように見える家庭でも、家族同士のすれ違いを見て見ぬ振りをしていることは少なくないかもしれません。
西崎さん:そう思います。それと、自分の問題と向き合うことを避けている人も多いです。私、自省も込めて、受講生の皆さんに言うんです。「自分にやさしくすることと、自分を甘やかすことを混同しないで」って。人生がうまくいかなかったときって、私は自分を甘やかしていました。「仕方ない」「私なりに頑張った」と言い訳して、「楽しい」と「ラク」の意味をはき違えてしまっていたんです。
一時的にラクだとしても、理想と現実との差は広がっていく。だから、「私はこんな暮らしがしたい」と自分なりのゴールを決めて、毎日やれることをやる。それが「自分を大切にできた」につながると思うんです。
たとえば、疲れたからとソファーでゴロゴロして夜更かしするんじゃなく、洗い物を3分で終わらせてさっさと寝る。そっちのほうが、翌朝の自分にとって「やさしい」じゃないですか。ただ、「片づけゴールの正解」は私ではなく、みなさんが家族と決めるべきもの。「お皿は何枚あればいいですか?」なんて聞かれるけど、そんなの私は知らない。自分自身で向き合わないと。
── 失敗を経験された西崎さんだからこその言葉ですね。
西崎さん:甘やかしたくなる気持ちはわかるんです。起業当初はお金の工面も綱渡りで、逃げ出したくなったこともありますから。怒られて頭を下げたり、悪戦苦闘したからこそ、毎日が充実して人生楽しいと心から思えました。
来年還暦を迎えますが、子どもが巣立って「空の巣症候群」になるのか、これからは自由だと思って羽ばたくのかは、その人の考え方次第、なんですよね。紆余曲折を経験したからこそ伝えられることを、私なりに伝えていきたいと思っています。
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「家族のために」と必死に働く日々の中で、いつの間にか家族との心の距離を広げてはいませんか? 部屋の乱れは、あなたが家族と向き合う余裕を失っているサインかもしれません。今日、子どもと交わしたのは「対話」でしたか? それとも「業務連絡」でしたか。もし後者でも、自分を責める必要はありません。今夜は洗い物を3分で終わらせてさっさと寝る。そんな「自分へのやさしさ」から、明日を整える対話は始まります。
取材・文:たかなしまき 写真:西崎彩智

