インフレ下で不利なはずの「現金」を富裕層があえて手放さない理由…「金利上昇」で得する人と損する人との決定的な違い
約30年続いたデフレの時代が終わり、日本は本格的にインフレの時代に突入している。金利上昇を理由にマイホームの購入をためらう人も少なくない。こうしたなか、富裕層はいつの時代でも変わらない「行動規範」を頼りに、確実に資産を増やし続けているという――。『2035年 増える富・消える富の見分け方 インフレ地獄を生き抜く資産戦略』(KADOKAWA)より、著者の資産37億円を築いた不動産投資家・小林大祐氏が「金利上昇」が我々にもたらす影響と「手元資金」の重要性を紐解く。
「金利上昇」はいいことなのか?
日本では約30年続いたデフレの時代が終わり、インフレの時代へとスイッチした。デフレ経済下ではゼロ金利、あるいはマイナス金利が続いたが、インフレ経済下ではそうはいかない。日本の政策金利は0.75%(2025年12月)と水準としてはまだまだ低いが、今後はゆるやかにではあっても金利は上がっていくだろう。
最近、「金利上昇は果たして良いことなのか、それとも悪いことなのか」と聞かれることがよくある。金利が上がれば預貯金につく利息は増えるというメリットはあるものの、住宅ローンの負担が増え、また企業の資金調達コストが上がるために景気に悪影響を及ぼすというデメリットがある。
ただ、金利上昇そのものに良し悪しはなく、得するか損するかはその人の置かれる立場によって異なる。たとえば、一般的には不動産業者は金融機関から融資を受けて不動産を買うので、コスト増につながる金利上昇はネガティブだ。しかし、すべての不動産関連の業者が即座に不利益を被るわけではない。
弱者はダメージ大…金利上昇が露わにする借り手の「資金格差」
先日、私がある地銀から借りていた2年固定金利ローンの満期が近づいたため、地銀の担当者から更新後の金利についての相談があった。市中の金利が上がっており、資金を調達するコストが上がっているのだから、金融機関が更新のタイミングで金利を上げようとしてくるのは当然のことだ。
そこで私はこう言った。「極端に金利を上げるなら、別の金融機関で借り換えるような不義理はしないが、一括返済する」と伝えた。
もともと、私たちのような不動産で物件が出て突発的に融資を調達しなくてはいけない事業者は、3か月に1回、資産と負債の一覧を金融機関に提出しなければならない決まりがある。つまり金融機関は、融資先がどのぐらいの資産を持っているかを適宜把握しているので、私の発言はハッタリではないことはすぐにわかる。あまり高い金利を提示すれば、本当に一括返済されて将来的に確保できる金利収入を失い、さらには今後見込める莫大な取引の前提となる関係性を断たれることは十分あり得るのだ。
結果的に、このときは、市場が明らかな金利上昇局面にもかかわらず更新後もほぼ同水準の金利を提示してもらうことができた。しかし、もし私に資産や純資産、またすぐに返済できる機動的資金がほとんどなく、金利を大幅に上げられても一括返済などできないことが明らかだとしたら、どうだろうか。金融機関は容赦なく足元を見て、金利の引き上げを要求してくるだろう。
つまり、融資を受けている人であっても、富める者はそれほどのダメージは受けないが、そうでない者は金利上昇のデメリットが早い段階から直撃するのである。
「金利上昇=預金が増えて得」という価値観は“時代遅れ”
中国人富裕層が金利上昇のデメリットを受けない理由
とはいえ、資金を豊富に持つ者であっても新しく融資を引く際にはリアルタイムの金利水準が適用されるので、いずれは金利上昇のデメリットに直面する。
それでも、デメリットを受けない者は存在する。昨今、日本の不動産を買いあさっている中国人富裕層だ。彼らの多くはポンとキャッシュで不動産を買うので、金利が上がったところで何のダメージもない。ここにも、富める者とそうでない者に、歴然とした差が生じてくる。
もちろんこれは融資を受ける場合の話で、借金に縁のない人には別の視点もある。「金利が上がると預金が増えて得じゃないか?」という人はいるが、その発想自体がもはや時代遅れだ。
かつては定期預金の金利が7%という時代もあったが、いくら金利上昇局面に入ったとはいえ、今の日本でその水準はあり得ない。ましてや今は多くの人が新NISAで全世界株式やアメリカ株のインデックスファンドで投資をしており、そのリターンは過去の水準から判断すれば4〜7%程度は期待できる。
しかも、現在はインフレ率3%という状況で、現金で保有しているだけで価値が目減りするような状況にある。そのような環境下で、定期預金で資産を増やそうとする発想自体がナンセンスだ。
「価値が下がらない物」だけを買う…富裕層がインフレに強いワケ
富裕層は、いつの時代においても「価値が毀損しない物」を買うという行動規範を一貫して持っている。
価値が毀損しない物とは、希少性が担保されているもの、メーカーが供給量を戦略的に制御、調整しているもの、あるいは誰に販売するかを厳密に選別し、VIP限定で市場価格を一定水準以上に維持しているものを指す。
すなわち富裕層は、「値上がりを狙う物」ではなく、最初から「価値が下がらない物」を選び続けている。だからこそ、その保有資産は時間の経過とともに自然と価値を高めていく。そもそも価値が毀損しない物を保有している以上、インフレ環境に入れば、資産は自動的に増える構造になっているのだ。
私自身の経験を振り返っても、この考え方は極めてわかりやすい。長年続いたデフレ経済下において、私は時計、車、不動産といった分野で、「今後価値が上がりそうな物」ではなく、「確実に価値が下がらない物」を基準に購入してきた。ここが決定的に重要で、多くの人は「上がる物」を求めるが、厳密に言えばそれは「上がるであろうという憶測」に過ぎず、その予測が当たることはほとんどない。
だから大切なのは、「上がる物を当てに行くこと」ではなく、「下がらない物だけを買うこと」なのだ。
デフレ下でこの行動を徹底してきた結果、情勢が反転してインフレに移行した現在、「価値が下がらない物」は自動的に「価値が上がる物」へと変わり、結果として大きな資産増加効果を生み出している。
「有事」には、現金が最大の武器になる
その一方で、手元資金の重要性も同時に理解しておく必要がある。インフレ環境下で現金を通帳に眠らせておけば、たとえばインフレ率が年2%であれば、その購買力は毎年2%ずつ確実に目減りしていく。私の場合、8億円を超える機動的資金を保有しているため、理論上は毎年1000万円以上の価値が削られている計算になる。
しかし、それでもなお現金を厚く持つのには理由がある。それは、世界的な金融不安や金融危機といった「有事」において、この手元資金こそが最大の武器になるからだ。
平時であれば、金融機関は内部留保が厚く安全性の高い取引先に対して、自己資金の3〜4倍、場合によっては満額に近い融資を積極的に行う。しかし、世界的な金融危機が発生すると、金融機関は一斉に融資を止め、市場は資金不足に陥る。
その一方で、売却を余儀なくされる不動産は必ず市場に出てくる。有事の局面で出てくる物件は、平時ではまず出回らない一等地であったり、融資が付かないことによって大幅に割安な価格で放出されるケースが多い。
この局面でモノを言うのが、手元資金だ。仮に融資が平時の半分しか受けられなかったとしても、残りを自己資金で補うことができれば、金融危機によって市場に現れた優良かつ割安な案件を確実に取りに行ける。
つまり、インフレ環境下においても現金を厚く保有するという行為は、「価値を減らす選択」ではなく、「将来の最大リターンを取りに行くための選択」なのである。
日本の住宅ローンに組み込まれている2つの「安全装置」
また、「住宅ローンの金利が上がるので、マイホームが買えなくなる」という意見もあるが、そもそも日本の住宅ローン金利は世界的に見ても異常なほど低い。アメリカの6.3%と比べれば、属性が良ければ1%以下で借りられる日本の住宅ローン金利など「ゼロ」と言ってもいい水準だ。
それなのに「金利が上がった、無理だ、怖い」などと言って住宅購入に二の足を踏むのは、完全に情報弱者の発想だ。
[図表]日米10年国債利回りの推移(2015年〜直近、月次) 出典:FRED(Federal Reserve Economic Data)
自身の年収や預金というリスク許容度、すなわち、自身の身の丈に合った額ということが前提とはなるが、日本の住宅ローンは金利が極めて低いだけでなく、築年数がどんなに古くても35年という長いローンを組めるし、団信(団体信用生命保険の略。住宅ローン契約者が死亡または高度障害になった場合に、ローン残高を保険でカバーする保険のこと)までついている。
さらには、仮に金利が上昇したとしても、家計が短期間で破綻しないよう、複数の安全装置が制度としてあらかじめ組み込まれている点も、日本の住宅ローンの大きな特徴だ。
しかもこれは、他国には殆ど見られない日本独自の制度設計であり、住宅取得者は実は極めて優遇されていると言っていい。その代表例が、いわゆる「5年ルール」と「125%ルール」である。
日本の住宅ローンは、借り手側が手厚く守られている「世界レベルで有利な仕組み」
変動金利型・元利均等返済の住宅ローンでは、市場金利が上昇したとしても、毎月の返済額はすぐには変わらず、5年間は据え置かれる。これが「5年ルール」だ。欧米諸国のように、金利上昇が即座に返済額へ反映される仕組みとは異なり、日本では借り手が急激な負担増に直面しないよう、時間的な猶予が与えられている。
さらに、5年後に返済額が見直される際も、新しい返済額はそれまでの返済額の1.25倍、すなわち25%増までに制限される。これが「125%ルール」である。仮に金利が大きく上昇していた場合でも、返済額が一気に跳ね上がることはなく、段階的に調整される仕組みになっている。
これらのルールはいずれも、金利上昇局面において家計が突然立ち行かなくなる事態を防ぐためのものであり、日本の住宅ローンに特有の「激変緩和措置」と言える。長期・低金利を前提とした住宅政策と相まって、借り手側が極めて手厚く守られている制度であり、日本の住宅ローンが世界的に見ても異例なほど優遇された仕組みであることを、正しく認識しておく必要がある。
お金がないとか金利が上がったと嘆くより、世界レベルで有利な仕組みを戦略的に活用するほうが圧倒的に賢い。
小林 大祐
不動産投資家
