「彼を略奪したい」結婚式当日に花嫁を絶望に陥れた、26歳女が仕掛けた罠
―愛情か、それとも執着か?
幼い頃から、聖母マリアのような妻になりたいと願っていた、秋吉紗奈32歳。
しかし、彼女の運命の歯車は、航平からプロポーズを受け取ったときから狂いはじめる。
少しずつ蝕まれていく彼女の心。愛は時に凶器となり得る。
繰り返される心理戦、前代未聞の惨劇が今、はじまる。
♦これまでのあらすじ
会社の後輩・東航平(29)からプロポーズされ結婚式の準備を進める紗奈(32)。一方、以前から航平に想いを寄せていた今井美雪は、出張先で航平にセカンドでもよいからとせまる。その夜航平は、家に帰ってこなかった。紗奈は浮気を確信しつつ、航平との結婚式の日を迎えたのだったが…。

「志穂さん、私、プロジェクターのセッティングしてきますね」
紗奈と航平の披露宴が終了し、幹事の美雪は志穂たちとともに2次会を開催するレストランに先に会場入りしていた。あと1時間もすれば受付開始の時間だ。
装飾とタイムスケジュールの確認を終え、美雪はプロジェクターのセッティングに回ろうとしていた。
「うん、お願いするね」
志穂は受付の準備で忙しそうにしていて、美雪の方を一瞥すると作業に戻っていった。
プロジェクターで流すプロフィールムービーとビデオメッセージのタイミングをレストランの店員に説明しながら、美雪は自分の胸の高鳴りを確かに感じていた。
―これは私からのサプライズプレゼントですよ、紗奈さん。私は負け組なんかじゃないってこと、今から証明しますね。
事前に用意されたプロフィールムービーは航平と紗奈が作成したもので、ビデオメッセージは美雪が作成したものだった。社内で2人へのお祝い動画を募り、それを編集して繋げたのだ。
そしてビデオメッセージの最後には2人に関する思い出の写真がまとめて映し出される予定で、今日の結婚式の写真もその中に入れることとなった。
内容は志穂たち幹事とは共有していたが、航平と紗奈にはサプライズの演出になっている。
しかし美雪は、志穂にすら秘密にしている写真を1枚だけ、ビデオメッセージの中にこっそり差し入れていたのだった。
―この会場に来る全員に、私と東先輩のこと、教えてあげるね・・・。
美雪が誰にも見せずに用意していた、禁断の写真とは・・・?

「お待たせしました、新郎新婦の入場でーす!」
志穂のはつらつとした声で、店内のスポットライトが1点に集まり、音楽が鳴り響いた。豪華なレースのドレスに衣装替えした紗奈と航平が、手を振りながら現れる。
「航平! この幸せ者!」
どこからともなく囃し立てるような掛け声が飛び交い、ウェルカムドリンクですでに酔いの回ったゲストたちが盛り上がっている。そんな中、美雪は店の端で静かに2人の笑顔を見つめていた。
すると航平が会場を見渡しているのを見て、美雪はハッとして前に歩み出た。
―先輩、きっと私を探してるんだ。私はここにいるのに。
人の流れを分けて、美雪は2人のすぐ前に立った。スポットライトが眩しく思わず目を細めたが、航平の視線がすっと美雪に引き寄せられ、2人はその瞬間、見つめ合っていた。
「今日も素敵です」
美雪のその声は会場のBGMにかき消され、航平に届いたのかどうかはわからなかった。彼は微笑みを崩さなかったけども、どこか思い詰めたような表情を一瞬見せたような気がした。
美雪に視線を向けることもなく、となりにいた紗奈が彼の手を引き、2人は拍手の中メインテーブルの前へと歩いてく。
「今井さん、何してるの? 動画撮影のお願いしてたでしょ?」
志穂に肩をたたかれ、美雪は振り返った。慌ててスマホを取り出す。
「そうでした! すみません」
こんなに人が密集している中で志穂に見られているとは思っていなかった美雪は、ドキリとしてスマホを2人に向けた。
すぐに志穂はメインテーブルの横に戻り、何事もなかったかのようにマイクを持って立つ。
それからは航平のウェルカムスピーチ、乾杯と続き、いよいよサプライズのビデオメッセージが流される番になった。
「たくさんの祝福のメッセージが届いてますので、こちらをご覧ください」
志穂の紹介とともにムービーは始まった。航平の上司、後輩、紗奈の同僚からの動画が流され会場の空気が和やかになった、そのとき―。
エンディングの音楽とともに、思い出の写真が投影されはじめる。その中の1枚がゆっくりと現れた。
美雪が大阪出張に行ったときに撮った写真―。
グラスを持った航平と美雪が顔を近づけ、微笑んでいる姿。
美雪は大きく映ったその写真を見上げながら、うっとりと吐息を漏らした。
2人の写真を目にした紗奈の内心は・・・?
紗奈はその写真が映し出されたとき、心の何かがぷっつりと切れてしまったような音が聞こえたような気がした。一瞬にして周囲の騒がしさが消えて、時が止まる。
怒りという感情を超越し、氷のような冷たさが全身を包むような感覚がした。
―え? 何この写真・・・?
体が強張り、意識は底のない闇に落ちていく―。
気がつくと“あの写真”はプロジェクターから消えていて、つい数時間前の自分たちの結婚式の写真が映し出されていた。目の前に集まっているゲストの表情は、何事もなかったかのように楽し気にそれを眺めている。
となりに座る航平の横顔は固まっていて、無表情にも見えた。
「航平?」
顔を寄せたが、航平は紗奈を振り返らず、プロジェクターを見つめたままだ。
紗奈はそんな彼を気に留めず、低い声で続けた。
「みんなこんなに準備してくれてたんだね。驚いちゃった」
航平はぎこちなく頷いた。それは驚きなのか、怒りなのか、それとも恐れなのか―。しかし、もはや紗奈にはどれでもいいように思われた。
―これは、きっと美雪がわざと仕掛けたことなんだ。
美雪は会場の端の暗闇に佇んでいた。紗奈の方を見て、笑っているようにも見えた。
―この女、許さない。絶対に地獄に落としてやる。
紗奈は美雪に復讐を誓った。

もう1人の自分が、静かにそう囁く。見たこともない般若のような顔が脳裏に浮かんだ。
メッセージムービーが終わり、歓談の時間が再開されると、会場はまた騒がしくなった。
「紗奈?」
その声に顔を上げると、となりに立つ志穂が心配そうな表情をしてこちらを窺っていた。唯一彼女には、航平と美雪の不倫疑惑を打ち明けてあった。きっとプロジェクターに映った写真を見て驚愕したのだろう。
「うん、大丈夫だよ」
咄嗟にそう返したが、自分は一体どんな顔をしていたのだろう。
航平は少し離れた場所で、彼の友人の輪の中に入って騒いでいる。
「ごめんね、こんなことになるなんて・・・私のせいだ」
そう言って俯いた志穂に、紗奈は気丈に振舞い、小声で答える。
「美雪ちゃんに幹事をお願いしてしまったのは私だから。志穂は悪くない。大丈夫だから」
―全部悪いのはあの女だ。
紗奈が周囲を見回すと、美雪の姿は人ごみに紛れてどこかに消えていた。
▶Next:12月13日 金曜更新予定
航平と美雪を別れさせるため、紗奈が本格始動。そしてある罠を仕掛ける・・・。

