ランナーの過半数は年収600万円以上!過熱するランニング市場の実態 ビジネスチャンスがここにある

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利益の95%は「価格戦略」で決まる! そう説くのは、著書『「値づけ」の思考法』で知られるマーケティング学の大家で、法政大学教授の小川孔輔氏だ。近年、拡大している「ランニング市場」。道具を使わず、場所も限定されないランニングというスポーツで、一体どのように儲けているのだろうか? そのカラクリを小川氏が解き明かす。

「ランステ」という新ビジネス

マラソンやジョギングといったランニングは、お金がかからないスポーツ。身体1つで手軽にできるのが最大のメリットです。ところが近年、こうしたランニングにお金をかける人が増えています。

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ランニング市場では一体、何が起こっているのでしょうか?

いま、ランナーを対象としたビジネスが東京を中心に大流行しています。たとえば、「ランステ」と呼ばれるランナーのためのステーション。着替えをするためのコインロッカーやシャワーを浴びるための施設として、利用する人が急増中です。

そもそもマラソンやジョギングといったランニングは、お金がかからず気軽に始められるスポーツとして人気がありました。にもかかわらず、お金がかかるランステの利用者が増えているのはなぜなのでしょうか?

私は市民ランナーの1人として、年間に15〜20回ほどレースに参加しています。その私の経験をもとにひも解いてみましょう。

皇居の外周は道路が整備され、景観も良いので、都内では絶好のランニングコースです。なお、皇居の外周を走ることは「皇居ランニング」あるいは「皇居ラン」とも呼ばれています。

ただし、ランナーの方ならよくご存知だと思いますが、走った後、汗まみれのままで電車に乗るのは気持ちが悪いものです。また、冬場だと体が冷えるし、健康にもあまり良いものではありません。着替えたりシャワーを浴びたりする場所が必要なのです。

銭湯よりも高い「ランステ」

そのための有料スペースが皇居の周りに続々とつくられています。

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かつては、ほとんどのランナーが都内の銭湯を利用していました。まだ、東京の下町(両国や浅草など)を中心に、都内にもランナーが利用できる銭湯は残ってはいますが、施設が古くなったり、次々に廃業したりしているので、ランナーが快適に利用できる銭湯は多くはありません。

また、生き残っている数少ない銭湯では、汗まみれのランナーを嫌がる地元客からのクレームが頻発しました。私も、皇居に近い千代田区の銭湯で、地元客とランナーがシューズの置き方を理由に険悪になった場面を目撃したことがあります。

そのような流れを受けて、銭湯に行きづらくなったランナーのニーズに応えるランステが流行るようになったわけです。

肝心のランステの料金ですが、たとえば、東京メトロ東西線竹橋駅から直結していて便利な立地の「Run Pit」の場合、男女別のロッカーやシャワールーム、女性用のパウダールーム、ランニングウェアのレンタル(有料)など、充実した設備やサービスが用意されており、初回の新規登録料400円、利用1回ごとに900円、30分間までのシャワー利用のみの場合(レンタルバスタオル付き)は1回600円という価格設定です。

一方、東京都の銭湯の入浴料金は、大人(12歳以上)1回460円です。ランステのほうが高くつきますが、ランステの盛況ぶりを見る限り、ランナーにとってはそれほど痛くない価格のようです。つまり、値ごろ感のある価格といえます。

ランナーは経済的に余裕がある

一般財団法人アールビーズスポーツ財団が実施した「2018年度ランナー世論調査」によると、次のグラフに示したように、ランナーの50%以上は年収600万円以上という結果でした(日本の総世帯のうち年収600万以上の世帯は約35%)。

出所:一般財団法人アールビーズスポーツ財団「2018年度ランナー世論調査」
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都心に通勤していて、かつ健康に気を配ってランニングをするような層は、収入に比較的余裕がある人が多いということでしょう。

ランステの経営面は、どうなっているのでしょうか?

ランステは、「ファンラン」と呼ばれるミニマラソン大会をよく主催しています。参加料は大会によって異なりますが、1人3500円前後です。仮に400人が参加したら、140万円の売上になります。

さらに、参加者は着替えのためにランステを利用するので、その利用料も入ります。通常の利用に加えて、このファンランの売上もランステの経営を支えているのです。

ランナーを対象としたビジネスはランステだけではありません。航空会社(日本航空:JAL)や観光業者(JTB)などもランニング市場に参入しています。

有名なのがホノルルマラソンです。1973年、オアフ島の公認マラソンとして誕生した伝統の大会で、毎年12月の第二週の日曜日に開催されています。2019年の大会で47回目の開催になります。

1985年より、ホノルルにホテルを持つ日本航空がスポンサーになって、「JALホノルルマラソン」として特別協賛しています。

日本航空がホノルルマラソンのスポンサーになったのは、冬場の閑散期に、自社のホテルと航空便の稼働率を上げるためです。海外でイベントを開けば、参加者に自社の航空機とホテルを利用してもらうツアーを組むことができるようになるというわけです。

伸びしろのあるランニング市場

ホノルルに続けとばかり、いまでは旅行代理店が世界の様々なマラソン大会ツアーを企画しています。

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私もホノルル以外に、シドニー、ニューヨーク、パリ、ベルリンなどのマラソンを走った経験があります。ホノルルマラソンほど日本からの参加者は多くありませんが、旅行代理店の努力によって、リピーターの多いビジネスに育っています。

このように、企業が熱い視線を送っているランニング市場は、今後も拡大していくと思われます。

というのも、最近は20代および30代の若い女性ランナー(ランナー人口全体の約15%)が目立つようになっているからです。

ウェアやシューズなどファッショナブルなアイテムが増えていますが、それを身につけて走るのが、彼女たちにとって「おしゃれなライフスタイル」であるということなのでしょう。

若い女性は、自分のために自由に使えるお金が多いので、市場はさらに過熱していくはずです。

なお、日本のシリアスな(本格的な)ランナー人口は、2019年5月現在、約300万人といわれますが(株式会社アールビーズが運営するランナーのためのポータルサイト「RUNNET」の会員数の推移を示した下のグラフ参照)、健康の増進を意識する人が増加してきている状況からすると、ウォーキングやサイクリング(自転車)の市場も将来的には有望だと思われます。

出所:株式会社アールビーズの提供資料をもとに作成
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