日曜日の女:図々しさは大スター以上?多発する自称インフルエンサー女の心理とは
東京には、都合の良い勘違いをしている女が多い。
麻布十番で会員制サロンを開いている麗子のもとにも、毎週のように勘違い女が現れる。
麗子は毎週日曜日になると、その週に出会った女たちを振り返るのを趣味としている。
先週は、SNS自慢が激しい麻子を紹介した。
さて、今週麗子を驚かせた女とは?

<今週の勘違い女>
名前:松尾カナ
年齢:29歳
職業:自称「インフルエンサー」
「私は一般人ではない」という自負
ー 人は誰しも、自分を「ひとかどの人物」として扱って欲しいという欲求を持っている。
自分の店を持つ前から接客業に関わる麗子が、常に念頭に置いている言葉でもある。
会員制リラクゼーションサロン「angelle(アンジュール)」は、麻布十番という土地柄モデルや芸能人の客も少なくない。
だが、彼らが麗子に対して「私はモデルよ」「芸能人なのよ」という尊大な態度をとることは稀だ。
ほとんどの場合、彼女たちは仕事や人間関係で疲弊した心身を癒しにやってくるため、完璧に無防備なオフモード。
また常日頃から周囲に賞賛され取り巻きも多いからか、店ではフラットな関係を望むことが多い。
しかし、最近店に現れるようになった松尾カナは違った。
「松尾さん、インフルエンサーさんらしいですよ。」
最初の施術を担当した陽子が言うには、カナはInstagramに1万人を超えるフォロワーがいるという。
曰く、最近の「インスタバブル」は止まるところを知らない勢いで、フォロワーが1万人を越えれば沢山の仕事の依頼が絶えないというのだ。
だからというのが本人なりの理由かもしれないが、初回会計時にカナは驚くべき一言を口にしたのだ。
カナが発した驚くべき一言とは?
特別扱いを自分から要求する
ーカナの初回来店時ー
陽子を指名の客が既に店に来てしまっていた為、カナのお会計は麗子が担当することになった。
紹介・初回割引で8000円の伝票を差し出すと、カナは目を丸くしている。
「えっ?今日、お会計あったんですか?」
突然の意味不明な発言に、麗子はしばらく固まってしまったが冷静さを取り戻してこう答えた。
「申し訳ございません、先に代金を頂いてたのでしょうか…?」
既に陽子に支払っていたのかもしれない。麗子がチェックしようとすると肩越しにカナが声をかけた。
「違うんです。」
違うとは、どういうことだろうか。
「あの、私ここにモデルのケイちゃんからの紹介で来ていて。大抵そういう時って、お会計請求されないことが多いのでちょっとびっくりしちゃっただけです。」

今度は麗子が目を丸くする。
モデルの紹介だから、インフルエンサーだから、店にサービスの代金を払わなくてよい、とでも言うのだろうか。
確かにカナが口にしたケイは、アラサー女性を中心とした読者の多い雑誌のレギュラーモデルであり、宣伝のために、人気モデルのケイには何度か無料で施術を行ったこともある。
しかし、その友人の紹介だからと言って、麗子にとっては全くの無名に等しいカナが会計を払わないつもりでいたことに、驚きを隠せない。
こちらから何の申し出もないのに、いかにも「タダにしろ」と圧をかけてくる客など初めてである。
「申し訳ございませんが、当店では代金は頂かなくてはいけないので…。」
相手の神経を逆なでしないように最大限の気を使い、無事に会計を済ませた。
ああいう「得をしたがる」タイプの客は、もう2度とやってこないだろうと麗子は予想したが、意外にもカナは日を空けずにまた店にやってきた。
そして、麗子を指名するようになったのだが、そこにはとある理由があったのだ。
特別扱いしてくれない店に通い続ける理由とは?
実力と自意識のズレが生み出す違和感
「ここ、私のモデルのお友達がみんな通ってるんですよね。」
2回目に来店し、麗子を指名したカナは自分の友達だと言って、今活躍中のモデルやタレントなど、この店に通ってくれている客の名前を挙げた。
大半は麗子が担当している客だが、彼らからカナの話が出たことは一度もない。
どうやらカナの、一方的な片思いのようだ。
カナは、「モデルのみんなと同じ」セラピスト・麗子の元に通っていることで、自分も彼女たちと同じ位置にいるのだと思いたいのかもしれない…。
だから、こうして自分を特別扱いしない店にも通ってくるのだろう。
麗子を指名するようになってから、カナは上機嫌で色々なことを語っていくようになった。
いかに今自分が「インフルエンサー」として売り手市場で、本業のOL以外の収入が凄いだとか、着る服はほとんどブランドからの提供品であり、おかげであまり服を買わなくて済んでいる、というようなことなど。
「とりあえず、フォロワーが1万超えないとダメなんですよ。まずはそこからかな。同じパーティに出席するにも、謝礼の金額が全く違ってくるんです。ケイちゃんなんて3万フォロワーですからね。」
確かにInstagram上で多くのフォロワーを獲得することは、そう多くの人が出来ることではない。
だが、カナの場合は、そうでない人を見下し、自分は便宜を図ってもらって当然だという態度を隠しきれていないところに、麗子は大きな違和感を感じてしまうのだ。
ー日曜日ー
早めに店を閉めた後、レストランの開拓に凝っている陽子と『ビストロ コティディアン』へ向かった。

メニューを選び終えると、話題は自然と客の話になる。
「松尾さんって、酷いんです。私に対する態度がかなり横柄で、格下に見てます、っていう態度を隠そうとしないんですよ。」
やはり、人によって態度を変えているらしい。そういう人なのよ、となだめても、陽子は納得せず好物の赤ワインを飲みながら続けた。
「でも、あからさまに見下してくるんですよ?麗子さんには普通なのに…。だからなんかイライラして松尾さんのインスタも見てみたんですけど、なんか♡マークいっぱいで凄いいい子キャラみたいな感じなんですよ。本物と全然ちがうというか…。」
麗子は、ふと、どうしてカナがあそこまで自分の価値を高く見積もり、「特別扱いされて当然」と思っているのかを考えてみた。
「モデルや経営者の知り合い」をアピールする。いかに自分が世間から優遇されているかを話す。そして、それを周囲にも、セラピストである麗子にも知って欲しくて堪らない…。
おそらく、カナは今の地位に昇りつめるまで相当の努力をしたのだろう。
だから、その結果得た今の特別扱いが嬉しくて仕方がない。インフルエンサーとしてチヤホヤされることで、等身大の自分よりも大きな価値が自分にあると思ってしまう。
だからその価値にふさわしいと判断した人間には優しくしたりすり寄って、価値なしと判断した人間との態度を変えるのかもしれない…。だがそれらは、本当に立場のある人間が、一番やらないことだ。
そこまで思考を巡らせていると、陽子が恐ろしいことを口走った。
「もう、本当ムカついたんで、友達に松尾さんのインスタアカウント教えて、この人凄い性格悪いって言いふらしてます。」
女の恨みほど、恐ろしいものはない。
「どんなに偉くなったとしても、ああいう風になっちゃいけないわね…。」
麗子は怒りに燃える陽子をなだめながら、誰にともなくひとりごちた。
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ゆるふわディスりが酷すぎる女。
