外国人旅行客に日本刀の説明をするクラインストラさん(右)。店では、様々な時代の刀を取り扱う(5日、京都市東山区で)=永尾泰史撮影

写真拡大

 古美術品を国外へ持ち出す際に、国指定の文化財などではないことを示すため税関へ提出する文化庁の「古美術品輸出鑑査証明」について、2025年度の申請数が9667件で、10年前の約3倍に達していることが文化庁への取材でわかった。

 日本の古美術品の需要の高まりや円安の影響を反映しているとみられるが、まだ存在を知られていない貴重な古美術品が海外に流出してしまうとの懸念もある。(京都総局 夏井崇裕)

数百万円でも躊躇なく

 様々な年代の日本刀や甲冑(かっちゅう)を扱う「東山堂祇園八坂店」(京都市東山区)には、欧米やオーストラリアからの訪日客が絶え間なく訪れる。

 店舗統括部長で、日本に約10年住んでいるニュージーランド国籍のマーク・クラインストラさん(36)は「時代を経た刀剣の輝きに魅せられ、博物館級の価値があると感じる人が多い。円安の影響もあって数百万円でも躊躇(ちゅうちょ)なく購入していく」と話す。

 海外にも熱心なファンが多いアニメ「鬼滅の刃」や配信ドラマ「SHOGUN 将軍」を見て刀剣などに興味を持つ人が多いという。外国人がこうした店で年代物の刀剣などを購入し、母国に持ち帰る際には古美術品輸出鑑査証明が必要なケースが多い。

最多9667件

 国宝、重要文化財や国認定の重要美術品は、文化財保護法で原則、輸出が禁じられている。刀剣、絵画、仏像、考古資料などの古美術品を国外へ持ち出す際には、貴重な文化財が海外へ流出する事態を防ぐため、それらが該当の文化財ではないか税関で確認を受けることになる。

 証明できなければ国外には持ち出せないため、手続きの円滑化を目的に、文化庁が事前に申請を受け付けて鑑査。書類に貼り付けられた古美術品のカラー写真、制作年や作者を記した銘文や奥書の内容などを確認し、輸出が禁止された文化財ではないと確認できれば、証明書が発行される。

 文化庁によると、鑑査証明の申請数は、16年度が3403件で、その後は21年度まで3000〜4000件前後で推移。だが、22年度に初めて5000件を突破すると以降、増加幅が拡大。24年度は9235件、25年度は9667件と過去最多を更新している。

 文化庁はこれまで、証明書発行の所要期間の目安を10開庁日としてきたが、申請数が増加しているため、最近は1か月以上かかるケースもある。そのため、申請書類の記入欄を減らし、申請が代理人の場合に必要だった委任状を不要とするなど、昨年から様式の簡略化を進めている。ホームページで、日程に余裕を持って申請するように呼びかけている。

 刀剣など個別の古美術品の輸出状況を示すまとまったデータはない。鑑査証明の内訳も集計されていないが、文化庁美術学芸課の担当者は「刀剣は多い印象だ」としている。

好機にも

 立命館大の矢根遥佳准教授(国際貿易)は「日本文化の輸出を促し、世界に広めるチャンスでもある。適切な活用や保護のため、古美術品の品目ごとの内訳や輸出先など整理されたデータが必要になる」と話す。

 同志社女子大の山田邦和特任教授(考古学)は、地方の旧家などが所蔵し、存在を知られていない国宝や重文クラスの古美術品が、「未指定の状態で国外に流出するリスクがある」と指摘する。考古資料や歴史的背景がある古美術品であっても、オークションで売買が繰り返されるうちに、来歴がわからなくなり、本来の価値が損なわれる可能性があり、「海外流出が懸念されると判断した場合、市場に出てしまった品を国や民間で買い上げ、救出するという視点も強化しなければならない」としている。