裁判になったら…

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 企業が株主との対話でこじれたときの最悪のケースが株主代表訴訟だ。東日本大震災で発生した東京電力福島第1原発事故をめぐっては、株主が旧経営陣5人に約23兆円の賠償を東電に支払うよう求めて提訴した。1審は13兆円の賠償を命じたが、昨年6月の控訴審はこれを取り消し、現在は株主側が最高裁に上告している。

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 いまの時代、株主代表訴訟の判決によって、企業は経営危機に直面する。こうしたリスクに備えるのが、会社役員賠償責任保険(D&O保険)だ。東証プライム上場企業約1600社はほぼ100%が加入する。メガ損保3社で市場をほぼ三分する中、損保ジャパンのD&O専門チームに話を聞いた。

「最近は、巨額の訴訟リスクをカバーするため、複数の保険を組み合わせて加入する企業も珍しくありません。会社法改正で手続きが明確化されて以降、加入が本格化しました」

 企業活動がグローバル化すると、海外でトラブルに巻き込まれるリスクもある。実際、損保ジャパンでは、海外子会社を含めたグローバル対応のニーズが増えているそうで、「国ごとに異なる規制に対応できるのが弊社の強みです」と胸を張る。

 では、契約内容はどうやって決まるのか。

「有価証券報告書や決算内容、過去の訴訟歴のほか、役員への直接のヒアリングなどを通じて個別にリスクを検討します。弊社も株式会社であり、株主への説明責任があるため、引き受け判断は厳密です。保険金額も毎年1回必ず見直しています」

 気になる保険料は、一般論として年数百万円から数千万円規模が多いという。

 かつては「グループ内の保険会社に任せる」という慣例もあったが、今やD&O保険の加入・更新には、取締役会の決議や情報開示が必要で、ガバナンスの「外の目」が厳しく光る。当たり前だが、それだけリスク管理が重視されていて、そんなリスク対策を設けるのは上場企業に限らない。非上場企業でも、たとえばセクハラやパワハラによる管理責任を問われて役員が訴えられるケースが増加しているため、保険の補償範囲は拡大の一途だという。

 巨額の賠償リスクに対し、政府も法整備に動き出している。法務省は、取締役の業務上賠償負担金に上限を設ける検討に入り、来年の通常国会に法案の提出を目指すそうで、同社は「『最低責任限度額』という明確な基準は営業面で大いに歓迎しています」と話している。

 米国のような巨額賠償があちこちで認められたら企業はひとたまりもない。そうならないように細心の注意を払って企業が活動するのはいうまでもないが、一定の限度額は必要だろう。