【春ドラマ・視聴率ベスト10】 1位「GIFT」がまさかの不調 「おスシ」「サバ缶」が健闘のワケ
「GIFT」出だし不調の理由
春ドラマの出だしはどうなのだろう。プライム帯(午後7〜11時)に15本ある連続ドラマの個人視聴率を調べ、4月第1週から4週(3月30日〜4月26日)の平均値を算出した。そのベスト10は――。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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NHKも含めたテレビ界全体が、視聴率の標準を世帯視聴率から個人視聴率に切り替えたのは2020年4月。丸5年が経過した。今、各局が気にするのは個人視聴率だけ。世帯視聴率は口に上ることすらない。
世帯視聴率から個人視聴率への移行はテレビ界の勝手なルール変更ではない。60年以上も前に生まれた世帯視聴率は時代に対応できなくなっていた。

最大の難点は大家族世帯も1人世帯も等しくカウントしてしまうところ。また誰も観ていなくてもテレビの電源が入っていたら、やはりカウントしてしまう。このため、観ていた人の数すら分からない。高齢者が好む番組ほど数値が高くなってしまうという特性もある。
個人視聴率は関東で1%が約40万人。人数が簡単に出る。男女別、世代別などの集計も行われている。この記事もテレビ界の標準に合わせ、個人視聴率で統一したい。
(1)TBS「日曜劇場 GIFT」(日曜午後9時)5.3%
(2)テレビ朝日「未解決の女 警視庁文書捜査官 Season3」(木曜午後9時)5.0%
(3)テレビ朝日「ボーダレス〜広域移動捜査隊」(水曜午後9時)4.5%
(4)TBS「時すでにおスシ!?」(火曜午後10時)3.2%
1位の「GIFT」の題材は車いすラグビー。昨年1年間の「日曜劇場」の視聴率は6.3〜6.7%だから、1%程度低い。
なぜなのか。その理由は作品の中で強豪チーム・シャークヘッドの国見明保ヘッドコーチ(安田顕)が示唆していたように思う。
「オレたちが勝ち続けていることを何人が知っている?」(第3回)
車いすラグビーがまだマイナーで、取っつきにくかったからだろう。パラリンピックを観る人が五輪より遥かに少ないことにも通底する。
物語自体は分かりやすく、構成は王道。絶望を味わった人たちがスポーツによって希望を取り戻す。喪失と再生が描かれている。
主人公の伍鉄文人(堤真一)は天才宇宙物理学者ながら、周囲への配慮がまるでなく、ダメな人である。そんな伍鉄が車いすラグビー界の弱小チーム・ブレイズブルズのサブコーチに就任する。宇宙の法則を採り入れた指導で、日本一を目指す。
選手の1人は宮下涼(山田裕貴)。高校サッカーの花形選手だったが、交通事故により、一瞬にして下半身の自由を失った。そのことから家族が衝突し、一家は離散してしまう。宮下はまだ立ち直れていない。
伍鉄がチームに迎え入れた車椅子の不良少年・朝谷圭二郎(本田響矢)は、かつてはバスケットに熱中していたものの、バイク事故で下半身不随になり、荒れた日々を送るようになる。だが、車いすラグビーと出会い、変わる。父親と2人で夜間の自主練習を始める。母親は笑顔を取り戻す。
縁遠い物語のようで、実はすぐ目の前にある話だった。
2位の「未解決の女」は人気シリーズの第3弾。警視庁捜査1課の第6係に所属する主人公で警部補の鳴海理沙(鈴木京香)が、脅迫状など事件に関わる文書を分析。犯人の性格や隠れた思いなどを割り出し、事件解決の突破口にする。
理沙は「魔女」とも呼ばれている。黒ずくめの洋服に身を包み、ちょっと変わった人だからである。犯人の書いた文書から事件解決の材料を見つけると、「文字の神様が降りてきた!」と口走る。ほかのドラマの鈴木とはかなり違う。面白い。
理沙のバディ的存在は刑事の矢代朋(波瑠)からキャリア組で第6係長の陸奥日名子(黒島結菜)に変わった。ちょっとズレたところのある愉快な女性である。
3位「ボーダレス」は刑事ドラマの名門・東映の新作。同社は「相棒」「臨場」などリアルな刑事ドラマをつくることで知られるが、今度は逆張りしてきた。リアリティは二の次。事件に合わせて走り回る特殊トラックが舞台である。この特殊トラックが刑事6人の拠点となる。
刑事の仲沢桃子(土屋太鳳)とやはり刑事の黄沢蕾(佐藤勝利)のダブル主人公。しかし物語を下支えしているのは警部で課長の赤瀬則文(井ノ原快彦)である。イノッチも49歳。渋さや重さが増し、管理職役が似合うようになった。
「おスシ」は名作か?
4位の「時すでにおスシ!?」はスーパー従業員の待山みなと(永作晴美)が主人公。50歳である。夫は14年前に事故で他界した。事故の朝、ケンカしたままだったことを今でも悔やんでいる。こういったディテールを細かく描いているから、このドラマは信用できる。
懸命に育てた1人息子の渚(中沢元紀)は鉄道会社に就職。家を出た。1人暮らしになり、自分の時間が出来たが、何をすればいいのか分からない。そんなとき、ひょんなことから、鮨職人になるための学校に入る。新しい友人が出来た。短気だが好人物の講師・大江戸海弥(松山ケンイチ)には慕われている。恋になる可能性も感じさせる。
ごく普通の人たちの人間模様が、温かく、やさしい視点で描かれている。小さなエピソードを丁寧に積み上げ、エンタメとして成立させている。同局の記録的ヒット作「ありがとう」(1970年)と同じ系譜にある作品だ。
(5)TBS「田鎖ブラザーズ」(金曜午後10時)3.1%
(5)テレビ朝日「リボーン〜最後のヒーロー〜」(火曜午後9時)3.1%
(7)フジテレビ「サバ缶、宇宙へ行く」(月曜午後9時)3.0%
(8)フジテレビ系「銀河の一票」(月曜午後10時)2.9%
5位「田鎖ブラザーズ」は神奈川県警青委警察署の刑事・田鎖真(岡田将生)と、その弟で同県警の検視官・稔(染谷将太)が主人公。
兄弟の両親は1995年、何者かに殺害された。殺人罪の時効は2010年に廃止されたものの、この両親殺しは間に合わず、時効となってしまった。兄弟は自分たちで事件の真相を解明するため、同県警に入った。
通常の刑事ドラマとして視聴しても見応えがある。そこに両親殺しを追う要素がトッピングされている。さらに兄弟が扱う事件を観ていると、被害者の遺族感情を考えさせられる。
野上昌也(近藤公園)という男が元高校水泳部コーチ・大河内順(紘史郎)を車ではねて殺した。過失を装ったが、故意だった。野上の長男は大河内の元教え子で、厳しい指導を苦にして自死してしまった。その復讐だった。
やり過ぎというのが常識的な考え方だろうが、被害者が自分の身内でも同じことが言えるだろうか。罪と罰のバランス。それを考えさせる。
同じく5位「リボーン」の主人公は根尾光誠(高橋一生)。驚異的な急成長を遂げた企業のオーナー社長だ。根尾は非情なビジネスマンであり、泣かされる人が続出していた。東京の下町にある商店街も根尾が強引な地上げを進めたため、崩壊寸前。自死する人まで出た。
ある日、根尾は何者かに階段道路の最上部から突き落とされる。死んだと思いきや、自分が地上げしていた商店街で地道に働く野本英人(高橋一生、2役)に転生する。野本の容姿は根尾と瓜二つ。時代は2012年に戻っていた。
野本になった根尾は商店街のために知恵を出し、感謝される。敵ばかりで最後は殺されそうになる社長時代とどちらが幸せか。
リアルな学園ドラマ
7位「サバ缶、宇宙へ行く」の主人公は福井県内の水産高校に赴任する新人教師・朝野峻一(北村匠海)。朝野が教え子たちと地元の名産品・サバの缶詰を、JAXA(宇宙航空研究開発機構)に宇宙日本食と認証させるまでの物語。実話に基づいている。
まず設定が良い。全国の高校生のうち、職業高校の生徒は全体の17%もいる。しかし、ドラマになることは皆無に等しく、登場するのは大学進学を目指す普通科の生徒ばかり。現実と乖離していた。
朝野と生徒たちの交流にも現実味がある。たとえば東京から転校してきた女子生徒・菊池遥香(西本まりん)は福井にも学校にも不満で、いつも暗い顔をしていた。やはり東京から来た朝野は菊池に対し「僕は楽しい。つまらなくしているのは菊池さん自身じゃないか」と穏やかな口調で助言する。
あえて平凡なエピソードを挿入しているのだろう。近年の学園ドラマは競って現実離れしたエピソードを採り入れていたが、それを観る10代は興ざめだったのではないか。
8位の「銀河の一票」は元与党幹事長秘書・星野茉莉(黒木華)がスナック代理ママ・月岡あかり(野呂佳代)の東京都知事選の当選を目指す。
(9)日本テレビ「タツキ先生は甘すぎる」(土曜午後9時)2.8%
(10)日本テレビ「月夜行路 −答えは名作の中に」(水曜午後10時)2.7%
9位の「タツキ先生は甘すぎる」は初等教育ドラマ。出色の仕上がりだ。さすがは「熱中時代」(1978年)や「女王の教室」(2005年)を生んだ日テレである。
今回の舞台はフリースクール。学校に行きたくない子が集まっている。主人公で教室長の浮田立樹(町田啓太)は子供たちに好きなことをやらせる。ゲーム、将棋、ビーズアート。なんでもいい。子供たちにしたいことがなくなることを恐れているようだ。
荒れる子供の実態もセンセーショナリズムを避けながら描写している。両親の教育方針が大きく割れていた女児の場合、それに心を痛め、小学校に通えなくなった。立樹のフリースクールに入ったものの、両親が本人の意向も聞かず、一方的に退校させてしまう。逃げ場のなくなった女児は爆発する。自室で物を次々と破壊。母親はやっと事の重大さに気づく。
10位の「月夜行路」は事件好きで文学オタクの野宮ルナ(波瑠)と主婦の沢辻涼子(麻生久美子)が、事件を解決に導く。推理の際には誰もが知る名作小説を参考にする。血なまぐささのない推理ドラマ。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員
デイリー新潮編集部
