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30年続いた婚姻生活にピリオドを打った雅美さん(仮名・56歳)。財産分与で1,200万円を手にしたものの、地方都市での一人暮らしは想像以上に厳しく、派遣社員としての収入は日々の生活費や社会保険料の支払いで消えていきます。資産を取り崩していくことへの不安を感じるなか、FPへの相談をきっかけに「お金の使い道」を見直すことになります。将来の不安を抱える50代女性が、どのようにして安心を取り戻したのか。50代以降の資産寿命を延ばすための考え方について、FPの京極佐和野氏が解説します。

「これだけあればなんとかなる」…熟年離婚で手元に残った1,200万円

「これだけお金があれば、なんとかなると思っていました」

3人の子どもたちが全員独立し、末子が就職したのを機に、30年続いた婚姻生活にピリオドを打った雅美さん(56歳・仮名)。

手元には、「財産分与」で得た1,200万円の資産が残りました。また、年金の「合意分割」により、将来受け取る年金額も月数万円程度増える見込みとなり、老後への備えは万全なはずでした。

しかし、実際に一人で生活を支えるようになると、状況は想像していたものとは異なっていました。

わかっていたはずの社会保険料や税金、そして生活費の負担。それらをすべて自分の収入から支払っていく現実は、思っていた以上に重いものでした。 そこに物価高が重なり、「このお金を使い果たしたら、私はどうなるのか」という不安が、次第に大きくなっていきました。

手取り17万円の現実…1,200万円の「安心」が「不安」に変わったワケ

「手取り、たったのこれだけ……? 家賃と保険料を払ったら、ほとんど残らないじゃない……」

現在、雅美さんはフルタイムの派遣社員として、手取り17〜18万円ほどを確保しています。離婚の話し合いを始める前から、扶養を外れて社会保険に加入し、自立の準備を整えていたつもりでした。しかし、いざ一人になって給与明細の控除欄を見たとき、想像以上の負担を実感したといいます。

扶養の範囲で働いていたころは、月10万円弱のパート代でもその多くを自分の小遣いや貯蓄に回せていました。しかし現在は収入が増えた分、夫が払っていた家賃や社会保険料をすべて雅美さんが負担するため、「自分で自分を養っていく」という現実を、かつてないほどシビアに感じたそうです。

家賃5万円台、光熱費、食費、社会保険料。日々のやりくりで毎月いくらかは貯蓄に回せているものの、派遣のためボーナスがなく、家電の買い替えや冠婚葬祭などの不定期な出費が重なると、その分がすぐに消えてしまうのが現状です。額面上の数字は増えても、実際には生活を維持するだけで精一杯で、将来への貯蓄が思うように進みません。

「1,200万円に手をつける日が来たら……。そう思うと、怖くて夜も眠れません」

毎月の収支は黒字でも、年単位で見ると手元の資産は増えていきません。このまま年を重ねて今の働き方ができなくなったときのことを考えると、不安に押しつぶされそうになるそうです。

「何のために離婚したんだろう」…50代派遣社員が抱える〈働き方の不安〉

さらに、働き方そのものへの不安もあります。

「この先、もっと条件の悪い仕事しか紹介されなくなったら……。今の生活すら維持できなくなるかもしれないと思うとゾッとします」

50代半ばを過ぎてからは、派遣の現場でも若さやスピードを求められることが増えたといいます。派遣という働き方は、更新のたびに条件が変わる可能性があります。そのことが、雅美さんの不安を助長させました。

学生時代から人の心の動きやコミュニケーションに関心があり、地域の国際交流センターで外国人支援に関わってきた経験もある雅美さん。しかし、安定した仕事を探そうとしても、見つかるのは条件や働き方の面で折り合いがつかない仕事ばかりでした。

「スーパーに行くたび、以前より値段を気にして買い物をしています。私、何のために離婚したんだろうって……」

物価高のなか、日々の生活費を抑えるために奔走する現実が、雅美さんの心を少しずつすり減らしていました。

通帳の数字に振り回されないために…FPが提案した「50万円の使い方」

そんな雅美さんに転機が訪れたのは、「このままではいけない」と意を決して、FPに相談したことでした。将来の不安を数字で可視化してもらうなかで、思いがけない提案を受けます。

「1,200万円をただ生活費として取り崩していくのを待つのではなく、将来の収入につながる形で使うという考え方を持ちませんか?」

ただ守るだけではジリ貧になる。しかし、自己投資によって「長く稼ぎ続ける力」を手にすれば、残りの資産を本当の老後まで温存できる。FPの一言で、雅美さんのお金に対する価値観が変わりました。

雅美さんは検討して、最終的に日本語教師の資格取得を決意します。受講費用は75万円。すでに支払い済みですが、修了後には特定一般教育訓練給付金として約25万円支給される見込みで、実質負担は約50万円となります。

「75万円も払うなんて、正直すごく怖かったです。でも、このままジリ貧になっていくのを待つほうが嫌でした」

現在は仕事帰りにスクールへ通う日々を送っています。

「通帳の数字に一喜一憂するより、これからは自分の力でどうやって稼いでいくかを考えていきたいです」

まだ不安はありますが、雅美さんは少しずつ前を向けるようになってきました。

【FP解説】50代の「守りの貯蓄」はリスク…資産寿命を延ばす〈支出のリバランス〉の重要性

今回のケースで重要なのは、「支出のリバランス」という考え方です。多くの人は、資産を守るために支出を減らそうとします。しかし、それだけでは不安は消えません。

たとえば、今回のケースでいえば、75万円の支出は一時的には大きな負担です。そのまま生活費として、いずれは減っていくお金です。一方で、それを「働き続けるための準備」に充てることで、今後の収入を維持できる可能性が生まれます。

同じお金でも、「どう使うか」によって、その後の安心感は大きく変わるのです。50代以降の支出見直しは、単なる節約ではありません。「何に使うか」を見直し、未来に向けた配分へと整えていくこと。それが「支出のリバランス」です。

雅美さんが離婚後に受け取った資産1,200万円は、守るだけでは安心にはつながらないでしょう。

大切なのは、「減らさないこと」ではなく、「どう使うか」です。もちろん資産運用という選択肢もありますが、お金の使い方を変えたときに、不安の源から未来を支える手段へと変わっていきます。

京極 佐和野

FPオフィスミラボ 代表

1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®/キャリアコンサルタント