「瓶の中の雷」で温室効果ガスが資源に変わる
イナズマジック? プラズマジック? 瓶のなかに「雷」を発生させて温室効果ガスを有用な化学物質に変えるという発想がすごい。
ノースウェスタン大学の化学者チームが、メタンをワンステップでメタノールに変換する新しい手法を発表しました。鍵となるのは、高電圧で発生させる「稲妻のようなプラズマ(電離した気体状態)」なのだとか。
学術誌Journal of the American Chemical Societyに掲載された研究論文によると、反応したメタンの約97%が、余計な副生成物ではなくきちんとメタノールになったといいます。
そもそも、なぜメタンをメタノールに?
まずメタンは、燃料としておなじみの天然ガスですが、強力な温室効果ガスでもあります。
EPA(アメリカ環境保護庁)によると、世界の温室効果ガス排出量の約11%を占めています。メタンの温室効果は、100年あたりでは二酸化炭素の28倍、20年の短期だと80倍に及びます。ヤバいやつなのです。
一方、メタノールはメタンを酸化して得られる液体化合物で、その用途は工業用溶剤や医薬品製造から不凍液、そしてもちろん燃料に至るまで、非常に多岐にわたります。
そのため、厄介者のメタンをメタノールに変換させるプロセスは、「触媒化学における究極の目標」と呼ばれるほど。触媒化学とは、触媒が化学反応をいかに効率的に促進するかを研究する学問分野です。
これまでの方法は回り道だった
ところが、現在の製造プロセスは、お世辞にもスマートとはいえないようです。
まず、メタンを水蒸気で処理して、一酸化炭素と水素の混合物にしてから、高圧・高温の環境下にさらして、メタノールとして再結合させる2段階方式になっています。
研究論文の共同執筆者で、ノースウェスタン大学の化学者でもあるDayne Swearer氏は、大学のプレスリリースで以下のように述べています。
この2段階の工業プロセスは高度に最適化されていますが、もっとも単純な経路というわけではありません。膨大な量の熱を消費し、その過程で必然的に二酸化炭素を発生させてしまいます。
なんとも皮肉な話ですね…。
プラズマを捕まえろ
そこで登場するのが「瓶の中の雷」です。研究チームは、酸化銅の触媒でコーティングされたプラズマ気泡反応装置を開発しました。本当に稲妻が走ってます…。
仕組みはこんな感じ。沸き立つメタンガスに電気パルスを当てると、ガスが分解されて反応性の高い化合物が生成されます。ただ、この化合物は非常に短命なため、すぐに触媒でつかまえてメタノールへと再結合させる必要があるので、分解されないうちに周囲の水へと送り込まれるという流れ。
Swearer氏は、米Gizmodoに対してこう説明しています。
我々の重要な突破口は、プラズマ内の短命な反応種を、可能な限り迅速に活用する必要があると認識した点にありました。プラズマの経路に沿って触媒を配置することで、より望ましい生成物を形成するように結果を制御できたのです。
また、同氏は「水素やエチレンといったほかの有用な気体生成物も同時に作り出しました。これらは、私たちのプラズマを用いた手法ならではのものです」とも述べています。
強力な温室効果ガスをメタノールに変換させたうえに、有用な生成物のおまけまでつけるとは、プラズマジック恐るべし。
すぐに実用化できるわけではないけれど
とはいえ、この技術はいますぐに実用化できるわけではありません。
そのあたりはSwearer氏も冷静で、「この化学反応が、高度に最適化された化学施設と競合するには、まだ多くの研究が必要でしょう。しかし、メタノールがワンステップで製造できることを実証しています」と、一定の評価をしながらも、現実を見据えています。
プラズマは「物質の第4状態」とも呼ばれ、観測可能な宇宙の99%以上を占めていますが、地球上ではまれな存在です。
それでも、実はほとんどの電子機器の製造現場などでは重要な役割を担っているといいます。今回の研究結果は、予想外の分野において、プラズマにはまだ未開拓の潜在能力が眠っている可能性があることを示唆しています。
Swearer氏は、研究の意義と今後の課題について、次のように話しています。
この研究は、基礎研究が分子間相互作用の最適化にどのように貢献できるかを示す好例であり、将来的にはより小型で、よりクリアな、よりエネルギー効率に優れた化学技術の開発の一助になり得ます。この研究分野には、本当に驚くべき可能性がありますが、まだ多くの課題が残されています。
瓶に閉じ込められた「雷」が、化学技術の未来に閃光を走らせるかもしれませんね。
Reference: Stanford University

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