「頭がすでに他所にある」「忠誠心が欠如」プレミア移籍が決定的なブラジルの18歳に、同僚、ファン、メディアが不満。CWC8強の相手はくしくも新天地となるチェルシーで…【現地発】
現在、彼はパルメイラスの選手としてクラブ・ワールドカップ(CWC)に参戦しているが、チェルシーへの移籍を目前に控えている。移籍金は3400万ユーロ、それに加えてボーナス2300万ユーロとも言われ、10代の南米選手としては近年で最も大きな取引の一つだ。
「今、目の前にあることに、集中するのが難しいんだ」
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新天地の、プレミアリーグ、ヨーロッパというより大きな舞台で活躍したいと思うのは選手なら当然のことだろう。彼の頭はすでにロンドンに飛んでいる。チェルシーも彼がすぐにチームに溶け込めるよう、言語、文化、新しいライフスタイルを教えるべく、すでにチューターとメンターを彼につけている。
ただパルメイラスのロッカールームでの彼の状況は日に日に複雑になってきている。一部のベテラン選手は、エステバンの態度やプレーに納得がいかないようだ。彼らによると、エステバンは練習に遅れてくることもあれば、試合後のミーティングを欠席することもあるという。その理由は「疲れている」や「個人的な用事がある」とのこと。
これはコーチ陣の不満を招いている。CWCを戦う重要な時期に、彼の行動はチームの一体感を損ねるというのだ。知り合いのパルメイラス関係者によると、エステバンはチェルシーのスタッフやヨーロッパにいる友人たちとメッセージや電話をするのに多くの時間を費やしているという。ある練習後には、ロンドンの友人に英語のレッスンについて尋ねていて、「頭がすでに他所にあるように見えた」という。
若いうちの移籍の難しさを警告する者もいる、彼の現チームメイトのヴィトール・ロケ。彼はエステバンと同じく18歳で期待されてバルセロナに移籍したが、なかなか活躍できずブラジルに戻った。レアル・マドリーのエンドリッキもプレッシャーとヨーロッパのスタイルに適応するのに苦戦している。エステバンより成熟しているにもかかわらずだ。
これはチェルシーにとっても大きな賭けだ。エステバン獲得を決めるまで、彼はブラジルのセリエAとリベルタドーレス杯を通じてわずか11試合しか出場していなかった。ライバルに先駆けて彼と契約するために、チェルシーはリスクを負ったのだ。この逸材がプレッシャーに耐えられるか、それとも崩れてしまうか、それはまだわからない。
運命のいたずらかCWCの準々決勝でエステバンのパルメイラスは、チェルシーと対戦する。ブラジル人の多くは、かつて横浜で行われたCWC決勝で、サントスがバルセロナに敗れた試合を思い出している。あの試合、サントスのスターだったネイマールはまったく良いところがなく、のちに、実はすでにバルセロナへの移籍が裏で決まっていたことが発覚し大騒動となった。
ネイマールはまだ試合の時点では移籍の件が公に放っていなかったが、エステバンのチェルシー行きは誰もが知っている。移籍渦中の選手の出場を禁止するルールはない。彼のプレッシャーは計り知れないだろう。
エステバンが少しでも悪いパフォーマンスを見せれば、チェルシーに忖度したとして騒がれるだろうし、ゴールを決めれば将来のクラブを敗退させることになる。ブラジルからイギリスまで、誰もが彼がこの試練をどう乗り越えるかを注目している。
試合を目前にして、エステバンはより孤立した状態にあり、ジムで一人過ごす時間が増えたという。パルメイラスの心理カウンセラーが彼の精神のバランスを保つのを助けている。18歳の選手にはかなりの重荷だ。このCWCは彼にとって単なるトーナメントではない。彼がヨーロッパの厳しいサッカー界に飛び込む前の、最後の試金石だ。
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。
またピッチでは、彼は戦術よりも常に自分の判断を優先し、仲間へのパスが減っているとチームメイトたちは嘆く。試合を一人で動かそうと「自分でドリブルで持ち上がってシュート」というスタイルを連発している。
移籍前に実力をアピールしておきたい気持ちはわかるが、そのため彼は時にチームから孤立しているようにも見える、と前述の関係者は言う。
試合でもその緊張ははっきりと見て取れる。例えば、CWCラウンド16の対ボタフォゴ戦ではエステバンは途中交代することに強い抵抗を示し、多くの人を驚かせた。カメラは彼の不満(もしくは罵り)の言葉と地面にブレスレットを投げ捨てる姿を捉えた。
この一連の行動はブラジルでは物議をかもし、メディアの一部は彼を「傲慢」と糾弾。アベル・フェレイラ監督は「彼はまだ人生の複雑な時期にある少年だ。これから忍耐というものを学んでいくだろう」と彼を擁護したが、彼のブラジルでのイメージは決して良いものではなくなってきている。
一度スキャンダルが持ち上がると、彼のいろいろな面が取りざたされるようになる。例えば最近、エステバンが手首に白いリストバンドを巻いているが、これも非難の対象となった。このリストバンドはネイマールらが始めたファッションで、プレーにはあまり関係ないが、それを「クール」と感じる選手が真似している。
エステバンもスタイルにばかり気を取られすぎているから、パルメイラスが期待していたような活躍をCWCで見せられないのだとも言われている。ボタフォゴ戦では彼と交代して出場したパウリーニョが、その試合のパルメイラスの唯一の得点を決めた。
SNSも問題視されている。エステバンは最近チェルシーの選手をフォローし、将来のクラブに関する投稿には「いいね」を付けるようになったが、パルメイラスサポーターの一部はこれが気に入らない。「チームへの忠誠心が欠如している」「自分が今どこのチームに所属しているのかを忘れている」などの声が上がっている。
不安定なのは現在だけではない。彼の前に広がる道も、輝かしくも大きなリスクを抱えている。もし活躍できなかったら?
エステバンのエージェントはすでにイングランドでの肖像権やスポンサー契約の交渉を着々と進めている。少なくとも2つの大手スポーツブランドが、彼を若者向けキャンペーンの顔に起用したいと興味を示しているという。
巨額の移籍金の圧力、世間の注目、それに彼自身がついていけるか、彼の中ではそんな思いが今まさに衝突しているだろう。
