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最もラグジュアリーなクーペを作りたい

「ロールス・ロイスであることが第一。電気自動車であることはその次です」。ロールス・ロイスの新しいクーペを開発する際、CEOのトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏が、担当する技術者へ伝えた言葉だ。

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スペクターは、ロールス・ロイス最新のフラッグシップ・モデル。2ドアクーペで、バッテリーEV(BEV)だが、必ずしも電気をエネルギー源とする必要はなかった。


ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ

2016年に生産を終えた、ロールス・ロイス・ファントム・クーペの後継モデルに据えられる。全長は5453mm、全幅が2080mm、全高が1559mmあり、ロールス・ロイス・レイスやドーンといった、従来の2ドアモデルよりひと回り大きい。

「ファントム・クーペは、最も特徴的なロールス・ロイスの1台として評価されていますが、とても珍しい存在です。恐らく数100台程度しか生産されていません。オーナーの方には大切に維持していただき、手放さないで欲しいですね・・」

「お客様は、あのようなクルマが戻ってくるなら素晴らしいとおっしゃいます。わたしたちは、BEVを作りたいとは考えていませんでした。最もラグジュアリーなクーペを作りたいと考えたのです」

「電動であることは副産物。V型12気筒エンジンの、次の段階に過ぎません」。ミュラー・エトヴェシュが丁寧に説明する。

60%の完成度でも量産へ移せそうな仕上がり

スペクターを筆者が目の当たりにしたのは、南アフリカの西ケープ州。試乗車として用意されていたプロトタイプは、既に量産車のような仕上がりにあった。

しかし、まだ40%の仕事が残っているという。オーダーした顧客へ納車が始まるのは、8か月後になるそうだ。


ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ

AUTOCARを定期的にお読みいただいている方なら、2022年の春にスペクターの開発車両へ同乗したレポートをご記憶かもしれない。その時はスウェーデンの北極圏だった。開発初期の段階ながら、画期的なモデルが進行中であることを宣言するものといえた。

一転して、今回は南アフリカ。試乗を終えた印象を率直にお伝えすると、まだ60%の完成度だとは思えない走りだった。5%ほど手直しを加えて、量産へ移せそうにすら思えた。ロールス・ロイスとして、些細なスキも許されないのだろう。

「調査と挑発の連続です。スポーツ選手のように、変化の度合いは僅かかもしれません。大きな変革のために、細部の改良を重ねています。並外れた成果には、まだ多くの作業が必要です」。技術者を率いる、ミヒアル・アヨウビ氏が話す。

まさに極地が目指されているスペクターだが、基礎となる骨格は定評のある逸品が採用された。アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリーと同社が呼ぶ、独自開発のアルミニウム製スペースフレームをベースとしている。

第8世代のファントムで初採用されたもので、SUVのカリナンと4ドアサルーンのゴーストも用いている。アクティブ・アンチロールバーにアダプティブダンパー、エアサスペンション、後輪操舵システムなどのハードは、基本的に共有となる。

ツインモーターで585ps バッテリーは106kWh

ボディは完全なオリジナル。パワートレインも含めた電動アーキテクチャも、もちろん新開発。100を超えるサブシステムと統合制御し、1万4000を超える相互通信を可能としているという。

パワーユニットは2基の駆動用モーターで、前後に搭載する四輪駆動。BMWと共同開発されており、総合で585psの最高出力と91.6kg-mの最大トルクを発揮する。駆動用バッテリーは106kWhの容量で、BMWグループとしては最大のユニットだそうだ。


ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ

航続距離は、想定値で515kmが主張される。車重は2975kgと、サイズに見合うだけ重い。それでも、0-100km/h加速を4.5秒でこなす。ホイールベースは3210mmもある。

さて、予習はこのくらいにしておこう。スペクターの開発責任者を務める、イェルク・ヴンダー氏は緊張した面持ちで試乗前の説明会をスタートさせた。「弊社以外の人物で、このクルマを運転するのは皆さんが初めてです」

実際にステアリングホイールを握るに当たり、数ページに及ぶ資料へ目を通し、免責事項への承認を求められた。あくまでも、開発上の試作車にすぎないためだ。自ずと、筆者も背筋が伸びる。

金色に輝くスペクターへ近寄る。ロールス・ロイスでは最長だという、長さが1.5mのリアヒンジ・ドアが自動で開く。車内を覗くと、助手席で穏やかな表情のヴンダーが待っていた。

インテリアは、従来の雰囲気へ通じている。CEOのミュラー・エトヴェシュの言葉が頭をよぎる。「これはロールス・ロイスです。巨大なモニターを押し込むなど、ギミックのようなモノは一切ありません。過剰なハイテクは必要ないのです」

この続きは後編にて。