「私、遊ばれてる…?」モテる男の部屋で感じた不信。そっと開けた戸棚の奥で見つけた物とは
「モテる男なんて苦労するだけ」
「結婚するなら誠実な男が一番」
早々に結婚を決めた女友達が、口を揃えていうセリフ。
だが本当にそうなのだろうか。ときめきのない男と結婚して幸せなのだろうか。
そう疑問を呈するのは、村上摩季・27歳。
モテ男・相原勇輝に心奪われた摩季は、当日夜の呼び出しにも関わらず彼に会いに行く。
だが初回デートは不完全燃焼。意気消沈する摩季だが、同期・玲奈に背中を押され自ら勇輝をデートに誘う。

−摩季さんが相原さんの彼女なんて、すっごく意外。
もう思い出したくないのに、またしても胸を抉られた。
ついさっき、後輩・香織が私に向けた不敵な微笑と言葉の刃。気にすることなどない。相手にしてはいけない。
頭ではわかっているものの、彼女の挑発的な視線が忘れられなかった。
香織はきっと私と違い、常に恋愛で勝ってきた女なのだ。だからあんな風に強気でいられる。
−よりによって、一番苦手なタイプがライバルになるなんて。
「どうしたの?なんかあった?」
思わずため息を漏らした私に、勇輝が怪訝な視線を向けた。
「え!あ…ごめん。別に何も…」
慌てていつもの笑顔を作ると、勇輝を見つめ返した。心配そうに私を覗く目が穏やかで、優しくて、もうそれだけでキュンとする。
そうだ。せっかく勇輝との会社帰り初デートだというのに、ライバルに台無しにされてどうする…!
「…そう?摩季ちゃんが元気ないと、なんか調子狂うよ」
隣でそんなことを言い、ワイングラスに手を伸ばす勇輝。スーツ姿の彼は爽やかさに色気まで漂わせ、もはや無敵である。
仕方ない、と私は思った。だっていい男だもの。彼を狙う女が出てくるのは当然だ。それは止められることじゃない。
ただ...それならそれで、私にもやるべきことがある。
「ねぇ、勇輝くん。香織ちゃんって子と何かあった…?」
直球で香織との関係を尋ねることにした摩季。勇輝の答えはいかに
「香織ちゃん…?ああ、あの子か。小動物系の可愛い子」
可愛い、と言った勇輝の言葉に再び胸を抉られた。いや、確かに香織は可愛い。美女揃いで名高いうちの会社で、部署を越えて話題になるくらいなのだから。
事実だから仕方がないが、勇輝にだけは香織を褒めて欲しくなかった。
複雑な表情を浮かべた私に何かを悟ったらしく、勇輝はほんの少し慌てた様子で言葉を続けた。
「バーベキューのあと誘われて、食事くらいは行ったけど。もちろん摩季ちゃんと付き合う前の話」
誘われたから行っただけだと強調する口ぶりだった。
「それだけ…?」
「うん。可愛い子だけどさぁ、なんか面倒そうじゃん?ああいうの好みじゃない」
なるほど。香織の曲者っぷりを見透かすとは、さすがモテ男のセンサーは一級品。
なにはともあれ「好みじゃない」と断言した勇輝の言葉は、私をつかの間安心させた。だが本当にそれだけなのだろうか。
食事に行っただけで、香織があんな口をきくものだろうか。
「あれ、もしかして疑ってる?」
考え込んでしまった私を覗き込む勇輝は、拗ねた様子で唇を尖らせている。
「いや、そういうわけじゃ…」
「じゃあ、もうこの話は終わりね」
歯切れの悪い言葉を遮り、勇輝は私の肩を強引に抱いた。
「ねぇ、摩季ちゃん。もっと俺のこと信用して?」
ああ、ダメだ。まっすぐな目でそんな風に言われたら…私はこくり、と頷く他ない。
どうして結婚したの…?

週末の午後、私は学生時代の友人・裕子と表参道にいた。
電撃婚を決めた花苗に結婚祝を買おうと、期間限定オープン中のティファニー@キャットストリートにやってきたのだ。
しかも裕子が執念でWEB予約をとってくれたおかげで、ギフトのペアタンブラーを購入した後は『ティファニーカフェ』でお茶することまで叶った。
そしてテンションが上がり浮かれた私はつい、ポロリと話してしまったのだ。
「やっぱり相手は、チャラ商社マンだったか」
わかりやすく呆れ顔を浮かべた裕子を見て、私はすぐに後悔した。やはり話す相手を間違えたかもしれない。
勇輝との出会いから現在、そして香織との一件を聞き終えると、裕子は呆れを通り越し説教モードに入りはじめた。
「ほんと摩季ってモテる男が好きだよねぇ。過去にあれっだけ苦労したのに…」
裕子の言葉で、これまで私が散々振り回され続けたモテ男たちの顔が蘇った。
嘘をつかれたこと、裏切られたこと数知れず。消えたと思えば現れる女の影に怯え、消耗の末に自滅した恋もある。
しかし過去の男たちと勇輝は違う。別人だ。
「いやでも、勇輝くんはモテるけどだらしないわけじゃない…と思うし。それに結婚したり子どもができたら意外に落ち着くタイプかもしれないし…」
「いや、それはない。女好きは治らないし、遊ぶ男は永遠に遊ぶって」
弁明を試みた私の言葉は、途中で正論に遮られてしまった。
「ねぇ摩季。いい歳して男に振り回される女とか、正直痛いよ。今はまだいいとしてもあっという間に年取るんだから。それに摩季は結婚したいんだよね?だったら付き合う相手が違うんじゃない」
容赦なく突き刺さる親友の言葉。そしてこの後、裕子の忠告通りの出来事が起こってしまう
長い付き合いの親友の言葉は、容赦がない。
しかし彼女は何も私を傷つけようとしているわけではない。むしろ私がまた傷つかないよう心配してくれているだけなのだ。
「…裕子はなんで結婚したの?旦那さんと」
反論の代わりに、私はずっと聞きたかったことを尋ねることにした。
というのも、彼女が私たちの前で夫のことを語るとき、惚気どころか愚痴がほとんどだからだ。
家にいても邪魔なだけとか、お腹が出てきてみっともないとか。最近じゃ手を繋ぐこともほぼないらしく、この間は「寝起きが臭くて近寄りたくない」とまで言っていた。
−その結婚、本当に幸せなの…?−
私はずっと不思議だった。裕子の選択を否定する気はないが、恋い焦がれてもいない男と結婚した“決め手”は何だったのか。
「なんでって…“適切”だと思ったから?早めに子どもも欲しかったし」
適切、かぁ。
裕子の言葉は私にまるで響かなかった。私は誰かを好きになるとき、適切かどうかなんて考えたこともない。
むしろ逆だ。適切じゃないとわかっていても、気づけば溺れている。私にとって恋愛はそういうものだった。
「とにかく、女の心配しなきゃいけない男に深入りするのはやめときな。また傷つくだけなんだから…」
親友の言葉に小さく頷きつつも、私はこの時はっきり思い知ったのだった。
この世には恋愛を必要としない女がいるのだ、と。そして私はそっち側の女でないということも。
最終的に振り回されようが傷つけられようが、心から好きだと思える男との時間は宝物だ。無駄だと思ったことなんて一度もない。
勇輝とのこともそうだ。たとえ“適切”でなかったとしても、彼はやっぱり魅力的で、私が今一緒にいたいと思う唯一の男なのだ。
しかしこの日、裕子と別れたあと、私は彼女の忠告の正しさを思い知ることとなるのだった。
モテる男が犯した、致命的なミス

「ちょっと洗面所借りるね」
その夜、裕子と別れたその足で、私は麻布十番にある勇輝の家に立ち寄った。
外食続きで食傷気味だというから、何か胃に優しい和食を作ってあげると約束していたのだ。
ひとまずスーパーの袋をキッチンに置かせてもらい、手を洗うのに洗面所を借りた。
その時、なぜか目が向いたのだ。ほんの少しだけ開いていた、化粧台下の戸棚に。
その薄暗い先の中身が無性に気になったのは、“女の直感”だっただろうか。
しばし逡巡した末、私は音を立てないよう扉を開いた。そして、そこに並べられたある物を目にしてハッと息を飲む。
視線の先には、一目で女性のものだとわかる化粧水やクリームが、整頓された状態で置かれていたのだ。
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勇輝の家に残された女の形跡…これは一体、どういうこと?

