【山村 佳子】15年前に離婚、息子と暮らしていた60歳父からの「音信不通の息子の調査」、父が内緒にしていたこと

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「連休が明けると、親が子供の調査を依頼するケースが増えます。いわゆる五月病で出社できなくなったり、行方不明になったりするからです」こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。

山村さん連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。

29歳の息子と音信不通なんです

今回山村さんのもとに相談にきたのは、60歳の会社経営者の智久さん(仮名)だ。29歳の息子と音信不通になってしまい、友人に伴われながら、カウンセリングルームに来た。

智久さんは、地方で大規模に事業を展開する一族の一員で、親族には元閣僚もいる。東京である事業を経営しており、お金には不自由したことはない。

30歳で結婚しながら、複数の浮気をしており、結婚15年目に妻から離婚を言い渡された。その時に妻と娘は渡米し、日本に暮らしたかった息子は智久さんの元で暮らしたのだ。現在29歳になる息子と関係性が悪くなったのは、就職活動のときだった。好きなゲームの会社に就職したいというのをかたくなに否定したのだ。その後、息子は結局ゲームを扱う会社に就職するも、心を病んでしまい、就職して2年目のGWすぎから休むようになってしまった。さらに智久さんに頻繁に電話をしてきて、離婚する前にさかのぼり、智久さんを責めるようになっていた。最後には智久さんとの連絡ツールをすべてブロックして、音信不通になってしまったのだ。

智久さんは「きちんと生きているのかを調べてほしい」と依頼をしてきた。智久さんの息子は元気でいるのだろうか。

中学から大学までの写真で見える父子の仲の良さ

智久さんに、息子の写真が欲しいというと、画像フォルダのほとんどが息子でした。中学生から大学生まで一緒に旅行したり、レストランで食事をしたり、智久さんが息子の友達に囲まれているものもありました。手をつないだり、肩を組んでいるものも多く、父と息子の結びつきと愛情の深さを感じるものばかり。

「僕たちは、たった2人だけの家族なんです」と写真を見ながら涙を流している。息子を愛するあまり、智久さんは何もかも受け入れ、賛成していたのではないかと感じました。また、息子も智久さんの期待に沿うように努力してきたのでしょう。しかし、智久さんは就職という息子が人生の大きな決断をした時に、本人が強く希望したゲーム会社を否定した。この時に、関係性にヒビが入っていたのではないかと思います。

また、息子がいわゆる“五月病”のようになったのは就職2年目です。1年目や部署異動時になる人が多いのに、彼は2年目まで持ち堪えました。智久さんとの話を聞いていると、智久さんから「だから俺の言う通りにしておけばよかったんだ」と言われたくないために、限界まで頑張ってしまったのではないかと想像しました。

おそらく息子は、たった2人だけの逃げ場のない親子関係で、父親に合わせ、期待に応えようと生きてきたのではないでしょうか。当然、後継者の期待があることもわかっていたはずです。それでも就職活動の際、進みたい業界について率直に話したのは、関係性がちゃんとあったから。そうでなかったら内緒で就活していたでしょう。その希望もきっと受け入れてくれるはずと信頼をして本音を語ったはずですが、頭から否定され、絶対許さないとまで言われてしまいました。

その反対を押して希望の会社に入社して2年目、5月すぎて会社に行けなくなった時に、智久さんは譲歩の姿勢を示します。息子はこのあとから、智久さんの思い出したくもない過去を執拗に話すようになっています。これは愛着障害や境界性パーソナリティの人が行うことが多い“試し行動”ではないかと感じました。信頼と疑いの両方で揺れ動いていたのだろうと感じます。

この調査をきっかけに、智久さんと息子の関係がいい方向になり、息子が精神科やカウンセラーのところに通うようになってほしい。そんなことを強く思います。

息子が暮らしていた場所は…

火曜日の朝8時から、智久さんが知っている「息子のマンション」の前で張り込みをスタートしました。私は息子の「引っ越すから探さないで」という言葉を疑っていました。引っ越すには相当のパワーとお金が必要ですし、智久さんが鍵を持っていないし、それまでも息子の一人暮らしの部屋には行ったことがないと聞いていたからです。つまり、智久さんが来る可能性は低いはずで、LINEや携帯をブロックしていれば、音信不通にはなれると思うであろうと思ったのです。

そして息子のように、いわゆる五月病を経験した人は、月曜日に有給を取る可能性が高いので、調査の開始日を火曜日にしたのです。

そして思ったとおり、7時30分にエントランスが開き、息子が出てきました。背が高くスラリとしており、智久さんに似ています。ただ、まとっている雰囲気はちょっと落ち込んでいるような様子です。マスクをしてうつむき加減に歩いています。

駅に向かうのかと思いきや、そのまま4キロほど歩いて勤務先があるビルに入っていきます。18時に退勤すると、また歩いて自宅へ。父・智久さんは明るくて野心的、覇気がありますが、息子はその真逆ともいえます。野心があればいいというものではないし、人はさまざまな働き方も生き方もあるのです。それを智久さんはそのまま受け止めてほしいなと感じました。

いずれにせよ、無事に働いていることがわかりました。そのことを智久さんに報告すると「よかった!」と電話の向こうでものすごく喜んでいました。「生きていればいいんです」と泣いています。でも、息子と向き合わず第三者の我々の報告だけでは、何も解決しません。一介の探偵である私にはどうすることもできませんが、親子のためにできることがないかと考え始めた時に、「金曜日の夜と土日の息子の様子も調べてください」と追加調査の依頼をいただいたのです。

こっそり会っていた意外な相手

金曜日はそのまま帰宅、土曜日は昼すぎに出てきて、近所を1時間ほど散歩して再び家へ。日曜日は11時に出てきて、6キロほど歩いて都心の繁華街へ向かいました。あるレストランに入っていくと、50代くらいの女性と、20代半ばと思われる女性が待っており、息子はマスクを外して2人とグータッチをしています。幸い、隣のテーブルが空いていたので、私たちは会話を聞くことができました。

なんと、彼女たちは智久さんの元妻と娘でした。会話によると、元妻と娘はコロナ禍の時に日本に帰国し、以降は頻繁に会っている様子。元妻は都内のマンションの購入を検討しており、3人で住む話の流れになっていました。これは報告したらショックを受けるだろうと感じます。

息子は母親にはメンタルの不調について詳しく話しています。臨床心理士のカウンセリングのところに通っているそうですが、服薬には抵抗があってしていないとか。「お母さんと話すようになってから、お父さんのことが許せなくて怒りが止まらない」とか「お父さんが僕を大切にしてくれているのはわかるし感謝もしている。だから今3人でいる幸せが辛い」などと話していました。それに対して元妻と娘は「考えすぎだよ」「いいんだよ、親子は付かず離れずで」などとあしらっていました。

智久さんが言わないでいたこと

また、3人の会話でわかったのは、離婚するまで智久さんと元妻は激しい夫婦ゲンカを繰り返していたことでした。智久さんは「ある日、妻が出て行った」と、予想できなかったような言い方をしていましたが、実際はぶつかっていたのです。妹はケンカが始まると逃げていましたが、息子は仲裁役になることが多かったようです。おそらく、両親の離婚時に「僕が頑張らなかったから離婚になった」と自分を責め、心の傷にもなっている可能性が高いです。息子が智久さんに執拗に電話をして過去の話をしたのは、自分の気持ちに整理をつける意味もあったのでしょう。3人はその後、雑貨店を巡ったり、公園で散歩したりして、夜に解散しました。

智久さんにこれらのことも報告すると、「これは、ちょっとダメージが激しい」と顔面蒼白になっていました。そして「宇宙にたった一人で放り出された気分です」と体に力が入らない様子。私たちに夫婦の喧嘩について言わずにいたのは、それが息子の心に傷を負わせていただとは思っていなかったからでしょう。しかし面前DVといって、目の前でひどい喧嘩をすることは虐待でもあります。智久さんの愛情も感じているからこそ、智久さんが悲しみを抱いていたことは想像できます。

私が、「息子さんは、今、感情が優先して智久さんをブロックしている可能性も高いです。これまで愛情をかけて育ててきたことはわかっています。ですから、どこかでまた縁が繋がると思いますよ」と伝えました。本人の様子を見ていると、父親への思慕の念を随所に感じたからです。

智久さんも報告を観ながらそのことは感じたようで、「息子が生きていて、幸せそうにしているなら、もういいです。子離れの時期ということなんでしょう」と言い、「そうだ、僕には会社があるし、彼女もいる。とりあえず、前を向いて進めなくては」と気持ちを切り替えていました。そして「調査して現実がわかりました。とにかく、社員と家族を幸せにするためにも、仕事を頑張ります」と帰って行ったのです。

これから、息子や娘の結婚時などに、どこかで親子が一緒になることがあるでしょう。その時に、再び息子に会う時に、いい親子関係になっていることを願ってやみませんでした。

今回の調査料金は50万円(経費別)です。

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