「今世紀最大の理不尽」書評 夫婦同姓の歪み、つまびらかに
「今世紀最大の理不尽」 [著]鳥飼茜 書き殴ったような文章だと読みはじめた直後は感じる。活字なのになぜか荒々しい筆遣いが伝わってくるようで、それは同時に、漫画家として活躍する著者の生々しい描線をも想起させる。
二度の結婚と離婚により、改姓をくりかえした著者が直面した「今世紀最大の理不尽」について、衝動と怒りにまかせ、内臓をさらけだすように書かれた個人的なエッセイだという最初の印象は、しかし読み進めていくにつれて変化する。当初の荒々しさは次第に引いていき、かわりに明晰(めいせき)で怜悧(れいり)な筆が、家父長制のもとに作られた結婚という制度が個人に及ぼす影響や歪(ゆが)みをつまびらかにしていく。フェミニストを自認しておきながら現行の結婚制度に甘んじていることに後ろめたさをおぼえていた私にとっては、非常に身につまされるというか、血を見るような読書になった。私もまた、結婚に歪められた個人であるのだ。
いまだに夫婦別姓が法制化されていないこの国で、多くの女性(と一部の男性)が被っている理不尽かつ面倒極まりない改姓という手続きによって奪われるのは、名前だけではない。自分の根っこを断ち切られるような、自分が自分でなくなるような尊厳そのものである。それでも三度目の結婚をしようと考えた著者は、双方にとってどうにか公平な法律婚ができないものかと、ウルトラC級の解決策をひねりだす。「そんなのありえない」と思いつつも、「それのなにがいけない?」と同時に思わされてしまう詳細については、ぜひ本書を読んで確認してもらいたい。
それはそれとして、個人と個人が互いを尊重し、真に公平で対等で幸福な結婚を成立させるためには、とにもかくにも現行の制度を変えるしかないことは論をまたないだろう。制度が変われば社会も変わり、おのずと人間のありようも変わっていく。著者が切実に願う理想の世界がくることを、私も願っている。
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とりかい・あかね 1981年生まれ。漫画家。作品に『先生の白い噓(うそ)』など。エッセー集に『漫画みたいな恋ください』。
