精緻なる世界「切り絵」に魅了され 病に向き合いながら… 石川・輪島市の切り絵作家の思い
こちらにありますアート作品「不思議の国のアリス」の物語が英語で綴られています。一見、絵のように見えますが、実は1枚の紙からできた「切り絵」なんです。非常に細かい英語の文字も全てつながっています。こうした繊細な作品を手掛けているのは、石川県輪島市に住む切り絵作家。その手一つで、さまざまな作品を生み出すその思いに迫ります。
その作品は、1枚の黒い紙から生み出されます。0.2ミリの細さで紡ぐ切り絵の世界。
「特に力を入れているのは目ですね。黒目大きいんですけど、目の形と瞳孔に沿って光入れるようにしてます。見ていただいた人が『うちの子だ』ってなる感じで切りました」
石川県輪島市の切り絵作家、坂下奈美さん35歳。制作にあたる時間は1日10時間。専用のカッターナイフを使い、迷いなく切りとっていきます。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「これは一旦切ったものを印刷して切ってます。前の反省点を学びつつ切るので、またクオリティが上がるんじゃないかなと思っています」
能登半島地震の後には、被災した輪島の街並みを切り絵で表現しました。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「ここに道路を塞ぐ感じで倒れてたんですよ。ここのお家が倒れてて。(Q. なんでここを切ろうと思った?) 最初に見た現場だったからですね。笑うしかなかったです、ここまで壊れてると、笑うしかなかったです。展示の作品として残すことで、みんな聞いてくださって、身近に感じやすくなるなと思って作りました」
切り絵の技術は、18歳の頃から独学で磨いてきました。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「切り絵始めた切っ掛けが18歳くらいの時だったんですけど、おじいちゃんが亡くなって、その時にちょっと精神的に負荷がかかって、ちょっとおかしくなった時期があったんですけど、その時、病院行ったら『あなたは普通の生活をこれから送れないと思ってください』って言われて」
当時、医師から診断されたのは、幻覚や妄想などの症状で知られる精神疾患統合失調症。坂下さんの場合、1日20時間眠る生活が続いていました。その後、1人の体に複数の人格が存在する解離性同一性障害と診断されました。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「その頃のことは覚えてない」
不安定な精神状態の中、寄り添ってくれたのが家族でした。
奈美さんの母・坂下 直子 さん:
「(人格が)8人以上いますよね。今もいるのかもわからないですけど。みんな子どもなんですよね。すごい泣く子とか、怒る子とか、よく食べる子とか、反抗的だとかっていうのか、人の人格の一面ずつがくっきり出てくるんですよね。だから本人じゃないっていうのはわかるんです」
自身の病と向き合う中で偶然、インターネットで見つけ、衝撃を受けたのが切り絵の作品でした。幼い頃から絵を描くことが好きだった坂下さんは、切り絵を始めるとあっという間に上達。切り絵に没頭している間は、落ち着いていられました。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「(切り絵が)自信をくれたって感じです。切り絵を通して自分こういう適性あったんだって、気づかされることが多いですね」
当時は、1つの作品を制作する途中で、人格が入れ替わることがありました。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「細かいのが好きな人格の子は、2重線とかいろんな技術を入れて細いバラを作るんですけれども、そうでない子もいたりして、これはざっくりざっくり、ちょっとざっくりめだから」
ここ数年は症状が落ち着いている坂下さん。現在はアーティストとして東京都内の企業に所属し、日々、作品を制作しています。今回、会社から出された課題のテーマは「仲間」。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「一緒に働いているじゃないですか、ハチって。一緒に一つの巣を作ったりするじゃないですか。そういうイメージでやりました」
悩んでいるのは、ハチに色をつけるべきかどうか。
奈美さんの母・坂下 直子 さん:
「ハチを黄色にしないと全然、目立たないね、これ。ハチが」
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「お母さんの感性が、お客さんとか会社の人の感性に近いのでいいですね」
同じアーティストから刺激を受けることも… この日、行っていたのは、同じ会社に所属するアーティストとのリモート会議。
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
[00:04:12]「雑談したいと思うんですけど最近あった良いことを教えていただけたらと思います」
北海道在住のアーティスト:
「白いちっちゃい花のお花畑に行ってきました。作品にこの色の感動を乗せたらいいなと思いました」
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「春だったら春の作品作りたくなりますよね。すごくわかります。楽しみにしてます」
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「あ、桜すごい。今年は長持ちするといいな、きれいだから」
坂下さんにとって切り絵とは…
切り絵作家・坂下 奈美 さん:
「生きるために始めたんで、切り絵を。もうちょっと生きやすい、生きるための切り絵は、だいたい土台が固まったなと思っているので。それを持って、また成長できたらなと思ってます」
その研ぎ澄まされた集中力で、日々研鑽を続ける坂下さん。切り絵作家としての歩みは次のステージへと向かっています。
