大王製紙が「ダサくないナプキン」を出せたワケ
■清潔な印象を与える「白に近い色」が鉄板だった
大王製紙が2018年10月に発売を開始した生理用ナプキン「エリス コンパクトガード」シリーズは、デザインが新鮮だ。赤や青の色使いはビビッドで、パステルカラーなどを使った「いかにも生理用品」なデザインとは一線を画す。
なぜ生理用ナプキンは「いかにも」なパッケージばかりなのだろうか。開発担当者の本彩氏はこう説明する。
「衛生用品なので、清潔な印象を与える白に近いカラーがいわば『鉄板』として使われてきました。また、生理前や生理期間中は女性にとって心や体の調子を崩しやすい時期。花やハートなどファンシーなモチーフがあしらわれることが多い背景には、約1カ月に一度のペースでやってくる憂鬱な時期を、少しでも明るい気持ちで過ごせるようにというメーカー側の思いがあります。実際、マーケティング調査で消費者にアンケートを採っても、そういうデザインに好感を持てるという答えが大半を占めるんです」(本氏)
■「赤色は使わない」暗黙の了解があった
女性の生活必需品であるはずの生理用ナプキンだが、その歴史は意外にも浅い。『生理用品の社会史』(田中ひかる著、角川ソフィア文庫)によれば、国内で初めて生理用ナプキンが発売され、普及したのは1960年代。それ以前は布や紙、脱脂綿で処置していたため、経血がもれるなどの問題があり、女性の活動は制限されていた。
その後、1980年代にかけて複数の企業が市場に参入。競争によって技術革新が進み、生理用ナプキンは便利で快適なものに変わった。一方で、生理について「汚いもの」「隠してしかるべきもの」という価値観は根強く残ることになった。
その影響もあるだろう。生理用ナプキンのパッケージに関しては「経血そのものを連想させかねない赤色は、使うべきではないという暗黙の了解があった」(本氏)という。
■若年層「生理用品っぽくないデザインが欲しい」
今回、その赤色をなぜ「解禁」したのか。背景には、若年層の意識の変化がある。
大王製紙の生理用ナプキンはこれまで、20〜30代をコアターゲットにしてきた。だが、「コンパクトガード」の開発に際しては10代後半〜20代前半に照準を絞り込んだ。
少子高齢化の進展で、生理用品市場は長期的に縮小トレンドにある。また、各社の商品の機能がほぼ拮抗(きっこう)している状態にある今、消費者は一度使った商品に満足し、同じものを購入し続ける傾向も強い。市場で生き残っていくためには、大学進学や就職で親の庇護下から独立し、自分で生理用品を選ぶようになる「移行」のタイミングで、自社製品を認知してもらう必要があると考えたのだ。
若年層へのヒアリングを重ねて見えてきたのは、意外な反応だった。
「『生理は隠すべきもの』という意識が薄くなっていると感じました。ナプキンはポーチに入れて持ち運ぶのが通例で、今もそれが主流であることには変わりありません。ただ、ターゲット層では約5人に1人が『ポーチを使用しない』と答えました。ここ数年はファッションの世界で小型バッグが流行している影響もあって、個包装のままバッグに入れておく人も増えていると考えられます」(本氏)
「隠すべきもの」という意識が和らぐと、生理用品にもファッション性を求める傾向が強まる。パッケージに関してアンケートを採ると、「もっと生理用品っぽくないデザインが欲しい」という声が60%近くに上った。
「これまで私たちが避けてきた赤色も、サンプルを見せたら『かわいい!』と好感触でしたね。社内からは売り上げが落ちることを心配する声もありましたが、ターゲット層の声を信じて市場へ送り出しました」(本氏)
発売後、「コンパクトガード」を含む商品群の売り上げは前年比で8.8%増えた。デザインと機能性を両立した商品として市場に受け入れられたのだ。
■ホテルのアメニティーのような高級感
「コンパクトガード」の新デザインの発売から1年後の2019年10月。大王製紙はさらに攻めたデザインの生理用ナプキンを売り出した。
「エリス Megami 素肌のきもち」の通常商品は淡いピンクとブルーが基調になっている。だが、ネット通販限定デザインは落ち着きのあるブラウン一色。開発を担当した實川智美氏は「ホテルのアメニティーのような高級感を意識した」という。商品名や医薬部外品として必要な表記も極力目立たない場所にプリントされている。
■ネット通販だから実現できた、シンプルなデザイン
あまりにも「生理用品っぽくないデザイン」なので、コンビニやドラッグストアに置くのは難しい。パッケージからは読み取りにくい情報を、商品紹介のページに明記してフォローできる通販サイトだからこそ、実現できたシンプルさだ。
2019年10月に販売を開始すると、ネット上で一気に話題が拡散。一時、在庫切れになるほど注文が殺到した。
この商品でターゲットに設定したのは30〜40代。いわば「普通のナプキン」を使い続けてきた世代に対して、目新しいデザインでアピールする狙いだった。しかし、それより若い世代からも反響は大きかったという。
「仮にアパレルのお店に置かれていても違和感がないくらいの、暮らしになじむファッション性が支持されたと思います」と實川氏。現在の取り扱いはロハコの通販サイトのみだが、消費者からは「実店舗でも売ってほしい」という要望もある。今後は「ネット以外」での展開も模索していきたいという。
■「生理中=ハッピー」でなくてもいい
開発を担当した本氏、實川氏も20代だ。生理に関しては彼女たち自身が当事者であり、商品にはその実感も込められている。
「これまでの生理用ナプキンのデザインは『憂鬱な期間をハッピーでいよう!』というメッセージが強かったかもしれないですよね。ストレスを完全に取り去ることはできないけれど『アガらない気持ちを励ましてくれる』というくらいの方が今の気分に合う。これからも女性の細かなニーズに寄り添い、生理についてオープンに語ることができる社会づくりにも貢献していきたいです」(本氏)
生理用品のデザインをめぐっては、ユニ・チャームがインフルエンサーとタッグを組んで立ち上げた「#NoBagForMe(袋はいらない)」プロジェクトなども話題だ。猫や変わり続ける空の色をモチーフにした限定デザイン商品を開発し、2019年12月から売り出し始めた。
「デザイン」は、人の意識に働きかけ、行動を変える。こうした流れの加速は、社会全体の生理に対する理解を深めることにもつながっていきそうだ。
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加藤 藍子(かとう・あいこ)
ライター・エディター
慶應義塾大学卒業後、全国紙記者、出版社などを経てライター・エディターとして独立。教育、子育て、働き方、ジェンダー、舞台芸術など幅広いテーマで取材している。
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(ライター・エディター 加藤 藍子)