女性は遅くとも17歳までに初潮を迎え、以降平均28日周期で月経を迎える。しかし女性アスリートの中には、過度なトレーニングによって生理が来なくなってしまう人も少なくない。

アスリートの食事指導を行うスポーツ栄養士の佐藤彩香さんは、「無月経のままでは、骨密度が低下し、将来のことを考えていくと、不妊のリスクが上がってしまう。この問題についてもっと多くの人に知ってほしい」と話す。

「マラソンや長距離の場合、体重が軽い方が速く走れるので食事を制限しがち」

国立スポーツ科学センターが2014年に発行した「成長期女性アスリート 指導者のためのハンドブック」によると、国内トップレベルの女性アスリート683人のうち、月経周期に異常のある選手は32.9%、月経が3か月以上停止する「続発性無月経」は7.8%だった。合わせて約4割の選手が月経に関する何らかのトラブルを抱えていることになる。

競技別に見ると、体操では無月経の割合が75%にも上る。新体操でも40.9%、フィギュアスケートでも28.6%と審美系の競技で無月経の割合が大きい。

「審美系の競技はスタイルの美しさも求められるため、食事を制限し、無月経になってしまう選手が多い。フルマラソンや長距離走でも、体重が軽い方が速く走れることから、運動量に見合った食事を摂らない選手がいるんです」

無月経が長期間に渡ると、妊娠する力である「妊孕性(にんようせい)」に悪影響を及ぼすこともある。骨量が減少して疲労骨折を招いたり、骨粗しょう症のリスクを高めることにもなる。監督やコーチには男性が多いが、こうした問題にはどのように対処しているのだろうか。

「最近では、指導者が勉強して、その問題を軽視しない方も増えてきましたが、残念ながら、目をつむっている指導者も多いのが現状です。生理前に食欲が増して脂肪が付いたり、イライラしたりしてしまう選手もいるため、生理が来ない方がいいと思っている指導者もいるんです。中には、『生理がなくて当たり前』『生理がとまって一人前』と考えている人もいます」

食べることは良くないことだと思い込んでいる選手も 摂食障害にも繋がる危険性

佐藤さんは、無月経になってしまったアスリートに適切な食事量を指導している。しかし中には、十分な量の食事を摂ることに抵抗を持つ人もいるという。

「特に審美系の競技を続けている場合、身長に対して『体重はこれぐらい』と幼少期から言われ続けていることがあります。『体重を維持しなければ』『痩せていなければ』という意識を持っていると、食べることそのものが『良くないこと』だと思ってしまっていることがあります。そのため摂食障害を発症してしまうこともあるんです」

今月3日に万引きで執行猶予の判決を受けたマラソン元日本代表の原裕美子さん(36)も、過酷な体重管理で摂食障害に陥った。原さんは実業団にいたころ、1日4〜6回体重測定があり、前日より100グラムでも増えると怒られていたという。買い食いをしないように財布を取り上げられたことがきっかけで万引きをしてしまい、「クレプトマニア(窃盗症)」にもなっている。

「低用量ピルを処方してもらうのも一つの手。基礎体温も計ってほしい」

無月経にならないよう、練習量に見合った食事を摂ることが大切だが、もし月経が止まってしまった場合は、低用量ピルでの治療も選択肢の一つだという。

「相談に来る選手の中には、高校生になっても初潮が来ない、大学4年間生理が来ない人もいます。そういう場合は産婦人科で低用量ピルを処方してもらうのも一つの手です。ピルで月経のリズムを作るんです」

低用量ピルは、なでしこジャパンの澤穂希選手(40)が服用を公表したことで話題になった。生理痛の緩和や避妊のために服用する人が多いが、アスリートの場合、月経周期をコントロールしたり、貧血を防いだりすることに役立つという。また佐藤さんは基礎体温の計測も推奨している。

「アスリートに限らず、全ての女性に基礎体温を計ってほしいです。約14日間の高温期と低温期をきちんと繰り返していない場合、女性ホルモンが乱れている可能性があります」

この問題の周知を図るため、佐藤さんは「専門家として選手に伝えたり、SNSで発信していく」と話していた。