「夫と向き合うのは諦めた」パートナーからは見えない40代妻の憂鬱【著者に聞く】

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葉山の海沿いの街を舞台に、子育て世代の家族の心の機微を丁寧に描いて注目を集める作品『夫ですが会社辞めました』。レタスクラブで5年間連載を続けている漫画家のとげとげ。さんが、このたび挑戦したのは「ミッドライフクライシス問題」でした。
これまでは就学前の子どもたちを持つ夫婦の悩みや葛藤を描いて共感を集めてきたとげとげ。さんの作品ですが、今年2月に発表した作品『心の不倫は罪ですか?』は少し手触りの違う読後感があります。どんな思いでこの作品を描いたのか、お話を伺いました。



主人公の胡桃(くるみ)は43歳。夫は亭主関白で、家のことを妻に任せきり。上から目線で責めるような物言いばかりで、夫婦仲は冷え切っていました。中学生の息子は不登校になって口もきかず、高校生の娘には「ママみたいにはなりたくない」などと言われてしまう日々。母親として精いっぱいやってきたつもりの胡桃でしたが、いつのまにか家庭内に居場所を無くしていきます……。
■子育て終了後に妻たちが直面する“家庭内迷子”の正体
――今作の『心の不倫は罪ですか?』は、40〜50代に訪れる「ミッドライフクライシス」がテーマの根底にあるように思えます。このテーマに挑戦している理由を教えてください。
とげとげ。さん:私自身や周りの友人がその年代なので色々考えたり、話や悩みを聞いたりする機会がありました。また家族のこと、介護、病気、仕事、人生後半をどう生きるか、人生の転機を迎えている人は多いですし、この年齢になると一見順風満帆な人も、持病や家族の問題など自分の力ではどうにもできない大きな悩みを抱えていることは多いと感じました。でもこういったつらさも、「自分だけじゃないよ」「割と多くの人がそうだよ」と、いろんな視点から見ることで、考え方を変えて「人生の後半戦に合わせた考え方、生き方」ができるのではないかと思い、漫画にしました。

――「ミッドライフクライシス」のテーマを描くとき、「子育ての終わりが見えてきた女性が、家庭内での居場所に不安を抱く様子」を中心にした理由は?
とげとげ。さん:子育ての終わりが見えてきたとき、「この先、どう生きよう」と不安を抱く女性は、決して少なくないと思っています。それははっきりとした出来事や衝突があるわけではなく、むしろ漠然とした、形のない不安です。だからこそ厄介で、時に大きく膨らんでしまう。誰かに相談するほどでもないけれど、ふとした瞬間に胸をよぎる--そんな感覚です。
胡桃が抱く「母としての役目が終わったら居場所を失うのではないか」という恐れは、ミッドライフクライシス特有の揺らぎを象徴させたいと思って描きました。そして、その不安が“自分だけのものではない”と感じられることは、それをやり過ごすための大きな一歩になると私は思っています。言葉にして共有することで、少しだけ軽くなる。そうした思いを込めて、このテーマを描きました。

――これまでの長期連載『夫ですが会社辞めました』の空気感とは違い、生々しい男女の感情のもつれや葛藤が描かれています。今までと作風を変えることは意識されましたか?
とげとげ。さん:「シリーズ立ち行かない私たち」でままならない日々を生きる人物の姿を描くにあたり、担当編集さんから「今回はコミカルになりすぎないよう、生々しい感情や葛藤も描いてみませんか」と提案をいただき、それがひとつの大きな方向性になりました。
これまでコミカルな緩和を使うことが多かったので、感情の揺れや葛藤を真正面から描くのは、正直とても難しかったです。読者の方が重くて不快になりすぎず、それでも感情がきちんと伝わるように、バランスには特に気を配りました。
作風を変えるというよりも、テーマに合わせて表現のトーンを調整した、という感覚に近いかもしれません。挑戦ではありましたが、自分の新しい引き出しを開ける機会にもなったと感じています。

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「中年の危機」を迎えた母親のリアルな感情を描いた本作。正解のない問いに揺れ動く胡桃の姿には、共感だけにとどまらない複雑な思いを抱くかもしれません。今までの作風とは一線を画す、とげとげ。さんの新境地をぜひ見届けてください。
取材・文=レタスユキ

