「まったく考えられない」と告白を6回も断ってきた同級生と出会って14年目で結婚を果たした元ボートレーサーの日高逸子さん。「日高の姓でファンに認知されているから」と告げるも、「じゃあ俺が日高になる」と改姓にも応じた夫の覚悟と献身。その存在が、ボートレーサーの女王にとって、人生で何よりの財産になっていきました。

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「タイプじゃない」と6回断ったのに

夫は正反対の性格だと語る日高さん

── 日高さんがボートレーサーになる前、地元・宮崎から上京して旅行専門学校に通っていたときに、同級生として出会ったのが、後に結婚した男性だったと聞いています。当時の旦那さんの印象は?

日高さん: おとなしくて優しくて、話しやすい人でした。ただ、異性としては対象外。タイプじゃない。在学中に彼から合計6回告白されましたが、アルバイトや勉強に追われていたし、毎回「何言ってるの?まったく考えられない」とハッキリ断っていました。

卒業後は別々の旅行会社に就職して、後に私はボートレーサーになりましたが、友人として交流は続いていました。それぞれ別の人と交際していた時期もあったし、お互いのパートナーについて話をすることもありました。

── そこからどうやって結婚に?

日高さん:私はもともと子どもが欲しかったのですが、30代になって「そろそろ高齢出産の年齢になっちゃうな」と思っていたときに、仕事で福岡に来ていた彼と久しぶりに会う機会があったんです。普通に会話をしていたら、彼が唐突に「結婚してみようか」と言ってきて。

── 交際を飛ばして結婚と?

日高さん:はい。でもなぜかそんなに違和感がなかったのかな。私は選手を絶対に辞めたくなかったし、「マネージャーになってくれるならいいよ」と答えたような。

── なぜ、そう思えたのでしょうか?

日高さん:最後はもう、諦めですよ(笑)。白馬の王子様はもう現れないから、身近な人で手を打とうかなって。それは半分冗談で、出会ってから14年、長いつき合いのなかで彼の人柄はよく知っていたし、彼なら安心して人生を共にできるかな、と思ったんです。ボートレーサーになってから、私の年収が目当てで近づいてくる人もいましたから。

苗字は「日高の姓でファンに認知されているのだから私は変えたくない」と伝えたら、「じゃあ俺が日高になる」と彼が改姓してくれました。

宿舎で搾乳した母乳を、自宅で夫が解凍して飲ませ

結婚後、家族で旅行に行ったとき

── 結婚後、2人の娘さんを出産されました。

日高さん:もともと女の子が欲しかったこともあって、子どもたちは本当にかわいかった。私たちの元に「天使がきたね」と本気で思いましたから。

いっぽうで、産後は早くレースに復帰したいとも思っていました。レースから離れている時間が長くなるほど下手になりますから、子どもは子ども、レースはレースで別ものです。長女も次女も産後3か月経つ前に復帰し、長女のときは復帰4戦目で優勝できて本当に嬉しかったです。

── 日高さんはレースで家をあけることも多いと思いますが、その間は旦那さんが家事や子育てをされていたのでしょうか?

日高さん:基本的に、夫に任せていました。彼は結婚と同時に当時勤めていた会社が倒産したのですが、その際「私が外で働いてお金を稼ぎ、夫が家事や子育てをおもに担当しよう」となったんです。娘たちが小さい頃は、レースが続いて帰宅できないときは宿舎で搾乳し、冷凍して、1週間分を自宅に宅急便で送り、受け取った夫が解凍して飲ませてくれました。

夫が娘たちを連れて公園デビューもしてくれましたし、娘たちが小学生になると持ち物もしっかりチェックしていました。ハンカチ、ティッシュから鉛筆は全部削ってあげて、忘れ物があれば学校にすぐに届けに行く。「そんなに手伝ったら自分で何もできない子になっちゃうよ」と私が注意するほど、子どもたちに目をかけてくれました。

── 旦那さんがそこまで尽くしてくれたからこそ、日高さんもレースに集中できたのですね。

日高さん:そうです。家庭では妻と母、レースが始まったら勝負師と、オンとオフがはっきりつけられたのは彼のおかげです。

もちろん、全部を夫に任せきりというわけではなくて。1か月のうち約25日は遠征していましたが、そのぶん、家にいるときはちゃんと家事をしようと決めていました。朝は4時半から5時には起きて、ファンの方からいただいたお手紙に返事を書き、朝食の準備をして、娘たちのお弁当を作って…というのが、私が家にいるときのルーティンでした。

夫との結婚が、何よりの財産になった

── 夫婦で支えあっていると思いますが、夫婦ゲンカをすることはありますか?

日高さん:些細なことでしょっちゅうケンカしますよ。ただ、翌日に、夫から手紙を渡されることがあるんです。口で伝えるとまたケンカになると思っているのか、文章で伝えてくるんですよ。私は「手紙じゃなくて口で言え!」って思いつつも、話を投げ出さずにちゃんとコミュニケーションを取ろうとしてくれるのは、彼のいいところかもしれません。

そもそも夫婦で性格が真逆なんです。私は石橋を叩かないで渡っちゃうタイプ。彼は叩いて叩いて「やっぱり辞めた」となるタイプ。私は大雑把だけど彼はマメ。書類関係はすべて夫にお願いしています。

娘たちにとっては、夫は理想の父親だったんじゃないかな。とにかく常に穏やかで優しく尽くしてくれるパパでしたから、2人とも「パパみたいな旦那さんがほしい」と言っていた時期もありました。そのたびに私は「なかなかいないよ」と返していましたけど。とはいえ、実際、夫と結婚できたことは本当に私の人生にとって何より大きな財産だったと思います。

取材・文:阿部花恵 写真:日高逸子