ライフハックというワードが普及して久しいが、それを実践できている人はごく少数ではないか。作家の許成準氏は「圧倒的な成功を収めた天才たちは、最高のパフォーマンスを生み出すライフハックを、徹底的に習慣化していた」という――。

※本稿は、許成準『一日ごとに差が開く 天才たちのライフハック』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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■「苦労しないこと」を考え抜いた鳥山明

鳥山明(1955〜2024)

働くときには、要領のよさが必要だ。とんでもない功績を残した天才たちも、往々にして「最小の努力で最大の結果を出す方法」を追求することを怠おこたらなかった。

『ドラゴンボール』で有名な漫画家・鳥山明は、誰もが認める「漫画の神様」だが、彼は努力だけで現在の評価を得たわけではない。彼はいつも、「どうすれば仕事を楽に終えることができるのか」を考える習慣を持っていた。

『ドラゴンボール』には、ある種の“お決まりのパターン”がある。まず地球侵略にやってきた異星人たちが、核兵器並みの強力なエネルギーで都市という都市を破壊し、それから主人公・孫悟空たちと戦闘を始めるのだ。

鳥山がこうした演出を取り入れていたのは、実は建物などを描くのが面倒だったからである。未来都市の細部にこだわって描写をしていては、手間がかかって仕方がない。都市が跡形もなく破壊されていれば廃墟を登場させるだけで済むし、異星人たちの残忍性とパワーを読者に印象づけることもできて、一石二鳥である。

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■「精神と時の部屋」という発明

そして、孫悟空らが「超サイヤ人」になると、髪が一瞬で白くなる(アニメでは黄色だが漫画では白である)が、これも髪に色を塗るのが面倒だったからだ。漫画家の労働量を減らし、なおかつ主人公の変身とパワーアップを効果的に描くことができる、この上ない演出というわけだ。

また、孫悟空らはしばしば、「精神と時の部屋」という異空間に入って修行を行う。

設定によると、ここは一切の物体がない他の次元の空間である。つまり……もうおわかりだろう。背景を描く必要がないのだ。

私はなにも、鳥山が怠け者だと言いたいわけではない。むしろ彼は、「週刊誌連載」という殺人的なスケジュールに対応するために、生産性を高めるための工夫を惜しまなかったと言うのが正しいだろう。

仕事において、努力や勤勉さは大切だが、それがすべてではない。何をするにしろ、「もっと簡単に済ませる賢いやり方はないか?」と考える習慣を持っていれば、最小の努力で最大の結果を出せるようになるはずだ。

■ヘミングウェイはなぜ「立って働いた」のか?

アーネスト・ヘミングウェイ(1899〜1961)

アーネスト・ヘミングウェイは、1954年に『老人と海』でノーベル文学賞を受賞したアメリカの小説家である。

読者の中には、学生時代に同作を読んで退屈に感じた人もいるかもしれないが、無理もない。なぜなら『老人と海』は、年齢や経験を重ねてこそ、より深く味わうことができるようになる作品だからだ。それは言うなれば、子どもから大人になるにつれて、食べ物の好みが変遷していくのに似ている。

ヘミングウェイの特徴は、その簡潔な文体にある。

彼は作品の中で、感情を詳しく描写したり、美辞麗句を尽くしたりしない。短い文章で客観的な事実だけを書く、ドライなスタイルだ。

だが、そのスタイルが読者の想像力を刺激し、感動を最大限に高めてくれる。

そんなヘミングウェイには、ある特徴的な執筆スタイルが確立されていた。

1954年、「パリス・レビュー」という雑誌の記者が、ヘミングウェイにインタビューするために自宅を訪問したときのこと。

そこで記者が目撃したのは、ヘミングウェイが小説を立ちながら書いている様子だった。彼はタイプライターで小説を書いていたが、そのタイプライターはスタンディングデスク(立って作業するようになっている机)の上にあったのだ。

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作家アーネスト・ヘミングウェイのタイプライターのクローズアップ - 写真=iStock.com/Emilie1980

■シリコンバレーも“立って働く”

なぜこのような執筆スタイルをとっているのかというと、まさに短く、簡潔な文体を追求するためだという。座って書いていると、どうしても気分的にのんびりとして、一文が長くなりやすい。だから、彼はスタンディングデスクを使ったり、片足で立ったりしながら小説を書くことにしているというのだ。

実は、『オリバー・ツイスト』や『クリスマス・キャロル』で有名なイギリスの小説家チャールズ・ディケンズも、同じ習慣を持っていた。

別の分野としては、「第二次世界大戦」を連合国の勝利に導いたイギリスの首相ウィンストン・チャーチルも、たびたび立って働いていたという。

多数の研究によれば、立って働くと脳が活性化し、集中力が高まるのだという。

また、動脈硬化や心筋梗塞(こうそく)、がんの発生リスクを下げる効果があることも指摘されている。

そして何より、集中力が維持しやすくなることで、作業時間が短くなり、仕事の生産性が劇的に高まるのだ。

実際、シリコンバレーを代表する企業Facebook(現Meta)をはじめ、多くのIT企業が、社員の健康と集中力維持のためにスタンディングデスクを導入している。

これは、作家やIT企業の社員に限らず、多くの人が試す価値のある習慣だろう。

立つだけならタダなのだから、ぜひあなたも、ヘミングウェイの真似をしてみてほしい。

■「最初に被害者数を決めた」クリスティー

アガサ・クリスティー(1890〜1976)

アガサ・クリスティーは、『オリエント急行の殺人』『そして誰もいなくなった』『アクロイド殺し』などで有名なイギリスの推理小説家だ。累計の売上部数は20億部以上に上り、聖書とウィリアム・シェイクスピアの作品の次に読まれている作家といわれている。

クリスティーは、イギリスの文学史においても重要な位置を占めている。というのも、ストーリーテリングの技術において、彼女の右に出る作家はいないからだ。

どんでん返しの結末や、緻密なトリックはあまりにも有名で、これまでにも多くの映画や小説、漫画に影響を与えている。推理小説といえば、彼女の登場以前にコナン・ドイルという大家がいたが、「アガサ・クリスティー以後」は、トリックや物語の構成がずっと緻密になり、犯人の犯行手口も奇怪なものに進化していった。

許成準『一日ごとに差が開く 天才たちのライフハック』(三笠書房)

まさに、彼女が「推理小説の女王」と呼ばれる所以(ゆえん)である。

小説を執筆しているときのクリスティーには、特別な習慣があった。

それは、物語を冒頭から書き始めずに、小説の結末(犯人やトリック)を最初に設計すること。「犯行がどう行われたか」という核心部分を定めてから、その前後のストーリーを補完していったのだ。

彼女がこうした手法を採用したのは、読者の関心が最も高まるのが犯行シーンだからである。未知の犯人の手による不思議な(ときには不可能に思える)犯行こそが、読者を惹きつける推理小説の核心なのだ。

その興味を推進力として、「誰が」「どのような方法で」「何のために」殺人を犯したのかを究明する過程を面白く読ませることが、推理小説の基本とされている。

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オリエント急行の食堂車で、夕食を楽しむ人々 - 写真=iStock.com/clu

■10体の人形、殺される10人

クリスティーの小説が現代においても人気があるのは、この興味の引き方が他の作家たちよりずっと巧みだからだ。物語の構成や展開の緻密さもさることながら、何より印象的なのはその犯行の方法である。

たとえば『そして誰もいなくなった』では、孤島の家に招待された10人が、ひとりずつ殺されていく。招待された家には10体の人形があるのだが、殺人が起こるたびに、必ずその人形のうちの1体がなくなる。10体の人形は、殺される10人を象徴しているわけだ。

こうした彼女の執筆手法は、つまるところ、自分の仕事の核心部分に真っ先に手をつけて、残りをそれに合わせて処理していくというやり方だ。

■重要なものを優先する習慣

この仕事術は、あらゆる仕事に応用できる。たとえば、会社で企画書やプレゼンテーション資料を作成するときも、頭から書き始める必要はない。最も核心的な部分を先に作ってしまい、それに合わせて残りを処理すればいいのだ。

読書をするときにも、最初から読み始めず、結論部分や、興味のある箇所から読む方法もある。そして「ここに至るまでの過程はどうだったのか?」と考えながら、他の部分を読むのだ。これは、あまり気が進まない古典作品などを読むときなどに、おすすめのテクニックである。

世界的に高名な経営コンサルタントのスティーブン・R・コヴィーも、著書『7つの習慣』の中で、「重要なものを優先する習慣」を、人生を成功させるために重要な習慣のひとつとして挙げている。クリスティーが殺人シーンから小説を書いたのは、自分の仕事の優先順位をよく把握していたからでもあるのだろう。

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許 成準(ホ・ソンジュン)
作家、投資家
作家、個人投資家。2000年、KAIST(国立韓国科学技術院)大学院修了(工学修士)。主な著書として、累計10万部を突破した『超訳 孫子の兵法』をはじめ、『超訳 論語 孔子に学ぶ処世術』、『超訳 資本論 お金を知れば人生が変わる』(以上、彩図社)などがある。
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(作家、投資家 許 成準)