いまも何キロでも出せる区間が存在するドイツの高速道路「アウトバーン」

写真拡大 (全2枚)

かつての“速度自慢”はどこへ? アウトバーンに起きた変化

 日本とドイツの交通環境を語るうえで、最大の違いとして挙げられるのがアウトバーンの存在です。アウトバーン(Autobahn)とはドイツ語で「自動車専用道路」を意味し、ドイツのほかオーストリアやスイスなどのドイツ語圏でも高速道路網を指す言葉として使われています。

 ドイツのアウトバーンは総延長1万3200km以上におよび、日本の高速道路(約9342km)と比べても1.4倍以上の規模を誇ります。

【画像】超カッコイイ! これがめちゃ速い最新「スポーツカー」です! 画像を見る(48枚)

 国土面積がほぼ同じであることを考えれば、ドイツ国内にいかに密に高速道路網が張り巡らされているかが分かります。アウトバーンの大きな特徴は、通行料が無料であること、そして一部区間で速度制限が設けられていない点です。

 通行料については、道路維持費の確保を目的として2005年から大型トラックが有料化され、2015年には対象範囲が拡大されました。

一方、乗用車の有料化については2014年から議論が進められましたが、ドイツ居住者のみが優遇される制度設計が問題視され、欧州司法裁判所が「外国人差別にあたる」と判断。結果として導入は撤回され、現在も乗用車は無料のままとなっています。

 速度無制限区間についても、実は年々その割合は減少しています。現在ではアウトバーン全体の約30%が、恒久的または工事などにより速度制限付きの区間となっています。

 さらに約10%の区間では、交通量や天候に応じて制限速度が変化する交通管理システムが導入され、完全な「無制限区間」は想像以上に少なくなっています。

 かつてのアウトバーンでは、速度無制限区間において200km/h超で走行するクルマは珍しい存在ではありませんでした。片側3車線の区間であれば、10年ほど前の平均的な流れとして、右側の走行車線が100〜120km/h、中央車線が130〜140km/h、追い越し車線では150〜160km/h、場合によってはそれ以上という印象でした。

 しかし近年、その平均速度は明らかに低下しています。私自身もここ数年アウトバーンを走行するなかで、「以前より全体のペースが落ちている」と感じていましたが、その感覚は数字によって裏付けられました。

 ドイツ・ケルンに本拠を置く民間研究機関「ドイツ経済研究所(IW)」は、2024年5月から8月にかけて、アウトバーン網が特に密集し、乗用車保有台数も多いノルトライン=ヴェストファーレン州の複数地点で自動計測を実施。その結果、速度無制限区間における平均速度が年々低下していることが明らかになったのです。

 この調査で算出された平均速度は113.5km/h。2021年調査時の116.5km/hと比較すると、3年間で約3km/h低下しています。これは全車線を走行する車両を対象とした数値であり、右車線を走る低速車両も含まれていますが、それを差し引いても、平均速度が確実に下がっていることが分かります。

 IWの分析によれば、83%のクルマが推奨速度とされる130km/h以下で走行しており、130〜140km/hで走行していたのは10.5%。それ以上の速度域で走行していた車両は7.5%にとどまり、160km/h超となると、わずか1%に過ぎなかったといいます。

 IWはその要因として交通量の増加を挙げています。2020年春のコロナ禍では一時的に交通量が減少し、平均速度が上昇したものの、その後は再び増加。2023年には2021年比で交通量が10%増加しました。燃料価格の高騰などもありましたが、平均速度に与える影響は限定的だったとのことです。

 また、大型トラックの通行が少ない週末は、平日より平均速度が約4km/h高いことも、交通密度が速度に影響している証拠といえるでしょう。

「飛ばさない」理由はクルマ側にあった?

 しかし私は、平均速度低下の背景には、IWの指摘とは別の要因もあると考えています。それがADAS(先進運転支援システム)とBEV(電気自動車)の普及です。

2026年1月30日に発表されたメルセデス・ベンツ新型「Sクラス」は、高速道路での自動車線変更を支援する「プロアクティブ・レーンチェンジ・アシスト」を搭載 。長距離ドライブの疲労を劇的に軽減し、かつてないほど快適なクルージングを実現

 私がドイツ在住時に所有していたクルマにもADASが搭載されており、アウトバーン走行時にはほぼ常時使用していました。

 かつてのドイツでは「運転を楽しむ文化」が根強く、ADASに否定的なドライバーも少なくありませんでした。しかし一度その利便性を体験すると意識は変わり、現在では多くのドライバーがACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やLKA(レーン・キーピング・アシスト)を活用しています。

 とくに大型かつ高性能なクルマほどADASが標準装備されており、燃費面でもメリットがあるため、速度無制限区間であってもADASオンで走行するケースが増えています。

 加えて、BEVの普及も平均速度を押し下げる一因です。近年は航続距離700km超のBEVも登場していますが、既存モデルの多くはそこまで余裕があるわけではありません。

 アウトバーンのサービスエリアには充電設備が整いつつあるものの、ドライバー心理としては「途中で充電せずに目的地に着きたい」と考えるのが自然です。その結果、速度無制限区間でもバッテリー残量を意識し、抑えめの速度で走行するBEVが増えています。

 ここでもADASは有効に機能し、一定速度での巡航を後押しします。BEVが一定割合を占めるようになれば、アウトバーン全体の平均速度が下がるのは必然と言えるでしょう。

 現在のアウトバーンは、無茶な運転をするドライバーが減り、全体として落ち着いた流れになっています。初めてアウトバーンを走る人でも、かつてのような緊張感や恐怖を感じる場面は少なくなっているはずです。

 ドイツをレンタカーで巡る旅を考えているなら、実はいまがちょうど良いタイミングなのかもしれません。

 今後、レベル3以上の自動運転技術が普及したり、BEVの充電時間が劇的に短縮されれば、アウトバーンの姿は再び変化する可能性もあります。

※ ※ ※

 アウトバーンの現状について、SNSではさまざまな声が寄せられています。

「昔は200km/hオーバーが当たり前だった」「250km/hでもバックミラー必須と言われた時代を思い出す」と、過去のアウトバーン体験を懐かしむコメントが多く見られました。

 また、「高速走行は想像以上に疲れる」「集中力が続かないのは確か」といった現実的な意見や、「今のほうが安全で走りやすそう」と、現在のアウトバーン環境を肯定的に捉える声も目立ちます。

 その一方で、「左車線をきちんと空ける文化はさすが」「クルマ社会が成熟している」と、ドイツならではの交通マナーを評価するコメントも多く寄せられました。

 かつての“速度無制限の象徴”というイメージから、より合理的で落ち着いた高速道路へ。アウトバーンは今、静かにその姿を変えつつあるようです。