Photo : 【IWJ】Image Works Japan / PIXTA(ピクスタ)

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 2018年1月、イギリスのテリーザ・メイ首相(当時)は「孤独は現代の公衆衛生上、もっとも大きな課題の一つ」として、世界初の「孤独担当大臣」を任命した。21年2月、菅義偉(前)首相が英国に次いで世界で2番目となる孤独・孤立対策担当大臣を任命し、内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設置された。ほとんど話題にならなかったものの、21年6月には坂本哲志孤独・孤立対策担当大臣が、イギリスのダイアナ・バラン孤独担当大臣とオンラインで会合を行ない、孤独対策に関する二国間協力を推進する日英共同メッセージを出している。

 先進国を中心に、孤独が大きな社会問題になっている。いったい何が起きているのか、それを知りたくてノリーナ・ハーツの『The Lonely Century なぜ私たちは「孤独」なのか』(ダイヤモンド社)を手に取ってみた。

 著者のハーツは1967年生まれの経済学者で、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授。3歳から学校に通い始めたという早熟の天才(ギフテッド)で、19歳で大学を卒業、23歳でペンシルバニア大学ウォートン校でMBAを取得、世界銀行などに勤務したあと、ケンブリッジ大学で経済学と経営学の博士号を取得している。2001年には“The Silent Takeover(静かなる買収)”で、グローバル資本主義を批判する「左派(レフト)の女性経済学者」としてデビューした(邦訳は『巨大企業が民主主義を滅ぼす』早川書房)。

 ノーツはその後、発展途上国の債務問題、意思決定のノウハウ本(『情報を捨てるセンス 選ぶ技術』講談社)、「ジェネレーションK」と名づけた13歳から20歳までの若者の研究など、話題のテーマを次々と扱っている。これを「才気煥発」と評する者も、「流行りものに片っ端から手を出しているだけ」と批判する者もいるようだ。

 本書でハーツは、先進国で孤独が蔓延している原因は、新自由主義(ネオリベ)のイデオロギーが「現実離れした自助努力と、小さな政府、そして残酷なほど激しい競争を追求し、地域社会や集団の利益よりも個人の利益を上に位置づけ」たからだという。だが私は、日本でもよく聞くこうした安直な解釈には懐疑的だ。

 ひとびとはなぜ孤独になったのか。その主な理由は、わたしたちの社会がますます「リベラル」になっているからだろう。私はリベラル化を「自分らしく自由に生きたい」という価値観と定義しているが、そうなればひとびとはばらばらに(自分らしく)生きるようになり、教会や町内会、PTAなどの中間共同体は解体していく。

 新自由主義がもてはやされたのは、こうした時代の価値観(私は私、あなたはあなた)をもっともよく反映しているからだ。イデオロギーが現実をつくったのではなく、現実に合ったイデオロギーが選ばれたのだ。

 だがそれを除けば、本書は孤独についての最新の研究が手際よくまとめられており、面白く読めた。ここではそのなかから、興味深い箇所をいくつか紹介してみたい。

「友だちレンタル」など孤独を癒す「絆」を提供するビジネスが登場

 本書の冒頭でハーツは、ニューヨークでブリタニーという若い女性を1時間40ドル(約4400円)で「友だちレンタル」する。「レンタルフレンド」という会社のサービスで、WEBサイトに登録されているプラトニックな友だち候補は62万人を超える。創業者は「日本で成功したビジネスモデルをもとに起ち上げ、世界数十カ国で事業を展開している」という。

 そこで日本の「友だちレンタル」業者を検索してみると、合コンの人数合わせ、ライブなど一人では楽しめないイベントへの参加、披露宴の受付や余興などに「友だち」を3時間1万2000円で派遣していた。1時間あたり4000円だから、日本とアメリカで「友だち」の価格はほぼ同じらしい。

 アメリカでも、友だちをレンタルするのは「パーティに一人で行きたくないもの静かな女性」や「インドからマンハッタンに引っ越してきたばかりで、夕食をともにする相手を探していた技術系ビジネスマン」だ。ハーツがブリタニーに「あなたを雇う典型的なタイプはどんな人?」と訊くと、「孤独な人」との答が返ってきた。「30〜40歳の専門職で、長時間働いていて、友だちをつくる時間がないみたい」

 本書には、「栃木県の女子刑務所のサイトウさん」も登場する。サイトウさんは、「刑務所を積極的に選んだ日本の多くの高齢者の一人」で、社会学者は「(日本では)相当な数の高齢女性が、社会的な孤立を逃れるために、みずから刑務所行きを選んでいる」と述べている。刑務所には「自宅では得られないコミュニティー」があり、「いつも周囲に人がいて、孤独を感じない」「話し相手がたくさんいるオアシス」などの高齢女性受刑者の言葉も紹介されている。世界に先駆けて超高齢社会に到達した日本は、孤独でもトップランナーになったようだ。

 現代社会では、高齢者だけでなく若者も孤独だ。イギリスでは、ミレニアル世代(おおむね1980〜96年生まれ)の22%に友だちが一人もおらず、18〜34歳の約60%と、10〜15歳の50%近くが、ときどき、または、しばしば孤独を感じている。これは特別な例ではなく、2003年以降、OECD加盟国のほぼすべてで、学校で孤独を感じるという15歳の子どもが増えている。

 老いも若きも孤独に苦しんでいるのなら、需要と供給の法則によって、孤独を癒す「絆」を提供するビジネスが登場するだろう。「友だちレンタル」もそのひとつだが、本書では、それ以外にもさまざまな業態が生まれつつあることが報告されている。

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