(※写真はイメージです/PIXTA)

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内閣府の「国民生活に関する世論調査(令和7年)」によると、日ごろの生活のなかで悩みや不安を抱えている人は全体の77.9%に上ります。その具体的な内容のトップは「老後の生活設計について(64.1%)」で、次いで「今後の収入や資産の見通しについて(60.4%)」が続いており、多くの人が将来のお金に対する強い不安を抱えていることがわかります。一生に一度の大きな買い物であるマイホーム。理想の住まいを手に入れれば安心が得られると思いがちですが、事前の資金計画が甘ければ、その後の人生を経済的な不安で縛り付けることになりかねません。憧れの「タワマン」をペアローンで購入したものの、老後や教育資金の不安に押しつぶされそうになっている40代夫婦のリアルな苦悩に迫ります。

すべての条件を満たしたタワマンを購入

千葉県在住のトモヤさん(仮名/42歳)は、同級生の妻・レイさん(仮名)と、この春に小学校へ入学したばかりの7歳の長女との3人家族。夫婦合わせた世帯年収は約1,300万円です。

「娘が小学校に上がる前には、落ち着けるマイホームを構えたい」と考えた夫婦が最優先したのは、お互いの通勤や娘の通学に便利な「駅チカ」という条件でした。物件探しを始めて間もなく、候補に挙がったのは、当時住んでいた賃貸マンションの隣地区のタワマン。最寄り駅には急行が止まります。

「ここへ引っ越せば通勤も少し楽になるし、大型の商業施設もすぐそばにあるから生活環境としても申し分ない。なにより、いつかはと憧れていたタワマンに住めるんだ」

そう胸を躍らせたトモヤさんは、すぐにモデルルームの商談予約を入れました。自分たちの収入で本当に維持できるのかという不安が頭をよぎったものの、階層によって価格帯が大きく異なるため、高層階は難しくても低層階の住戸であれば予算内に収まることがわかりました。夫婦それぞれの収入を合算して借り入れる「ペアローン」を契約し、マイホームを手に入れる決断を下したのです。

無事にローンの審査も通過し、待ちに待った新しい暮らしが幕を開けました。日々の通勤ストレスは解消され、周辺には緑豊かできれいな公園があり、娘も自分の部屋ができたと、新しい家に満足げです。日用品から衣類まであらゆる買い物が隣接するショッピングモールで完結し、まさに思い描いていた生活が実現したかのように見えました。

憧れのマイホーム生活を襲った「最初の打撃」

しかし、そんな幸福感に包まれた日々は長くは続きませんでした。入居から数年が経過したある日、自宅のポストを確認したトモヤさんは、中に入っていた1通の封書に目を留めます。封をあけると、そこには「管理費および修繕積立金 改定のご案内」の文字が。それまで毎月4万5,000円だったマンションの維持費が、一挙に7万円へと引き上げられるという内容でした。

「購入の際にも『将来的に積立金が引き上げられる可能性がある』との説明は受けていたし、建物の価値を守るために不可欠な経費だということはわかっている。だけど……この先、一体いくらまで値上がりし続けるのだろうか」。トモヤさんの心に不安がよぎりました。

時を同じくして、小学生になった娘が「お友達と同じスクールに行きたい」と言い出し、習い事の数が4つに増えていたのです。気がつけば、毎月の貯蓄に回せる余裕は目に見えて減っていきました。日々の生活費自体は共働きの収入でなんとか賄えているものの、将来最も重くのしかかる大学の教育費や、自分たちの老後資金への備えがまったく進まない現状に、焦りばかりが大きくなっていきます。

「階層格差」へのコンプレックス

さらに、トモヤさんを精神的に追い詰めたのが、タワマンという特殊な建造物ならではの「見えない格差」でした。

購入した当初は「部屋の高さなんてただの好みの問題だ」と考えていたトモヤさんでしたが、利用するエレベーターが高層階用と低層階用で物理的にわかれている現実に直面するうち、少しずつ心の中にコンプレックスが芽生えはじめます。

娘の学校や地域活動を通じて、高層階に住むファミリー層と交流をする機会が増えていきました。住人たちはみな気さくでいい人々ばかりでしたが、彼らが何気なく身にまとっている時計や服、カバンは、トモヤさんの持ち物とはグレードが違っていました。

一度他人の目が気になり出すと、自制心を保つことが難しくなります。「周囲に見劣りしたくない、低層階だからと侮られたくない」という一心から、トモヤさんは自身の小遣いや家計の予備費を使って、分不相応なブランド品を買うようになってしまったのです。

レイさんは「ちょっと待って、その時計いつの間に買ったの? 我が家の財布事情を知っているでしょ。そんな余裕ないのに!」と何度も忠告しましたが、見栄の呪縛から逃れられないトモヤさんは、貯蓄に回すべき資金に手を付け続けてしまいました。

「こんな身の丈に合わない生活を続けていたら、私たちの未来は確実に破綻するわ」

「すべてを犠牲にして住んでいる」妻が明かす深刻な危機

「もう側で見ていて堪えられなくて……。私は思い切ってこのタワマンを手放して、背伸びの必要がないところへ引っ越したいと考えていたんです。でも、その話題を出すと主人はすぐに不機嫌になって『娘を転校させてもいいのか』といってすぐに殻に閉じこもってしまうため、まともな話し合いすらできていません。私には、主人がプライドを守るために、すべてを犠牲にしてこの場所に執着しているように見えてしまうんです」

レイさんはこれまでの苦悩をそう吐露します。

引っ越し当初に輝いていた充足感は見る影もなく、現在のトモヤさんはローンの重圧と周囲への引け目による過度なストレスで疲弊していました。それでも、彼は頑なに住宅の売却という選択肢を拒んでいます。

「娘をいまの小学校から転校させたくない」という大義名分を掲げていましたが、本音のところでは、苦労して手に入れたタワマンオーナーというステータスを手放したくないという強い執着が邪魔をしているように見えます。しかし、現状の収支バランスのまま今後のライフプランを予測してみると、娘の今後の教育資金、夫婦自身の老後資金の準備が整わないことは明白でしょう。

都市の洗練や成功の象徴ともいえるタワマンは、多くの人にとって魅力的な住まいです。しかし、トモヤさんのように周囲との比較や、想定以上の維持費の負担に振り回され、心が休まらなくなってしまっては本末転倒といわざるを得ません。

一戸建てであれマンションであれ、住まいの購入は人生における最大のマネーイベントです。華やかな側面に目を奪われることなく、将来の値上がりリスクや自分たちのライフステージの変化を見据え、事前に綿密な資金計画を立てる姿勢が欠かせないでしょう。