《放送開始60周年》『笑点』は「過剰なコンプライアンス意識」の高まりに風穴を開ける番組 「高齢者いじり」「犯罪容認?」それでも批判が起こらないのはなぜか?
放送開始から60周年を迎えた演芸番組『笑点』(日本テレビ系)。大喜利では、時に「不謹慎」「コンプライアンス的にどうなの?」と言われそうなネタが飛び出すが、それでも多くの人に支持され今も高い人気を誇る。『笑点』の面白さや魅力はどんなところにあるのだろうか? 改めて考察してみたい。コラムニストの石原壮一郎氏が解説する。
【写真】放送60周年を迎え、ウルトラマンとコラボする笑点メンバー。他、27年ぶりに『笑点』演芸コーナーに登場する爆笑問題なども
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暗いニュースが多い昨今ですが、全国民が浮かれた気持ちになれるおめでたい出来事があります。国民的演芸番組である『笑点』(日本テレビ系)が、1966(昭和41)年5月15日の放送開始から数えて、ついに60周年を迎えました!
偉業達成を記念して、番組内でも次々とスペシャルな企画が繰り出されています。5月17日の第3012回では、同じ年に誕生して60周年を迎えたウルトラマンがカネゴンを従えて登場。局の垣根を超えた感動的なコラボが実現しました。
もちろん、この人も欠かせません。『笑点』では二代目座布団運びを務め、『ウルトラマン』では科学特捜隊のハヤタ隊員を演じた俳優の毒蝮三太夫(90)も乱入。出演者も客席も視聴者も腹を抱えて大笑いしつつ、奇跡的な光景に目を潤ませました。
『笑点』は60年前に故・立川談志が、落語の未来に危機感を覚えて作ったと言われています。「通」の方はあれこれおっしゃいますけど、もし『笑点』がなかったら、落語という芸能はどうなっていたでしょうか。世の中も今よりつまらなくなっていたでしょう。
この番組の魅力は、とてもひと言では言い表せません。マンネリだからこそ醸し出せる深い味わい、出演者同士の息の合ったコンビネーション、「お約束」のありがたさと美しさの体現……。何より意義深いのは、コンプライアンス意識の必要以上の高まりでがんじがらめになっている窮屈な世の中に、果敢に風穴をあけ続けてくれているところです。
たしかに、昭和のような「何でもアリ」の状態が望ましいとは言えません。あれこれ気をつける必要はあるでしょう。ただ、あら探しを趣味にしている人のイチャモンを恐れて(面倒臭がって)、過剰に気をつかう風潮が高まっているのは明らかにイビツです。
犯罪を容認する発言から高齢者の寿命いじりまで何でもアリ
ネットやSNSの発達で、誰もが簡単に「正義の味方」になれるようになりました。言葉尻を捕らえて「不適切だ」「大問題だ」と鼻をふくらませてみたり、自分には何の関係も被害もなくても、叩いてもいいとされている「悪者」に石を投げて快感を覚えてみたり。本人は自分に酔っているようですが、みっともないったらありゃしません。そんな風潮をものともせず、『笑点』は令和の今も不適切で不謹慎な回答を堂々と繰り出してくれます。最近の放送の中から、一部を味わってみましょう。
4月26日放送分の2問目は「いろんな職業の人が無精者だったら?」という問題。大喜利メンバーの春風亭一之輔は、こう答えました。
「私は万引きGメンなんですけどね」(「不精なんだって?」という合いの手)
「500円以下は見逃してあげます」
見方によっては犯罪を容認する呆れた態度であり、万引きGメンという職業に対する侮辱と言えなくもありません。ちょっと言い過ぎたと思ったのか、司会の春風亭昇太に「見逃すな!」と突っ込まれて、声を大にして「ダメ、絶対!」と返していました。
同じ日の3問目は「子どもが『父ちゃん、〇〇に連れてって』とおねだり」という問題。三遊亭小遊三は「父ちゃん、久しぶりに温泉に連れてってよ」とおねだりし、司会者が「どうしようかな」と言ったあと、ニヤニヤしながらこう語ります。
「温泉行ってさ、(お父さんの口調で)『おいおいおい、そっち行っちゃダメだよ。そっちは女湯じゃないか。ダメだっていうのに。あ、これは町内の婦人会のみなさん、豊満な肉体で、ナイヤガラの滝みたいで』。……なんてのをやろうよ」
じつに不適切です。意図的に女湯に入り込もうとする行為や、町内の婦人会のみなさんに性的なまなざしを向けていることへの罪悪感や反省が、みじんも感じられません(「ナイアガラの滝」が意味不明ですが)。「日曜日の夕方にこんな性的な話題を持ち出すなんて許せない! 女湯の話題でニヤけているのも不快だ!」なんて言われそうです。
5月17日放送の回に登場した毒蝮三太夫も、座布団運びをしていたころの話をしつつ、舞台を見わたして「変わってないなあ。でも、ここにいた人は、全員いない。全員、昇天(ショウテン)した」と、人の死をネタにするというタブーに挑みました。さすがマムシさんの本領発揮です。ほかの回でも、ベテランの三遊亭好楽や三遊亭小遊三が「もう長くない」的な文脈で、しばしば高齢であることをネタにされています。
人生で大切なことは、みんな『笑点』で学ばせてもらおう!
素晴らしいことに、『笑点』の中でどんなに不適切で不謹慎な発言があっても、批判が巻き起こることはありません。仮に目を吊り上げて「ケシカラン!」と言っている人がいたら、「バカじゃないの」と軽蔑の眼差しを向けられるでしょう。それもこれも『笑点』という長い歴史に支えられた番組の人徳というか、唯一無二の「番徳」です。
ほかのシチュエーションで不適切で不謹慎な発言が問題になったときも、「それは本当に責められるようなことなのか」と疑う視点は、常に持ちたいもの。「もし『笑点』の回答だったら」と想像してみることで、たいていのこと対して大らかな気持ちになれそうです。
番組の60周年を祝う特別企画は、まだまだ終わりません。5月31日(日)放送の『笑点60周年スペシャル』(16:30〜18:00 ※16:30〜17:30は関東ローカル)では、演芸コーナーにお笑いコンビの爆笑問題が27年ぶりに出演。ほかにも、今月2日に初公開された現存する番組最古の映像を元にした特別大喜利など、見逃せないコーナーが目白押しです。
『笑点』はある意味、日本の「良識」の最後の砦。もし番組から不適切や不謹慎な要素がなくなってしまう日が来たら、日本もいよいよ末期的です。これからも今のまま、いや、ますます不適切や不謹慎に満ちた番組であり続けてください。私たち視聴者も、肩の力の抜き方やバランス感覚など、生きる上で大切なことを引き続き学ばせていただきます。
