ご近所タワマン妻への、愚痴ブログがバレてしまい…【女たちのSNS事件簿 Vol.6】
いまや私たちの日常に溶け込んでいるSNS。
InstagramやYouTube、Twitterなど、とても便利で面白いツールだが…。
そこには、とんでもない“ヤバイ世界”が潜んでいる可能性も。
SNSの沼にハマった女たちに待ち受ける衝撃の事件と、その結末は…?
◆これまでのあらすじ
医師の夫とタワマンに暮らす佳恵(30)。同じマンションに暮らす妻たちとのご近所付き合いに辟易し、彼女たちをネタにそのイライラをブログで発散していた。次は、24階に住むお嬢様で“良い子ちゃん”なタワマン妻・麻耶(27)をブログのネタにしようと思いつくが…。

タワマン妻の日常をブログに書く女〜佳恵(30)の場合〜【後編】
「う〜ん…」
ある日の深夜。私は自室でひとり、お気に入りのクラフトビールを片手に、PCの前で考え込む。
― 麻耶ちゃんって“良い子ちゃん”すぎて、面白みがないのよねぇ。
今日はブログの更新予定日なのに、筆が全く乗らない。
貴子さんや里美さんをネタにした、タワマン妻のマウント合戦を書いた時は逆に筆が乗りすぎて、むしろ文章量を削ったほどだ。
前回の投稿で『次回から新シリーズがスタートします!お楽しみに!』と書いてしまった手前、いまさら変更などできない。
読者からも、期待のコメントがいくつも寄せられている。
― ちょっとだけ脚色しちゃおうかな…。
煮詰まった私は、フィクションをあたかもリアルネタであるかのように書き上げることにした。
投稿画面を開き、麻耶ちゃんの設定を書き込んでいく。
『彼女は一見、育ちの良いお嬢様。
しかし、結婚前は男遊びが激しく、野球選手や人気俳優など有名人たちと毎晩のように飲み歩いていた。
出版社勤めの冴えない男と結婚したことを人生の汚点と思っており、マンション内のジムに通って人の夫を密かに誘い、タワマン内で乗り換えを狙っている。』
ウソだらけの設定だったが、書き進めるうちに、これが“麻耶ちゃんの真の姿”のようにも思えてくる。
― 私、天才かもしれない…。
嘘で塗り固められたストーリーを書き終えた私は、その面白さに我ながら大満足した。
― きっと、貴子さん、里美さんネタ以上の反響があるはず。
そう確信した私は、勢いよく投稿ボタンを押した。
“麻耶ちゃん”の架空ネタにブログを更新したら…
予想通り、麻耶ちゃんシリーズにはかなりの反響があった。
典型的なマウント妻はそろそろマンネリ気味だったので、麻耶ちゃんを本物の悪女として描くことで、読者を再び惹きつけることができた。
そして気づけば、PV数は1万超えが当たり前になり、カテゴリランキングではベスト10の常連に。
一方で、気になることが…。
それは、ブログの人気に比例して、好意的ではないコメントが増えていたことだ。
『タワマンに住む人がみんな、こんなに下品なわけない』『どうせ全部創作でしょ?』など、私がタワマンに住んでいること自体を疑うようなコメントも目立つようになっていた。
― 何よ…自分がタワマンに住めないからって妬んじゃって。
私は、自分がタワマン妻であることを証明すべく、自宅の窓から見える夜景や、マンション内にあるレストランやジムなど、住人にしか撮影できない場所で撮った写真を添えてアップするようにした。
すると、ストーリーにリアリティが増して読者の満足度が上がったようで、否定的なコメントをかき消すように、ブログのファンたちが盛り上がった。
― これからも、写真付きでタワマン生活のリアルを見せていこう。
意図せぬ反響の大きさに、私はほくそ笑んだ。

3ヶ月後。
麻耶ちゃんシリーズの人気は依然として高く、私はいまだに彼女をネタにしてブログをアップし続けていた。
このシリーズは内容のほとんどがフィクションなので、ネタに困らない。PV数も安定して伸びているし、このままいけば、収益化や、書籍化だって夢ではない…。
そんな、上り調子のブログとは対照的に、現実世界はそううまくいかない。
私と夫・幹久の関係はいまだ停滞中。収束の兆しが見えないコロナのせいで、彼は相変わらず忙しい日々を送っている。
先日、久しぶりに2人でディナーに行ったが、本当に疲れている様子だった。
― 子どものこと、やっぱり言い出せる雰囲気じゃないな…。
ふと、貴子さんと里美さんとのランチ会での会話が脳裏をよぎる。
私を暇人扱いし、勤務医である幹久のことを馬鹿にした、あの嫌みたらしい2人の笑み。思い出しただけで、ムカムカしてくる。
しかし、彼女たち自身がブログのネタそのものであり、邪険にはできない。
― そういえば…最近、全然2人と会ってないかも。
私は、貴子さんと里美さんとの3人のLINEグループを確認してみる。
「3ヶ月前か…」
LINEは、麻耶ちゃんシリーズを始めたての頃を最後にストップしていた。
興味の対象が貴子さんたちから麻耶ちゃんに移り、頻繁に誘われていたタワマン妻の会へのお誘いがなくなっていることに、気づかなかった。
麻耶ちゃんシリーズもいつかは終わりが来る。そのときは、あの2人からマンション内の面白い情報をたくさん聞いて、新たなシリーズを生み出すしかない。
何にせよ、貴子さんと里美さんとは良好な関係を維持しなくてはならないのだ。
私は、久々に食事にでも誘ってみようと、LINEを送った。
『佳恵:貴子さん、里美さん、おひさしぶりです!最近、ふたりにお会いできていないので寂しいです…。近々お食事でもどうですか?』
心にもないメッセージを送ると、即座に2人から既読がつく。
『貴子:そうやって、また私たちのことをブログでバカにするつもりなんでしょ』
『里美:あなたのやってること、全部知ってるんだからね』
図ったかのように立て続けに届いた2人からの返事を見て、目の前が真っ暗になった。
― どういうこと!? なんでブログのことを…?
スマホを持つ手がわなわなと震えだす。私は立っていられなくなり、その場に座り込んだ。
冷えた指先で『なんのことですか?』と、打ち返す。
すると数秒後、思いもよらぬ返事が返ってきた。
『貴子:全部、麻耶ちゃんが教えてくれたわ。あなたって本当に最低ね』
― あの女!? どうして…!
はらわたが煮えくり返る思いで、貴子さんのメッセージの「麻耶ちゃん」という文字をにらみつける。
私は弁解をしようと必至で言葉を探したが、見つからない。そのまま返事を返さず、そっとトーク画面を閉じた。
なぜ、麻耶ちゃんがブログの存在を知りえたのか…。その返答次第では、まだ自分にも挽回のチャンスがあるかもしれない。
私は、麻耶ちゃんとのLINEのトーク画面を開き、『明日、会えないかな?』とメッセージを送った。
麻耶はいつ、どんなきっかけで佳恵のブログの存在を知ったのか…?
翌日。
『忙しいんですけど…』と返事をしてきた麻耶ちゃんをなんとか説得して、16時から1時間だけ会う時間を作ってもらった。
私は夜通し、どうすれば自分に非がないということを納得させられるか、考えた。
そして、導き出した弁解のシナリオは、あのブログを書いたのは私の友達で、私の話をもとに勝手に書いたものだ、というもの。
無理があるのはわかっているが、何としても麻耶ちゃん本人から、貴子さん、里美さんに弁明してもらおうと必死だった。
私は、震える足取りで家を出て、マンションの目と鼻の先にあるカフェへ向かった。

「あ、佳恵さん! お待たせしちゃってすみません」
「ううん…大丈夫」
10分遅れで到着した麻耶ちゃんは、いつもと全く変わらないように見える。ふんわりと髪を巻き、春物のワンピースを着て、甘いローズの香りを漂わせている。
一方の私は、メイクをする余裕もなく、よれよれの普段着にコートを羽織ってきただけ。
まるで正反対の2人が、カフェのテラス席で向かい合っている光景は、異様に違いない。
麻耶ちゃんは席に着くと、店員にホットココアを注文する。彼女がオーダーを終えてすぐに、私は本題を切り出した。
「…あのさ、麻耶ちゃん。ブログのことなんだけど」
「ああ、あれは、私の夫が発見したんです。
最近、SNSからの書籍化って多いじゃないですか、人気ブログとか、Twitterとか。彼が書籍化候補を見て回っていたときに、佳恵さんのブログを見つけたみたいで。
『これ、うちのマンションの話じゃない?』って」
麻耶ちゃんは表情ひとつ変えず、しれっと言い放つ。そういえば、彼女の夫は出版社勤務だった。
私は、自分の心臓がドクンドクンと音を立てて早まるのを感じた。
「マンション内の構造とか、設備とか、周辺施設とか、書かれている情報が一致するなと思って、内容じっくり読んでみたんです。
そしたら、貴子さんや里美さん、それに、私とおぼしき登場人物まで出てきて…ビックリでした」
淡々と言葉を続けた麻耶ちゃんは、穏やかな表情でニコリと不気味に笑った。
それから彼女は、ブログの内容、詳細を丁寧に拾いながら、消去法で、ブログの主が私だと特定したらしい。
― ブログなんて世の中にごまんとあるのに…!
まさか、ブログの人気が出すぎたことが裏目にでていたとは。私は激しく動揺した。
「あ、あのね、麻耶ちゃん。あのブログは私が書いたものじゃなくてね、友達が勝手に…」
平静を装いつつ、必死に考えた言い訳を、しどろもどろになりながら伝える。
しかし、彼女の目は笑っていない。明らかに、私の話が嘘だと見抜いている。
私の話をひと通り聞き終わった麻耶ちゃんは、ニコッと微笑んでこう言った。
「じゃあ、その“お友達”に伝えておいてください。
私のことだと思われる登場人物のプロフィールに、『冴えない夫と結婚したことが人生の汚点』と書かれていましたが…私は、大好きな夫と何不自由ない生活を送っていて、毎日幸せですからって」
そして、間髪入れずに続けた。
「あと…見ず知らずの人にコメント欄で煽られても、簡単に情報が特定できるような写真は載せないほうが良いですよ。
煽った本人は、“わざと”情報を引き出そうとしてるかもしれないですし」
優雅にココアを飲みながら、ふふふ、と笑う彼女を見て、私はぞっとした。
― タワマン住みを疑うコメントをしてたのは、麻耶ちゃんだったってこと!?
ずっと前からブログを監視し、ブログの書き手が私であるという確たる証拠が出るのを、虎視眈々と待っていたのだろうか。
とんでもない相手をネタにしてしまったと、心底後悔した。
「じゃあ、私はこれで失礼しますね。その“お友達”と、これからも仲良くどうぞ」
「ま、待っ…」
お金をテーブルに置いて、麻耶ちゃんは店を出て行った。
後を追おうかと考えたが、追ったとしても、どうすることもできない。
最後の頼みの綱だった麻耶ちゃんに見捨てられ、私は絶望した。
― もし、このことが幹久の耳にまで入ったら、どうしよう…。
コロナ病棟で一生懸命働く夫を思い出し、涙が溢れる。
― 私…なんてバカなこと……。
瞳に映ったタワーマンションは涙で歪み、今にも崩れ落ちてしまいそうに脆く、いびつな形をしていた。
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