2−0となった時点で、勝負はおおかた決したように思えた。まだ試合は60分近くも残されていたが、それまでの時間のパフォーマンスを見るにつけ、両者の力の差がはっきりと感じられたからだ。

 もちろん優っていたのは2点を先行した青森山田(青森県)のほうだ。


革命的なサッカースタイルで頂点を掴んだ静岡学園

 激しいプレッシャーで相手の出足を封じ、局面の争いでも上回った。くさびが入ればふたり、3人ですぐさま囲い込み、相手のストロングポイントであるドリブルを発動させない。11分に得意のセットプレーから先制点を奪うと、33分には敵陣でボールを奪ってPKを誘発し、エースの武田英寿が追加点をマーク。理想的な展開で2点のリードを奪ったのだ。

 一方の静岡学園(静岡県)は、まるでいいところがなかった。青森山田のプレッシャーの前に、持ち前の攻撃スタイルを示せなかった。ドリブルを仕掛けても引っかけられ、縦パスを入れてもあっさりとカットされてしまう。頼みの綱であるエースの松村優太も、相手の厳しい対応を受けて沈黙した。

 警戒していたはずのセットプレーで早々に先制点を奪われ、ビルドアップのミスを突かれてPKを献上。今大会無失点を続けていたチームが成す術がないまま2点のビハインドを負ったのだから、もはや勝ち目はないように思えた。

 とりわけ、厳しいと感じられたのは攻撃面だった。準決勝の矢板中央(栃木県)戦ではドリブルを軸に一方的に押し込んだが、そのストロングポイントがまるで通用しなかった。今年のプレミアリーグを制した青森山田のプレッシャーやプレー強度の高さは、おそらく静岡学園の選手にとって経験したことのないようなレベルだったに違いない。

「(両サイドの)松村だったり、小山(尚紀)がドリブルしても突破できなくて、中盤もあまりボールを触れなかった。前半は青森山田の気迫に負けていたのかなと思います」

 キャプテンの阿部健人は、守勢に回った前半をそう振り返った。

 相手のレベルの高さへの戸惑いに加え、大舞台でプレーする重圧もあったはずだ。この日、埼玉スタジアムには大会史上最多となる56,025人の大観衆が詰めかけていた。ここ4大会で3度目の決勝進出となった青森山田に対し、静岡学園は24年ぶりである。

「決勝特有の雰囲気のなかで、ボールを受けることを怖がってしまったのかなと」

 川口修監督が指摘したように、ボールを受けてこそ成り立つ静学スタイルは、大舞台の重圧の前に沈黙した。

 ただ、静岡学園にとって幸運だったのは、前半アディショナルタイムに1点を返せたことだ。セットプレーから相手のクリアミスを逃さず、中谷颯辰(そうしん)が右足を振り抜いた。

 流れや時間帯を考えても、この1点こそが試合のターニングポイントとなったことは間違いない。

「自分たちのミスから失点してしまったところから、プランが崩れ始めた」

 青森山田の黒田剛監督も、この失点の影響を認めている。

 息を吹き返した静岡学園は、後半に入ると見違えるような姿を示した。

 その要因のひとつは、選手たちの距離感に見出せる。前半は最終ラインと中盤の距離が遠く、コンパクトな陣形を保てていなかった。縦パスがなかなか通らなかったのも、距離感の悪さが原因だった。

 ところが後半に入ると、その課題が一気に改善。「自分がもう少し高い位置でプレーして、ラインを上げて前に行けば改善できると思っていた」と、最終ラインを統率する阿部が話したとおり、全体をコンパクトにし、いい距離感を築いたことで、静岡学園の攻撃は一気にスムーズとなった。

 中盤にいい形でボールが入る機会が増え、そこからドリブルとショートパスを織り交ぜながら、敵陣へと侵入していく。たとえ失ってもいい距離感を保っているため、即時奪回も実現。セカンドボールを回収するシーンも増加し、多くの時間を青森山田陣内で過ごした。

 61分に巧みなパス回しと鋭いカットインから生まれた加納大(はる)の同点ゴールは、まさに静学スタイルの真骨頂と呼べるものだっただろう。完全に勢いに乗った静岡学園は85分にセットプレーから3点目を叩き込み、鮮やかな逆転劇で全国の頂点に立った。

「相手は、とにかく隙のない絶対王者。青森山田さんにもし勝つならば、我々のストロングポイントを120パーセントくらい出せないと、おそらく勝てない。

 失点覚悟のうえで、リスクを冒してでも点を獲りにいかないといけない。我々は守備のチームではないので、何点か獲られるかもしれないが、ストロングを出して1点でも多く獲れればいい」

 川口監督は準決勝のあとに、決勝の展望をこう語っていた。

「我々のストロングポイント」とは、ドリブルを主体とした攻撃スタイルであることは言うまでもない。徹底して個人技を磨き、個性を生かしたサッカーを標榜するのは、多くのJリーガーを生み出してきた静岡学園の伝統だ。

 もっとも、現代サッカーでは技術以上に、戦術やアスリート的な能力が重視されるようになった。本来、個の育成が求められる高校サッカー界においても抗(あらが)えない流れとなっている。

 つまり静学スタイルとは、時代に逆行しているものと言えるかもしれない。だからこそ、このスタイルで優勝を成し遂げたことに大きな意義を見出せる。

「日本サッカー界において革命的だと思うし、異質なサッカーをしていると思いますが、自分たちが優勝することで、サッカー界が盛り上がっていけばいい」

 エースの松村は、胸を張ってそう言った。

 揺るぎない伝統と信念のスタイルで、静岡学園が名門復活を高らかに告げた。