「会社で、可愛いって言われても困る・・・」男が驚いた、ミスコン出身美女の意外な言葉とは
2019年。
「令和」という新しい時代を迎えたが、これまでの慣習や価値観がアップデートされる訳ではない。
このお話は、令和を迎えた今年に保険会社に総合職として入社した、桜田楓の『社会人観察日記』。
1996年生まれ、「Z世代」の彼女が経験する、様々な価値観を持った世代との出会いとは…?
◆これまでのあらすじ
これまでに楓は、結婚の呪縛に憑りつかれた、アラフォー女性社員など、さまざまな年代の価値観の人に出会ってきた。

「おはようございまーす!」
丸の内にある保険会社で総合職として働く楓は、2年目を迎えた。
既に出社していた同じ部署の正志が、朝からフロアに聞こえる声で雑談している。
「なぁなぁ、やっぱ今年の新入社員顔面のレベル高いよな?しかもさ、立教大学のミスコン出た子が入ってくるらしいぞ!楽しみだよなぁ。」
―やっぱり話題になってるのね、大阪にいる詩織も言ってたなぁ。
彼のように大っぴらに発言するのは珍しいが、社内では、今年度入社のとある新入社員がちょっとした話題となっていた。
何かと話題になることが多い、大学のミスコン。その出身者というとアナウンサーやCAなどの仕事に就く女性が多く、金融業界では珍しい。
ミスコン出身者で、かつ立教大学のような華やかなイメージのある大学出身ということもあって、彼女の存在は、部署配属前の4月の時点で、社内でも周知の事実となっていた。
◆
その1か月後ー。
「えー、今日からこの部に配属となった新人たちを紹介する。」
GW明けの最初の出社日、朝の始業と共に部長の声が響く。楓の部署に配属された10人ほどの新入社員たちが、各々に自己紹介をした。
「おはようございます。本日より商品開発部門に配属された山本麻美と申します。OJT担当である中本さんにご指導いただきながら頑張って参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
そう挨拶したのは、社内の話題となっていたミス出身の新入社員であった。
楓の部署にも新しい風が?
彼女は前評判通りの可愛さで、楓は朝見ているニュース番組のアナウンサーと雰囲気が似ているなと思っていた。
艶々とした栗色の髪、大きな瞳と色白な肌、華奢で小ぶりなスタイル…と、モテる要素がふんだんに散りばめられている。

OJT担当が中本なので、彼女は楓のチームに配属になったということである。
チームリーダーである岩田は、配属について以前から知っていたと思われるが、顔をちらっと見てみると、満足そうに笑顔でうなずいていた。
全員が一通り自己紹介を終えると、それぞれのOJT担当に連れられてチームの場所へと移動する。
麻美がやってくると、岩田が声高にチームに声をかけた。
「みんな、お待ちかねの山本さんだぞ〜。うちのチームにこんな美人が来てくれるなんて、空気が華やいでいいねぇ。OJT担当の中本始め、チームの皆がサポートするから遠慮なく何でも聞いてください。」
麻美は緊張しているのか、その言葉に少しだけ笑みを浮かべ「よろしくお願いいたします」とだけ言った。
◆
その日の午後のことである。
中本が麻美に、「書類を印刷して会議の準備をしてほしい」と言っているのが聞こえた。
「印刷のやり方は分かるわよね?ちょっと今から席を外す用があって、その間に山本さんに準備してほしいの。」
麻美は、「わかりました」と元気よく返事をしている。
楓も自分自身の書類を印刷しようとコピー機の近くにいき、ふと麻美の印刷物を見てみると、それは会議で配布できる形態ではないことに気づき、咄嗟に言った。
「山本さん!印刷ありがとう。私も去年間違っていたんだけどね、実は会議で使う資料の印刷方法があって……」
すると通りすがりの岩田が声をかけてきた。
「あぁ!麻美ちゃん。印刷方法間違ってるよー。これ15時からの会議で使う資料だろ?桜田、お前も先輩になったんだから教えてやれよー。」
すると咄嗟に麻美が答える。
「岩田さん、申し訳ございません。ちょうど今桜田さんが教えてくれようとしていたところで……」
「おぉ、そうだったのか。麻美ちゃんは素直で可愛いなぁ。桜田、ちゃんと教えてやれよ。」
そう言って岩田は、さっさと行ってしまった。
―素直で可愛い、か……。
同じ受け答えをしても、楓はそう言われなかっただろう。そこまで考えると、ある思いがふと頭によぎる。
―可愛いって得だなぁ。
だが、楓がこんなことを思っているなんて悟られたら、「嫉妬だ」などと言われるだけだ。
「桜田さん、助かりました。ありがとうございます。」
そんなことを考えていると、印刷を終えた麻美に声をかけられ、ふと我に返る。
「一つ上の桜田さんがチームにいることが、とても嬉しいです。これからよろしくお願いします。」
麻美は、大きな瞳で楓を見つめながら語り掛ける。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
楓は突然のことで事務的な返事しか出来なかったが、内心とても嬉しかった。
―この子と仲良くできるといいな。
素直な麻美を見ていると、自然とそんな気持ちになった。
美人新入社員の配属にざわつく楓の部署。だが麻美の意外な一面が…!?
その週の金曜日には楓たちのチームで、麻美の歓迎会が行われた。
正志は麻美の隣で、必死に話しかけていた。
「いやぁ〜麻美ちゃんみたいな子が入ってくれるなんて正直びっくりだけど、すごい嬉しいよ。みんな仕事のモチベ上がってるよ。少なくとも男は。」
麻美の容姿をほめまくる正志に対して、麻美は何も言わずに黙って聞いている。
―正志さんって、分かりやすいなぁ……。「美人の前では緊張するんだよ」って前に言っていたけれど、年下の後輩だから話が出来るのかしら。
そんなことを考えながら、楓は思わず苦笑する。すると酔いも回った岩田が、正志に加勢した。
「麻美ちゃんがチームにいること、他部署からも羨ましがられてるよ。俺も自慢してるもん(笑)ほんとに女の子っぽくて華があるよね。桜田とかさぁ、顔は可愛いけど愛想がないしな」

楓のことを引き合いに出しながら談笑しているのが聞こえてきた。
その時である。
「あの…」
麻美のおっとりとした声が響いた。正志と岩田が「麻美ちゃん、どうかした?」と尋ねる。
「今週初めて配属されてからずっと思っていましたが、私に対して可愛いとしか言いませんよね…。正直、そんな嬉しくないです」
この言葉を受けて、正志と岩田の顔は「え?」と驚く顔をする。すると、楓のOJT担当である瀧本が、横からぴしゃりと言った。
「可愛いと言えば、皆喜ぶと思ったら大間違いよ。愛想笑いをしなきゃいけないから大変よね?」
隣にいた麻美はその言葉に、「はい」と頷く。そして瀧本はこう続ける。
「桜田さんも、そんな人たちに愛想ふりまく必要ないわ」
しんとした場に、瀧本の声が静かに響き渡った。岩田と正志は、ばつが悪そうに顔を見合わせている。それを見ていた麻美が、こう言った。
「私もこれから外見じゃなくて仕事の面で認めて頂けるように頑張りますので、よろしくお願いします!」
先ほどまでとは打って変わって、明るい声で話をまとめて、さらりと話題を変えていく。
1時間ほどたち、そろそろ会がお開きとなる時間となった。いつもだったら、率先して二次会の幹事を務めたがる正志は、岩田と共に、そそくさと帰宅していく。
「実は得してるんだと思ってた・・・」楓が麻美に本音をぶつけると・・・?
帰りがけ、麻美は瀧本にぺこりと頭を下げる。
「今日は、ありがとうございました」
すると瀧本は、首をふりながら答えた。
「ううん。あなたが最初、よく言ったわ。美人なあなたの言うことだから、聞いたのかもしれないけれど、それでもいい機会ね。」
楓は帰り際に、麻美に話しかける。
「麻美ちゃん。私もあなたのこと、顔が可愛くて得してるんだろうなと思っていた節があったわ、ごめんなさい。臆せず意見を言っている麻美ちゃんが、とてもかっこよかった。去年入社してから、おかしいなと思うことがあったけれど、なかなか言えなくて…。」
麻美はにっこり笑って返す。

「全くです。外見だけちやほやされる世界が嫌で、程遠い金融業界を選んだのに、こういう男性が大勢いるんだなって配属初日から思ってました。会社に働きに来ているのに、『女性的であるか否か』を評価されるのって違うと思ったので。」
「そうだよね、でもやっぱり上司だと忖度してしまうっていうのは、私も企業で雇われている身分だっていうのが無意識にあるからなのかなぁ。」
麻美のように行動を起こせない楓は、1人ごとのように呟く。
―1年間いろんな人に会ってきたけれど、自分の意見をはっきり伝えたことがなかった。麻美ちゃんの強さが欲しいわ。
何より自分自身に言い聞かせるように、楓は呟いて、「来週からもよろしくね」と言った。
楓は、これまでに感じたことがないようなすっきりとした気持ちで帰宅の途に就いた。
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