人生には思いがけない出来事が、いくつも用意されている。

良いことばかりが人生ではない。

受け止めきれずに取りこぼしてしまうこともあるだろう。時には呼吸ができないほど苦しい時もある。

そんな困難に直面し、心が折れてしまいそうになった時、ほんの少しだけ背中を押してくれる存在に出会えたら、人生は好転していくのかもしれない-。

これは生まれ月の違う12星座の女たちが、ある存在をキッカケに自分を取り戻していくストーリーである。

前回は、恋に淡泊な“水瓶座の女”を紹介した。今回は―。




名前:井田恵梨香(31歳)
誕生日:3月10日
職業:ITベンチャー企業 人事部
住居:三軒茶屋


Case.12 情に厚く、包容力のある魚座の女


「お疲れ様、今日はもう上がっていいよ。」

恵梨香が声をかけると、後輩の表情がパっと明るくなる。

今日は金曜日の夜。世間ではプレミアムフライデーと呼ばれる日だ。

きっと何かしらの予定があるのだろう。いそいそと帰り支度をはじめ、メイクも直し始めた。

そして5分も経たないうちに、後輩はにっこりと笑顔を浮かべて「お先に失礼しまーす」と、軽やかにオフィスを去っていった。

―まあ、もう仕事は終わってるからいいんだけどさ。

もうすぐ夏がやってくる。

オフィスの外に視線を向けると、まだ空は明るいままだ。

もう少しだけ仕事をしようと思い、パソコンに向き直るも、そこに片付けるべき仕事はもう残っていなかった。

恵梨香は、IT企業の人事部で働いている。今日は面接の予定もすべて済んでしまったし、セッティングすべき面談や、出すべきレポートも、候補者たちへの連絡もない。

これも、後輩が立派に育ってくれた証なのだ。

しかし、それと同時に突き付けられるのは、彼女のように浮足立って帰り支度をしたくなるような予定が一つもないという悲しい現実だった。

―まだ、連絡来てない。忙しいだけ、だよね…

恵梨香の脳裏をよぎる、ある男の面影に、ほんの少しだけ不安を覚えるのだった。


恵梨香が恋してしまった男とは?


「まだ喧嘩中なの?」

結局、何の予定もない金曜日に耐えられず、恵梨香は友人の綾子を『銀座 ル・コチア』に呼び出したのだ。

快く誘いに乗ってくれた綾子に感謝していた。しかし、恋愛の話になると大きく目を見開きダメ出しするので、苦笑いを浮かべながら曖昧な返事になってしまう。

「喧嘩っていうほどじゃ。ちょっと距離が必要かなって…」

建築デザイン会社を経営している男・近藤壮太とは付き合ってもう2年になる。海外との取引も多く、国際的に活躍する姿にはいつも刺激を受けていた。

マンネリとは無縁の理想的な付き合いに、文句の付け所は何一つない。デートだっていつも完璧だ。

2人のお気に入りの店で食事をした後は、必ずと言っていいほど、タクシーを拾ってからお台場へと向かう。

さらさらと足元を滑り落ちる砂の感触に酔いしれながら歩く台場のビーチは、とてもロマンチックだ。

とにかく彼と過ごす時間は、最高で、そして完璧。恵梨香は心底満たされる。当然のように恵梨香は次のステップである”結婚”を望んでいたのだが。




しかし、なかなか二人の関係は進展しない。

もともと、壮太は多忙な男だ。自分が好きなことを仕事にしているせいか、何においても仕事が一番大事なのだろう。

電話一本で、甘い二人の週末がぶち壊されたことも少なくない。

こまめに連絡してくれる時もあれば、数週間放置されることもある。デートの約束はいつも一か月以上先の日付を提示され、まるで予約の取れないレストラン状態だ。

そんな現状に不満があったわけではなかったのだが、ふと不安になった恵梨香は、前回のデートで「私とのこと、真剣に考えてくれてるの?」と、口走ってしまったのだ。

あの瞬間、彼は心底困ったような顔をしていた。

「それは確かにダイレクトすぎるわね…、言いたくなる気持ちもわかるけど。素直に“寂しい”って言えばよかったのに」

鋭い視線で恵梨香を捉え、一番触れられたくないところを突かれる。

「う、うん…。それ以来、なんだか連絡とりづらくなっちゃって」

これ以上しつこく壮太を追及してしまえば、結婚はますます遠のきそうだ。

―それに、この年で捨てられたくない…

あからさまに落ち込む恵梨香を見かねたのか、綾子はワインのお代わりをオーダーする。

そして、こんなアドバイスをくれたのだ。

「恵梨香がそうやって悩むのも分かるわ。私も今の彼氏と上手くいくまでいろいろ悩んだから」

そう言うと、最近付き合ったという庄司との関係について教えてくれた。

彼とは長くイノセントな関係が続いていたらしい。業を煮やした綾子は、ついに自分から「付き合ってみませんか?」と告白したのだ。

「すごいね…、でも私には無理だよ」

それが恵梨香の素直な感想だった。

目の前にいる彼女は自信に満ち溢れ、そして美しい。綾子のようになれたらと思ったことは一度や二度ではない。

綾子は自分を慰めようとしてそんな話をしたのかもしれないが、今こうしてグズグズと足踏みしているだけの状況にいる恵梨香にとっては、自分が余計に惨めに思えた。

深いため息をつくと、綾子はさらに言葉をつづけた。

「少しもすごくないのよ?だって、今の恵梨香って、少し前の私を見てるみたいなんだもの…」

そう言って意味深に微笑む綾子は、ある占いを見せてくれたのだった。


魚座の恵梨香の、7月の運命とは…


魚座 7月の運勢


“油断大敵”という言葉があります。

少しでも気を抜けば、思わぬ失敗に足元を掬われてしまうから、十分に注意しなさい。という四字熟語です。

この言葉は、いろいろな場面で使われますが、特に7月の魚座の方にはこの言葉をしっかりと胸に刻んでいただきたいと思っています。

というのも、別に、失敗しますよ!とか、万事休すです!とか、そういうことを言いたいわけではありません。むしろ追い風が吹いています、ということをお伝えしたいのです。

油断が大敵になってしまうということは、ある程度ベテランになった人にしか言えない言葉です。今までの体験や経験が、いよいよ自分自身の強固な武器になってきたとも言えるでしょう。

特に、先月多少無理をしていた人は体に何らかのSOSサインが出ていた人も少なくないかと思います。少しだけ休憩できた人は、その時の振り返りを大事にしてください。

そして、もしその不調期間を無理やりにでも押し通してきた方は7月中に、まずはフィジカルのバランスを整えると良いでしょう。

あなたにとって「油断大敵」というのは、今までの自分を、褒めて、そして大事にするためのキーワードだと思っていただけると嬉しいです。

さあ、いよいよ2019年の下半期の幕開けです。

魚座の方にとって、この半年は「想いが実る」という暗示もあるのです。(詳しくは下半期の占いで!)

それを実現させるためには、今一度、ベテランになったからこその視点で、心を新たにしてみてください。

7月は、不調だったことを仕切りなおすのに、とてもいい時期でもあります。

どうか、恐れずに。

ラッキーデイ:7月14日

Horoscope:J・ミナト




「油断大敵、かぁ。」

「そうよ、彼、結構モテるんだからね?うかうかしてると、取られちゃうわよ?」

確かに彼女の言う通り、壮太と出会ったレセプションパーティーではきらびやかな女性たちが常に彼の周りを囲んでいたのだ。

まさか自分に声をかけてくれるなんて思ってなかったから、付き合ってからも余計に引け目のようなものを感じていたのかもしれない。

「でもそんな男が、恵梨香を選んだのよ?ちょっとくらい期待してもバチは当たらないんじゃない?」

いたずらっぽく微笑む綾子に、つられて笑顔になってしまう。

たかが占いとは言え、下半期に「想いが実る」と書いてあった。それが、もしも壮太との関係ならば…。そう思わずにはいられない。

「そう、だよね。やっぱり、私彼とちゃんと向き合ってみようかな…」

恵梨香がスマホを取り出し、壮太に近いうちに会いたい、とメッセージを送ろうとしたその時だった。

綾子がパっと恵梨香の腕を掴み、こんなことを言ったのだった。

「いつか、じゃダメよ」


引っ込み思案な恵梨香に、友人がアドバイスしたこととは?


―今から、会えない?

そんな恵梨香らしからぬメッセージを送ったのは、15分ほど前のこと。

壮太は、新富町にオフィスを構えていたはずだ。それは今ちょうど綾子と食事をしているこの場所から、そう遠くはない。自宅もその付近。

もしもタイミングさえ合えば、今こそが関係修復のチャンスなのだ。

しかし、友人におだてられたとは言え、こんな積極的な誘い文句を送ることになるとは思ってもいなかった。

恋愛はいつも受け身だった恵梨香にとって、これは大きなチャレンジだったのだ。

トリュフヌードルの最後のひと口を味わおうとしたのだが、緊張で味が分からなくなっている。

どぎまぎしながら、最後のデザートをオーダーした瞬間、待ちに待った彼からの返信が届いたのだった。




―ごめん、まだ仕事が終わらない。

結局、さきほど届いた壮太からのメッセージは、恵梨香のチャレンジを見事に打ち砕く内容だった。

やっぱりね、という惨めな気持ちと、もう2度と自分から積極的に誘うものかという意地が沸き上がり、思わず泣きそうになる。

「本気で恋したときは、イイ女になろうとしないでね」

別れ際、綾子はそう言って恵梨香を見送ってくれた。

その言葉が、妙に心に引っかかっている。

確かに彼女の言う通り、と思うところがあったのだ。イイ女でいれば、きっとそのうち自分の大切さに気付いてくれるだろう。そんな期待を胸に、今まで恋をしてきた。

しかし、それが今まで上手くいった試しはひとつもない。

もしも上手く行っていたのだとしたら、今頃もっと幸せな毎日を送っていたはずだ。

しかし、既読だけつけて返信もせずに放置していたところ、続けて壮太からメッセージが届いたのだ。

―来週には落ち着くから、どうしても伝えたいことがあるんだ。会って直接話したい。14日はあいてる?

いつもは短文で細切れのメッセージしか送ってこない壮太が、焦ったように長文の、それも日付指定までされたメッセージを送ってくれたのだ。

読み返す度に、先ほどの憂鬱が吹き飛んでゆくのがわかる。

そして7月14日、恵梨香は壮太にある場所へと呼び出されたのだ。

そこは、2人が初めて心を許し、語り合ったあの砂浜だった。

「待たせて、本当にごめん。あの日、恵梨香の言葉に気付かされたんだ。俺は恵梨香と、適当に付き合ってるわけじゃない」

そう切り出した壮太は、グイっと恵梨香を抱き寄せる。そして思いもよらなかった言葉を口にしたのだ。

「恵梨香、結婚しよう。君がいない人生なんか、考えられないよ。」

▶Next:7月8日 月曜更新予定
J・ミナトによる、2019年の12星座下半期の運勢まとめを公開!

<魚座について>

英語名:Pisces
エレメント:水
誕生日:2/19〜3/20

・優しくて情にもろい
・空気を読む
・適応能力が高い
・恋をすると相手に染まる