日韓社会で抑圧された中年女性ふたりの愛。韓国クィア映画『ユンヒへ』に監督が込めた想い
韓国の地方都市で娘のセボムと暮らすシングルマザーのユンヒ(キム・ヒエ)と、小樽で伯母のマサコと暮らす日本人女性ジュン(中村優子)の20年越しの再会──現在35歳のイム・デヒョン監督は本作に寄せたコメントで「男性中心的な社会秩序が強固に成立した国で生きてきたという点」で日本と韓国の女性には共通点があり、本作では「東アジアの女性たちが互いに連帯し、愛を分かち合う姿を見せたかった」と語る。
※本記事には一部本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
■1986年生まれの監督が、少し上の世代のクィアな恋愛映画を撮った理由
「私はいつも中年に対して高い関心を持っていました」と1986年生まれのイム・デヒョンは語る。
「理由は単純で、私もいつかは歳を取って中年になり、老年になるからです」
余命宣告を受けた父親が、疎遠だった映画監督志望の息子と共に、長年の夢だった映画制作のための旅に出る様を描いた長編デビュー作『メリークリスマス、ミスターモ』(2016)に続き、『ユンヒへ』もまた中年の主人公が過去を顧みる物語である。今回は母と娘の関係に焦点を当てているが、どちらも冬の旅を通して、親子関係の回復を描いている点でも共通するだろう。
「韓国には『コンデ』という言葉があります。『気難しく説教臭いわからず屋の大人』という意味ですが、いまの若者は中年に対して、そのように蔑んだり、あるいは会話をするのを避けたりする傾向があります。
もちろん、なかには尊敬できない大人もいますが、学ぶところの多い中年の人たちもたくさんいると思います。私よりも上の世代は、いま以上に秩序のない社会を生き抜いてきた方々です。もっと差別が激しかった大変な苦しい時代を生きていた人たちなので、若い人たちが学ぶべき点もたくさんある世代だと思っています」
近年、『私の少女』(2014)、『恋物語』(2016)、『お嬢さん』(2016)、『Fantasy of the Girls(英題、2016)』、『はちどり』(2018)、『アワ・ボディ』(2018)、『最善の人生』(2020)とレズビアニズムを描く、あるいはレズビアン・セクシュアリティを取り上げ、さまざまな女性同士の関係を見つけようとする映画が韓国でも増えている。『ユンヒへ』は、その系譜のなかでもまだ類を見ない、中年女性のクィア映画である。典型的なカミングアウトの物語でも恋に落ちるまでの物語でもなく、かつて愛し合ったふたりの再会の物語を儚い雪景色のなかでナチュラルに綴る。
「私たちよりも前の世代の性的マイノリティーを描くときに、私が描くことができる範囲はあまり多くないと考えていました。その数少ない選択肢のなかから今回このような映画をつくって、正しかったと思っています。
『ユンヒへ』は、いま現在燃え上がるような恋や愛を描いた映画ではなく、過去の一時期、お互いに強く愛し合っていた人たちの物語です。以前の世代のレズビアン──レズビアンだけでなく、性的マイノリティーの人たちは、さまざまな抑圧や差別を受けていました。その実態がどういったものだったのかを描きたいと思い、自分なりに悩んで、いろいろ思いを巡らせてつくり上げたのがこの映画です。
